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第26話
しおりを挟むかぶりつきたいとは、このことだ。
くるっとした和毛が四葉の動きに合わせて揺れている。
「じゃ、脱いで。」
そんなことを考えていたから、一瞬この場で始めるのかと思ってしまった。
「郷田?」
訝しげに見上げられ、慌てて頷く。
シャツを脱ぎインナーのみになった姿を四葉に晒し、いつもしてることと同じはずなのに、なんとなく面映ゆい。
渡されたステテコを履いて立つと、四葉が浴衣を合わせてくる。
「うんうん、丈もちょうど良いじゃん。」
「何でステテコとか浴衣あんの?」
「おばあちゃん家が呉服屋だったからー。」
「へえ…」
「腕通して。」
後ろに腕を回されて、抱きつくように浴衣を着させられた。手慣れた様子で前を合わせ、紐で縛っていく。
「苦しくない?」
「平気。」
ふわふわと揺れる髪が肌に触れて、くすぐったい。着付けをされているだけなのに、指先が落ち着かなくて四葉の頭に触れる。
「ん?ゴミでもついてた?」
何も疑うことのない様子に、変な罪悪感。
「あー…うん、取れた。」
ーセックス以外でキスをしたら、こいつはどう思うんだろう。
試してみたくて、仕方なくなった。
パッと見上げた四葉の頬を指でなぞる。
「何?そんなに糸くずついてる?」
「…えーと。」
「さっきコロコロしたからかなあ。はい、後ろ向いて。」
雰囲気クラッシャー。
というより、鈍感なんだろう。
今まで付き合ってきた女達は、そういう雰囲気に敏かった。見つめ合うだけで良かったから。
シュルシュルと音をさせて帯が結ばれていく。
「はい、できた!」
背中をパンッと叩かれて、姿見の前に立たされる。
紺地に白縞、透かしの入った白い帯で落ち着いた印象の合わせ方だった。
「うん、似合う似合う。」
満足そうに隣で笑っている四葉を見て、指先がソワソワする。
「財布とスマホ、どうすりゃいいの?」
「ああ、信玄袋あるよ。下駄と扇子も。」
「何それ?」
「巾着のこと。扇子は帯に挿してっと。」
勝手に挿し込み、巾着を押し付けてきた。
「いいじゃん、様になるねえ。さすがやり手営業マンは違うな。」
「そこ関係なくね。」
適当なことを言いつつ、四葉は自分の荷物が入っているであろう巾着を持った。
「早く、荷物入れ替えて。お腹空いたから、屋台のたこ焼き食べるんだよ。」
志信は言われるがまま財布とスマホを巾着に入れて、急かす四葉に追われて部屋を出た。
日が伸びたから、夜でもまだ明るい。
湿った空気が汗をかかせる。
電車を降りて駅を出ると、たくさんの人々が会場へ向かって歩いていた。
「すげえ、人多い。」
「あーお腹空いた。早く屋台に行きたい。」
「酒飲むなよ。」
「飲まないわよ!」
いつも通りの会話、憎まれ口を叩いて、笑って、歩いているだけなのに。
異常に四葉が可愛く見える。
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