45 / 53
第45話
しおりを挟む茂みから抜け出ると、沙彩は駆け出した。
缶蹴りをしていたのに、うっかりサバイバル気分で山の中を楽しんでしまっていた。誰かがもう缶を蹴ってしまっているかもしれない。
全速力で駆け下りていると、胸元でシャラシャラと何かが揺れている。
ああそうだ、これは前に大切な人からもらった……
「サーヤ、サーヤ!」
呼ばれる声に目を覚ますと、泣きそうな顔で自分を見下ろすダークエルフがいた。
耳の下で切りそろえられた髪が揺れる。
「……ティルの髪が短くなってる」
長くてサラサラの明るい髪が好きで、よく編み込んだり結ったりしていた。
「サーヤ……まさか」
「もう花嫁さんセット、似合わないね」
ティルのきれいな目から、大粒の涙が後から後から零れ落ちて、沙彩の頬を濡らす。まるで自分が泣いているみたいに、首筋へ伝った。
「サーヤが作るなら、何でもつけます」
「もう花冠を作る年じゃないよ」
歳の割にぐずぐずと泣き出すダークエルフの頭を抱えて、よしよしと慰める。
どうして忘れていたんだろう、あんなに大切な人だったのに。
「置いていったりして、ごめんね」
腕の中のティルが、ふるふると首を振る。
「私が力を使ったからです。サーヤのせいではありません」
沙彩の腰にティルの腕が周り、強く抱きしめられた。
本当は寂しがりなのに強がりなティルは、自分がいなくなってから、どれだけ孤独を抱えただろうか。
柔らかな髪に指を通し、何度も頭を撫でる。
「サーヤ、ずっとあなたに会いたかった……」
顔を上げたティルの薄い唇が、沙彩の唇に触れた。
「愛してます、サーヤ」
ずっと聞きたかった言葉だった。
沙彩の心は、あの日々を思い出すように甘く痺れる。
触れ合うだけの優しい口づけは、徐々に深く甘くなり、お互いの舌が絡み合った。
息継ぎの合間を縫って、沙彩も気持ちを言葉に変える。
「私も、ずっと大好きだったよ……」
ティルが負う孤独を癒し、幸せにしたかった。それが自分にはできると思っていたから。
だけど、十数年も悲しい思いをさせてしまった。今からでも間に合うだろうか。時を越えて、想いの熱が高まっていく。
ティルの唇が離れると、名残惜しいとさえ思う。
「サーヤ、今更ですが体調はいかがですか。私がその…加減ができなかったせいで、のぼせてしまったようなのです」
ふと自身が裸のままベッドに寝かされていることに気がついた。そして、先ほどまでの情事を思い出し、顔から爪先まで真っ赤に染まった。
「ティルのばか!!」
1
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
続・上司に恋していいですか?
茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。
会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。
☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。
「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる