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しおりを挟む移動しようか、と言った倫音さんに連れて来られたのは、図書館脇にある木陰のベンチ。涼しいのに誰も来ないのは、あまり目立たない場所にあるからだった。
倫音さんが、ペットボトルのお茶を飲んで足を組み替えたような気配がした。
「日晴くんてさ、何がしたいの?」
昨日、凍りつくような声で告げられのは、死亡宣告だと思った。足元から血の気が失せていき、視界がくらりと揺れ、声を出すことが出来なかった。
それと同じ声で問いかけられると、ヒュッと気道が締まる。
「私のこと守るって、大学も同じところに入って、バイト先まで送迎してさ」
そう、それは俺が絶対に譲れないことで、その為だけに起業して、父親に認めてもらい、車も用意し、受験もした。
「友達の域、越えてないかな?アメリカだとそれくらいは普通なの?」
人それぞれだとは思うけれど、アメリカで付き合っていた女性には、そんなことしたことなかった。
「私は慣れてないから、そういうことされると勘違いするよ。優しくて、紳士で、私のことを変な目で見ないし、いつも助けてくれる落ち着いたかっこいい男の人がそばにいたら、好きになるに決まってるじゃん」
ドクン、と心臓が痛いくらいに脈打った。
「日晴くんは親切でしてくれてたのかもしれないけど、ずるいよね」
ペットボトルのキャップを外し、ゴクリと液体を飲み干す音がする。
「悩んで、思い切って行動してみたけど、空回りしたみたいだし。それなら、初めから私に優しくなんてしなきゃいいのに」
しばらく無言が続いた後、彼女は大きなため息を吐いた。
「やっぱり、私と話す気はないみたいだね」
彼女はベンチに置いていたバッグを掴み立ち上がった。
「私、守られなきゃ生きていけない女じゃないし、もう気にしなくていいから」
ぐらりと揺れて足元が崩れ落ちていく。
「何?」
突き刺すような冷たい声に顔を上げると、無意識に彼女の腕を掴み、引き留めていた。美しい彼女の強い瞳が、じっと俺を見つめる。
子どもの頃に見た、あの夜の、嫌がる彼女を引っ張っていた男の子が、自分と重なる。
「ご、ごめん」
パッと手を離すと、倫音さんの眉が顰められた。
「何に謝ってるの?」
貫くような鋭さが、彼女を相当怒らせていることを如実に伝えている。
「腕を引っ張っちゃって…」
「は?」
癇癪なんかじゃない、冷徹さを持った怒りが体にビリビリと響いてくる。
「そっち?」
あまりの玲瓏さで、見上げられているのに、見下ろされているような気分になる。
「俺は……」
素直に気持ちを吐き出して、いいのだろうか。言い訳にならないか。
かっこ悪いところを見せたくないのに。
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