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第42話

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 それから、昔話を聞きたがるサーヤと話したがるエランドの邪魔をしつつ、賑やかな時間を過ごした。
 サーヤが誰かと話すのを見るのは初めてだったから、だと思うが……ティルはどうしようもなく、エランドに嫉妬をした。サーヤの笑顔も、向ける瞳も全て自身に向いて欲しいと、渇望してしまう。
 エランドの店を見て、茶葉を買い、まだ街を歩きたがるサーヤの腕を引き、青い湖のある家へと帰った。
「もうちょっといたかったのに!」
 ぷりぷりと怒るサーヤが、リビングダイニングのソファにバタリと倒れ込む。
「家も遠いですし、早めに帰らないと遅くなりますから」
 サーヤの隣に座ると、編んだ髪をほどいて、緩いウェーブを描いた一束を、指にくるくると巻き付ける。
「せっかく……二人でお出かけだったのに」
 消え入りそうな声に、ティルはそっとサーヤの頭を撫でた。
 この声は知っている、泣き出す寸前の声だ。だが、どうしてサーヤが泣きそうなのか、ティルには分からない。
 サーヤの体を抱き起こし、自身の膝の上に抱き込む。やはり、サーヤの深い色をした瞳は潤んでいた。
「そんなに街に行きたかったのですか」
 若い女性には、周りに自然しかない環境では辛いのかもしれない。
 もっと綺麗な服や、可愛い雑貨を買い物したり、きらびやかな街並みを歩いて遊びたいのではないか。ティールームでお茶を楽しんでいた女性グループのように、楽しい友人がティルの他にもいたらいいのかもしれない。
 でも、ティルには耐える自信がなかった。
 あの日、初めて出会った日。
 サーヤが友達になると言ってくれたから……
 ティルは胸の奥がドクンと脈打ち、強い痛みを覚えた。
「家の周り以外で、ティルと遊びに行くの初めてだったから」
「え?」
 自身の動悸を抑えようとして、聞き間違えたのではないかと思った。
「せっかく二人で遊びに行ったのに、すぐ家に帰って来るのもったいないじゃん」
「……街に行きたかったんですよね?」
 サーヤの顔を覗き込もうとすると、顔をそらされた。
「そうだよ。いつもティルがどんなとこで、何してるのかとか、知りたかったから」
「私のことを?」
「……ティルの知り合いがどんな人なのか、知りたかったし」
 ティルはサーヤのお腹に手を回し、ぎゅうっと抱きしめた。
「な、なに?!」
「いえ、私の勘違いでした」
 街へ行きたいと言い出したサーヤを反対したのは、危機感だけではなかった。正しくは、自分から離れていってしまうかもしれない、他の誰かに奪われてしまうかもしれない、自分がどれだけ矮小でつまらないかを知られてしまうかもしれない、そういうことばかりを考えてしまって、怖かったのだ。
「職場見学みたいなものってことですね」
 サーヤは自分の仕事ぶりを知りたかったのだろう。
「え、いやちが」
「いいんですよ。私は、サーヤの友人であり保護者ですからね」
 良かった、自身の愛し子は巣立ちたかった訳ではないのだ。

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