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しおりを挟む寒い寒い冬が終わりに向かい、そろそろ梅の花が咲く頃。日晴くんが戻ってきた。
スタッフも常連さんも喜んで迎えていたし、頻度も前と同じくらいになっている。
「倫音さん」
カップを下げるタイミングで、日晴くんが声を掛けてきた。
「何でしょ?」
連絡も取り続けているから、前よりも距離が近く感じる。
「倫音さん、今春休みだよね?ずっとシフト入ってるし」
「うん、稼ぎ時なの!」
私の返事に少し思案してから、スマホを取り出した。
「次に大学行くのって、いつ?」
スケジュールが全然思い出せない。
「えーと…入学式の翌々日にオリエンテーションだから…いつだっけ」
「うん、大丈夫。とりあえず、しばらくシフト入ってるのは分かったから。倫音さんってそういうとこあるよね」
くすくすとおかしそうに笑っている。
「え、どういうこと?忘れっぽいってこと?」
「可愛いってこと」
瞬間、カッと顔が熱くなり、慌ててカウンター奥へと駆け込んだ。一旦、冷静になりたい。
うん、こういうの日常茶飯事になってきてる。
だから、常連さん含めて店のみんなは生暖かい目で見てるのも分かってる。日晴くんも私のことを憎からず思ってるのかもしれないって、ちょっとだけ自信ついてきた…気もする。多分だけど。
「倫音さーん」
ゆったりした声で呼ばれて、チラッと目線だけ送る。
「何ですか」
今度は何を言われるんだろう……
「おかわりください」
ほっとしたような、ちょっとがっかりしたような。
「かしこまりました」
さっきバックヤードへ物を探しに行った小田さんを呼び戻し、おかわりを淹れてもらう。私は下げたカップ達をまとめて洗って片付けた。
そろそろ閉店の時間で、お客さんも日晴くんしかいない。小田さんがいつものように気を利かせてくれて、私を早めに上がらせる。
「日晴くん、お待たせ」
裏口に出ると、いつも通りに車を待機させて、私を待っていた。
「思うんだけど、駐車場代かかるよね?」
「気にしなくていいよ、運転好きだから楽しいんだ。趣味代だよ」
ニコッと笑ってドアを開け、私が乗り込むと優しく閉める。
「お願いします」
「はい」
シートベルトをするのを確かめてから、ゆっくりと発進する。
ラストまでの日、車で送迎されるのがお決まりになってしまった。嬉しいけど、申し訳なくて、でも一緒にいられるのがドキドキして、結果断る気がない。
うん、だって…運転してる日晴くん、かっこいいんだもん。
「倫音さん、次年度はどんな勉強するの?」
「んー、外国語増やそうかなって思ってる」
「留学でもするの?」
そんな大したものじゃない。ただ、もっと自分の世界を広めるのって、とても大事なんじゃないかって思った。
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