上 下
41 / 108

14-2

しおりを挟む


「気を使わせちゃったかな」
「あ…う…」
 カァッと顔に熱が集まって、何も返事ができない。
「倫音さん、隣、座らない?」
 頷くことしかできなくて、無言でそろりと隣に座った。
「やっと会えた」
 ブレンドを口に含み、ゆっくりと嚥下すると、日晴くんの喉仏が上下した。それだけなのに、なぜか耳まで熱くなる。
「困ったこととか、危ないこととか、なかった?」
「うん…」
 いつも日晴くんがそばにいるみたいに、何もなかった。
「良かった。俺、今はすぐに動けないから、心配だったんだ」
 優しさに、つい涙が出そうになって首を振る。
「気持ちだけで、嬉しい」
 日晴くんが私の方を向いて、頬杖をつく。
「倫音さん、可愛いからなあ」
「ま、まあ…私は美し可愛いから」
 どうして言われ慣れてる言葉なのに、こんなにも胸が躍るんだろう。つい顔も崩れそうになる。
「うん、可愛い。顔もだけど、中身も同じくらい可愛い」
 恥ずかしくて、泣きそうになる。
「そういうの、いいから」
「ふふふ、照れてる倫音さんが一番可愛いよ」
 心臓に悪いから、やめて欲しい!麻痺して救急車を呼ばなきゃいけなくなる!
「まだ少し忙しいのが続くんだけど…来年、あと二ヶ月くらいしたら、いつもみたいに会いに来れるから」
 日晴くんの言葉に、あと二ヶ月もあるのか…という気持ちと、あと二ヶ月でまたいつもの日々が始まるのかという気持ちが、体の中で跳ね回る。
「そうなんだ…頑張ってね」
 ああ、何でもっと気の利いた言葉が出ないの?美し可愛い顔に甘えてたせいで、語彙力が足りてない!倫音、いくら自分が世界一の造形美だからって、胡座をかいてるぞ!
「うん、ありがとう」
 それなのに、日晴くんは嬉しそうに笑った。
「ねえ、倫音さん」
「うん?」
「今日、車で来たから…お家まで送って行ってもいい?」
 ひ、日晴くんの車?!自家用車?!車内で二人きり?!失神したらどうしよう…!
「いや、かな?」
「あ、ううん、大丈夫!ありがとう!」
 全然大丈夫なんかじゃない!
「良かった…買ったばっかりだから、人を乗せるの初めてなんだ。っていうか、初めて乗せるの倫音さんが良いなって思って」
 多分きっと、日晴くんに分かるくらい、首まで真っ赤になってると思う。恥ずかしい。今すぐこの場から離れたい。
「そうなんだ…」
 本当に何も言えない。何を返せば正解なのか分からない。
「うん、そう」
 もうすぐ、閉店の時間で…きっと小田さんが戻ってきたら、締め作業をして、日晴くんの車に乗って帰るのだ。そしたら、次に会えるのは二ヶ月後で……
「日晴くん、私を送ったらそのまま帰る?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話

神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。 つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。 歪んだ愛と実らぬ恋の衝突 ノクターンノベルズにもある ☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界

レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。 毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、 お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。 そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。 お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。 でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。 でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

完結 R18 媚薬を飲んだ好きな人に名前も告げずに性的に介抱して処女を捧げて逃げたら、権力使って見つけられ甘やかされて迫ってくる

シェルビビ
恋愛
 ランキング32位ありがとうございます!!!  遠くから王国騎士団を見ていた平民サラは、第3騎士団のユリウス・バルナムに伯爵令息に惚れていた。平民が騎士団に近づくことも近づく機会もないので話したことがない。  ある日帰り道で倒れているユリウスを助けたサラは、ユリウスを彼の屋敷に連れて行くと自室に連れて行かれてセックスをする。  ユリウスが目覚める前に使用人に事情を話して、屋敷の裏口から出て行ってなかったことに彼女はした。  この日で全てが終わるはずなのだが、ユリウスの様子が何故かおかしい。 「やっと見つけた、俺の女神」  隠れながら生活しているのに何故か見つかって迫られる。  サラはどうやらユリウスを幸福にしているらしい

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

処理中です...