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第15話

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「江東さん、大丈夫?もしかして、あんまりアルコール強くなかった?」
小宮山さんに心配されて首を振る。
きっと、黙って紅子さんだけを見つめていたからだろう。
焼き鳥を頬張る紅子さん、ジョッキを空にする紅子さん、隣の男性にちょっとだけしなだれ掛かる紅子さん、大きな口を開けて笑う紅子さん、どれもこれも可愛くて新鮮で、見ているだけで幸せだ。
「でも顔だけじゃなくて首まで赤いし。」
そうか、それはちょっと危ないかもしれない。
学生時代、女の子達に飲まされ過ぎて同じ状態になり、危うく服を剥かれてしまうところだったことがある。
「…お手洗い行ってきます。」
立ち上がるとクラリとした。
「心配だから、俺も行くよ。」
座敷を出てお手洗いにたどり着くと、鏡には胸元まで真っ赤になった自分がいた。
うん、これはさすがに飲み過ぎた。
紅子さんはいるだけで美味しい肴だから、お酒がすすんでしまう。
用を済ませて手を洗い、水の冷たさに少しスッキリした。
お金だけ置いて帰ろうかな…
ドアの向こう側で、話し声が聞こえる。
「だから、俺が飲ませたんじゃないってば。」
「前科があるでしょ、前科が。」
「いやいや、あれだって向こうがついて来たから、優しくしただけだし。俺のせいじゃないから。」
口論になっているっぽい。
ものすごく、出にくいんですけど。
なぜトイレの前で始めるんだ。場所を変えてくれ。
仕方なく、少し待ってみるかと便座の蓋の上に座った。
「あのね、これ以上そういうことするなら、こっちにも手段があるわよ。」
ぼんやりと聞いていると、紅子さんの声に似ている気がした。
「は?いい女を周りに侍らせておいて、寝る気もないオカマが何言ってるわけ?正義漢気取り?向こうが俺を選んでるんだから、文句つける方がおかしいって分かれよ!」
あー、待って…話の流れ的に紅子さんだよね?
そして怒鳴ってるの小宮山さんじゃん?
「つうか、まじキモいんだよ。俺に色目使ってんなよな!いくらそんなことしても、お前となんて寝たくねえし。オカマの癖に調子乗ってんじゃねえよ!」
小宮山…お前絶対に許さん。
人として言っていいことと悪いことがある。
ふつふつと煮えたぎる怒りが、ドアを開けさせた。
出てきた私に、小宮山さんがハッとする。
「あ、江東さん…大丈夫?」
やっぱりそこには紅子さんがいて、傷ついた顔をしているように見えた。
「ご心配をおかけしてすみません。やはり体調が良くないので、帰ろうと思います。」
「送るよ。」
「いえ、結構です。これお願いします。」
財布から五千円札を取り出して渡し、立ちつくしている紅子さんの腕を引っ張り駆け出した。
「えっ、聖ちゃん?!」
居酒屋を飛び出し、大通りに出るまで無言で走った。

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