上 下
79 / 108

27-1

しおりを挟む


 移動しようか、と言った倫音さんに連れて来られたのは、図書館脇にある木陰のベンチ。涼しいのに誰も来ないのは、あまり目立たない場所にあるからだった。
 倫音さんが、ペットボトルのお茶を飲んで足を組み替えたような気配がした。
「日晴くんてさ、何がしたいの?」
 昨日、凍りつくような声で告げられのは、死亡宣告だと思った。足元から血の気が失せていき、視界がくらりと揺れ、声を出すことが出来なかった。
 それと同じ声で問いかけられると、ヒュッと気道が締まる。
「私のこと守るって、大学も同じところに入って、バイト先まで送迎してさ」
 そう、それは俺が絶対に譲れないことで、その為だけに起業して、父親に認めてもらい、車も用意し、受験もした。
「友達の域、越えてないかな?アメリカだとそれくらいは普通なの?」
 人それぞれだとは思うけれど、アメリカで付き合っていた女性には、そんなことしたことなかった。
「私は慣れてないから、そういうことされると勘違いするよ。優しくて、紳士で、私のことを変な目で見ないし、いつも助けてくれる落ち着いたかっこいい男の人がそばにいたら、好きになるに決まってるじゃん」
 ドクン、と心臓が痛いくらいに脈打った。
「日晴くんは親切でしてくれてたのかもしれないけど、ずるいよね」
 ペットボトルのキャップを外し、ゴクリと液体を飲み干す音がする。
「悩んで、思い切って行動してみたけど、空回りしたみたいだし。それなら、初めから私に優しくなんてしなきゃいいのに」
 しばらく無言が続いた後、彼女は大きなため息を吐いた。
「やっぱり、私と話す気はないみたいだね」
 彼女はベンチに置いていたバッグを掴み立ち上がった。
「私、守られなきゃ生きていけない女じゃないし、もう気にしなくていいから」
 ぐらりと揺れて足元が崩れ落ちていく。
「何?」
 突き刺すような冷たい声に顔を上げると、無意識に彼女の腕を掴み、引き留めていた。美しい彼女の強い瞳が、じっと俺を見つめる。
 子どもの頃に見た、あの夜の、嫌がる彼女を引っ張っていた男の子が、自分と重なる。
「ご、ごめん」
 パッと手を離すと、倫音さんの眉が顰められた。
「何に謝ってるの?」
 貫くような鋭さが、彼女を相当怒らせていることを如実に伝えている。
「腕を引っ張っちゃって…」
「は?」
 癇癪なんかじゃない、冷徹さを持った怒りが体にビリビリと響いてくる。
「そっち?」
 あまりの玲瓏さで、見上げられているのに、見下ろされているような気分になる。
「俺は……」
 素直に気持ちを吐き出して、いいのだろうか。言い訳にならないか。
 かっこ悪いところを見せたくないのに。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話

神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。 つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。 歪んだ愛と実らぬ恋の衝突 ノクターンノベルズにもある ☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界

レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。 毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、 お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。 そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。 お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。 でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。 でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

完結 R18 媚薬を飲んだ好きな人に名前も告げずに性的に介抱して処女を捧げて逃げたら、権力使って見つけられ甘やかされて迫ってくる

シェルビビ
恋愛
 ランキング32位ありがとうございます!!!  遠くから王国騎士団を見ていた平民サラは、第3騎士団のユリウス・バルナムに伯爵令息に惚れていた。平民が騎士団に近づくことも近づく機会もないので話したことがない。  ある日帰り道で倒れているユリウスを助けたサラは、ユリウスを彼の屋敷に連れて行くと自室に連れて行かれてセックスをする。  ユリウスが目覚める前に使用人に事情を話して、屋敷の裏口から出て行ってなかったことに彼女はした。  この日で全てが終わるはずなのだが、ユリウスの様子が何故かおかしい。 「やっと見つけた、俺の女神」  隠れながら生活しているのに何故か見つかって迫られる。  サラはどうやらユリウスを幸福にしているらしい

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

処理中です...