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第34話
しおりを挟む志信の先輩がテーブルに置いてあった未使用の割り箸で、皿の上の肉を食べた。
ー私が持ってきたお肉ー!
「ねえ、東雲さんて今フリーなんでしょ?」
勝手にどんどん食べられて皿の半分くらいに減り、四葉の胸には沸々と殺意が沸いてきている。
「あー、はあ、まあ。」
肉の焼き加減まで指定して用意してもらったのに、直属でも何でもないただのフロアが一緒なだけの男に、こんな仕打ちをされなければならないのか。
「じゃあじゃあ、俺とどう?」
ーお断りだ。
「今は誰かと付き合うって考えてなくて、一人が良いんですよね。」
「えー!一人って寂しくない?!俺なら呼んでくれたらいつでも駆けつけるし、毎日一緒にいるよ!」
こんなに人を不快にさせてることに気づかない人間とは、一分一秒と一緒にいたくない。
「フットワーク軽いんですね。」
「そうなのそうなの!最近さ、友達とボルダリングやったり、フットサルとかやってるんだけど、東雲さんもおいでよ!」
全く話が噛み合っておらず、四葉の不快指数は上昇中。
志信の先輩は構わず話を続けている。
四葉は聞いている振りをして、ウーロン茶を飲み干した。
ーつまんない、さっさと帰りたい。
比較的仲のいい同期の女子達は不参加で、だから四葉は一人でいたのだが。自分の好きに食事をするつもりが、厄介な奴に捕まってしまった。
「あ、東雲さんグラス空じゃん。すみませーん!」
通りすがりの給仕スタッフのトレーから、ビールジョッキを二つもらい、テーブルに置いた。
「ま、飲んで飲んで!」
ついに四葉の怒りが津波を起こした。
スッと椅子から立ち、ニコリと微笑む。
「お肉足りないから取ってきますね。」
「ありがとう、よろしくー!」
ーテメエの分じゃねえよ。
ちゃんと話したことは無かったが、こんな人間なら今後も話さなくていいだろう。得ることは何もない。
四葉はスタッフに焼き加減をお願いし、肉の香りを目一杯吸い込んで気持ちを落ち着けた。
二皿山盛りで肉を持ち帰ると、四葉が座っていた席に志信がいた。
「よお、東雲。」
何故だかホッとした自分がいた。
「東雲さーん!ごめん、郷田がビール飲んじゃってさあ。新しいの頼むから。」
「いえ、私は飲めないので。自分で取ってきますから大丈夫です。」
「そうなの?!最初に言ってよー!」
ー知らんがな。
瞼がヒクつきそうになった。
ソフトドリンクエリアでウーロン茶を取り、志信の向かいに座る。
前に持ってきていた皿はほとんど空になっていたが、持ってきたばかりの皿には手がつけられていなかった。
「先輩、砂肝ですよ、砂肝。大量にあるんでどうぞ。」
「気がきくじゃん郷田ー!」
ドンと盛られた砂肝を先輩の前に置いた志信が、ビールジョッキを空けながら四葉を見た。
気にせずに自分のを食べろということだろう。
四葉は焼きたての肉を口いっぱいに頬張った。
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