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第10話
しおりを挟む「ってことで、よろしく。」
いい笑顔で引き継ぎされた志信は、どんよりしていた。
「…引きます。なにこの案件。」
「これでも、俺がテコ入れしまくってマシになった方な。ま、何かあったら相談して。」
「はあ、了解です。」
野崎は嬉しそうにダブルピースをする。
「東雲さんも、何かあったら俺に声掛けてくれていいから。」
「頼りになります。」
ニコッと笑って返す四葉に、志信は胃のむかつきを覚えた。
「東雲、俺のとこに移動して来いよ。いちいち内線かけるの面倒。」
「フリーアドレスなのに、何であんたに固定されなきゃなんないのよ。在席管理見ればどこにいるか分かるでしょ。」
「近くにいないと、業務報告が密にできないだろ。」
「まとめてメールしなさいよ。」
二人の応酬に、野崎がニヤつく。
「え、何、二人って仲悪いの?」
「こいつが突っかかって来るだけです。」
四葉を見れば、既に柔和スマイルだ。
「いえ、ただの同期で良いも悪いもないですよ。」
ーそのただの同期で処女卒業して、童貞まで卒業しようとしてんのは誰だよ。
喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
「どんまい、郷田。」
満面の笑みで肩を叩かれ、知らないって幸福だな、と思った。
やり切った野崎は、意気揚々とフロアを出て行った。
「東雲、とりあえず今持ってる俺の案件を一通り説明するから。いつ時間取れる?」
「うーん…2時間後。」
「業務終了時間かよ。」
「もしくは来週。」
「はあ?」
四葉は苦々しい顔で溜息をついた。
「あのね、私は他にもアシスタントしてるわけ。郷田についたのだって上司命令だから。文句あるなら採用担当に言って、アシスタントを増やしてもらってよね。」
そう言われてしまうと、何も言えない。
自分が希望したからアシスタントを担当することになって、四葉の仕事量は倍増したのだ。
「じゃあ、週明け。」
「了解、引き継ぎ時間組み込んでおく。」
四葉は志信の付箋を二枚取って、一枚は引き継ぎと書いて自分の手帳に貼り、もう一枚には時間厳守と書いて志信の手帳に貼った。
「こっちも忘れないでよ。」
くりんとした目元が細まり、垂れた一房の髪を耳に掛ける。
ごくりと、喉が鳴った。
手帳の上で四葉の指先が示したのは、童貞卒業を約束した日。
「…忘れてねえよ。」
「それならいい。」
じゃあね、と指先を振って席を立った四葉を、しばらく無言で眺めていた。
ーどうやって忘れろって言うんだ。
あの細くて小さい女に、突っ込まれる自分なんて想像出来ない。
焦りと不安とほんの少しの期待が、志信の胸中を渦巻いていた。
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