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しおりを挟むそんな目まぐるしい毎日を送っていたある日、俺は父の会社の創立記念パーティに出席していた。役員でもなければ社員でもないため、壇上に立たされることはないが、あちこちに挨拶をして疲れていた。
お手洗いの帰り、休憩がてら廊下のソファに腰掛けスマホを確認すると、ギョッとするようなメッセージが届いていた。
『日晴くん、どうしよう』
「え、何が?」
彼女からのメッセージは、中途半端なところで終わっている。
『どうしたの?何かあった?』
返信してしばらく待ってみたが、既読がつかない。少し抜けたところのある彼女のことだから、きっと途中で間違えて送信してしまったに違いない。
でも、一度気になるともうダメだった。何かあったんじゃないかと、心配で仕方ない。いてもたってもいられず、会場内の父に声を掛け、彼女のシフトを確認してバイト先へ向かった。
慌てて飛び込んだ先には、笑顔で仕事をしている彼女がいた。
久しぶりに会う彼女は、キラキラとした光を身にまとい、眩しいくらいに輝いていた。夜明けを照らす、太陽のようだ。
ほんの少し会話をしただけなのに、夢みたいに幸せで、どうして離れなければいけないのだろうと辛くなった。
何とかして時間を作り、もう一度会う約束を取り付けて、その夜初めて彼女を自分の車に乗せた。不審がられないように初心者マークもつけて、安全運転を心がけた。
彼女の誘いでご自宅へお邪魔することになり、かなり緊張した。事前に調べていたから知っているが、ご家族に会うのは初めてだ。どうして手土産を用意していなかったんだと悔やむ。
しかし、御尊父と御母堂はお忙しく、弟さんとお話をするのみとなった。弟さんは、かなり聡い方だろう。俺に対して、覚悟はあるのかと問いかけて来た。
覚悟なら、もうずっと前からできている。
彼女が彼女らしく生きられる世界を守る、それが俺の使命だと決めた。
だけど、彼女の部屋は結構心に突き刺さった。
あの夜、見せてもらった彼女の大切な人の写真が、変わらずに飾ってあった。もう恋心はないと言っていても、二十年以上前のポスターや写真があんなに状態よく保存されているのだ、とても大切な人なのだろう。
俺は、傷ついている場合じゃない。彼女を守るのが使命なのであって、愛されて幸せになりたい訳ではないのだから。
でも、もう一度だけ…抱きしめさせて欲しくて、許可を取った。泣きそうになるほど心が震えたけど、見ない振りをして飲み込んだ。
事業も軌道に乗り始め、受験はサクッと終わらせて、父との約束も守り、やっと彼女のそばへ戻れる季節がやってきた。
予告なしに全てを終わらせたけれど、彼女はどんな反応をするだろうか。
怒るか、驚くか、笑ってくれたら一番嬉しい。
あなたの笑顔を守りたくて、俺は生きている。
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