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第51話

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「サーヤ、準備はできましたか?」
 嬉しそうにバッグを抱えたティルが、玄関先でサーヤを待っている。中にはレジャーシートと沙彩の好物が詰まっており、早起きしたティルが準備していたものだ。
「いいんだけどさ、いいんだけど。この格好、やっぱりちょっと恥ずかしいよ」
 沙彩は青いワンピースに、首から滴型のペンダントを下げていた。初めて二人で街へデートした時と、同じ服装だ。
「持ってきておいて良かったです」
「いや……うん、私にはタイムパラドックスを解き明かす脳はないから、突っ込まないでおくわ」
 ティルはと言えば、丈の長いゆったりとしたシャツに、同じくゆったりとしたパンツを履き、ダークエルフ然とした格好をしている。
「私はティルがエルフにしか見えないんだけど、周りの人にはどう見えてるの?」
 ティルは目をパチパチと開き、首を傾けた。耳下に切り揃えられた前髪が、サラリと落ちる。
「そうですね、耳が丸く見える程度ですよ。サーヤとお揃いです」
「いや、全人類とお揃いだから」
「いいえ、私はサーヤの耳しかしりませんから、サーヤと同じ耳をしてますよ」
「えっまじで?!あー、まあ耳が同じかどうかなんて、みんな分かんないか」
 他人の耳をそこまで観察する人間なんて、ほとんどいないだろう。
「さあ、行きましょう」
 出された手を握り、歩き出す。行先は、電車に乗って数駅先の大きな公園だ。
 今日は天気も良く暖かい。
「はー、もうお腹空いた」
 お腹がキュルキュルと鳴いている。
「サーヤは昔から食いしん坊でしたからねえ」
「ティルのご飯が美味しいからねえ」
 そう言うと、ティルが自慢げに笑った。
 公園の中では、家族連れや子ども達、アウトドアをしにきた若者、散歩に来た老夫婦、それぞれが楽しそうにしている。
「どの辺にする?」
「あの大きな木のそばにしましょうか」
 ティルの家とは比べものにならないけれど、そこそこ大きな木の下にレジャーシートを敷いた。
「ティルのお家って、今どうなってるの?」
「エランドが管理してますよ」
「……あっ、花冠卸してたお店の!元気?」
 彼はティルと同じダークエルフだった。今思えば、あそこは一等地にある高級サロンだったのだろう。
「エランドのことは気にしなくていいです」
「ちょくちょく嫉妬するね」
「サーヤが意識を向ける全ての生き物に嫉妬していますよ」
 それは怖すぎる。
「もうちょっと、心に余裕持とうよ」
「サーヤに関しては難しいですね」
「正直だな……」
 レジャーシートに並んで座り、ティルに渡されたお茶を飲んで一息ついた。

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