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第43話

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 気分が高揚してきたティルは、抱きしめたままの愛し子に頬擦りをし、髪にキスを落とした。
「わっ?!」
 腕の中でびくりと動いたのにも構わず、小動物や幼子を可愛がるように撫でる。
「んっ、ティル!!」
「おや、嫌でしたか」
「いっやじゃ…ないけど…!ないけど!」
 黒髪の隙間から覗く、丸くて愛らしい耳が赤くなっている。小さい子どものように接されて、恥ずかしいのかもしれない。
「今とても甘やかしたい気持ちなのです」
「なんで?!」
「可愛いからですね」
「うっ……」
 小さく呻くと、そのまま黙ってしまった。
 抜け出す素振りもないため、ティルは思う存分サーヤを甘やかした。
 翌日も、ティルはなぜかサーヤを撫でたり、抱きしめたり、甘やかしたくて仕方がなかった。今までも可愛いし大切に思っていたが、ここまで強く行動に移したのは初めてだ。
 ティルは思うまま行動し、たまにサーヤに怒られ、やりすぎたのかポカポカと叩かれることもあった。
 しかし、それらも含めて全てが愛らしく、ティルは毎日が幸せだった。
 サーヤと出会ってからは楽しいことばかりで、サーヤは神が与えた幸福なのかもしれないと思った。
 

「ティル、ちょっと出かけてくるね」
 サーヤがそう言って、家を出てから数時間が経ち、もうすぐ日が暮れるのにも関わらず、未だ戻ってくる気配がない。
「どうしたんでしょう……」
 普段なら、灯篭すらない真っ暗な木々の中では危険だとわかっており、日が暮れる前に帰宅している。
 ティルは胸騒ぎがして、家を飛び出した。
 巨木の周りを見ても、花畑に行っても、姿がない。小動物達に聞いても、今日は見ていないと言う。
 動悸がし、呼吸が浅くなる。
 まさか、一人で街へ行った訳ではないだろうか。
 焦ったティルはひとっ飛びで街へ下り、エランドの店へ向かった。
 閉店間際のエランドを捕まえると、見ていないと答える。
「わざわざここへ来るより、自分の力を使って見ればいいのでは?」
 ティルは言葉に詰まった。
 今まで一度も、力を使ってサーヤを見たことはない。使わなくても、そばにいていつでも確認できたからだ。
「そんな死にそうな顔をするくらいだったら、すぐに安否確認をしたらいい」
 そう、エランドの言う通りだ。
 しかしティルは、力を使わずに街まで来た。力を使って確認することはできるが、もしティルの最悪の予想通りになってしまっていたらと思うと、怖くて力を使うことができない。
 でも今は一大事だ。
 サーヤが怪我をして動けなくなっていたら、そう考えただけで身震いが起きる。
 ティルは急いで家へ戻り、青い水をたたえる湖へとやって来た。
 ふう、と息を吐き、深呼吸をしながら集中する。
 頭の中でサーヤの名前を呼び、湖に向かって手をかざすと、湖全体が青白く光り始める。
 投影された力により、湖がスクリーンのように映像を映し出した。
「わーい、餃子美味しい!」
 幼い頃のサーヤが、美味しそうに夕ご飯を食べているところだった。
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