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しおりを挟む日晴くんがパタリと来なくなった。
最後に来た日から、二週間以上経過している。
「倫音ちゃん、連絡してないの?」
「そうですね…」
タイミングを失って、結果的に一切の連絡を取っていない。
「なんでよ?!今すぐ連絡しなよ!」
「えー…でも忙しくて来れない場合、送ったら迷惑かもしれないし」
返事が来なかったらと思うと、二の足が踏めない。
「ひょわっ?!」
高倉さんが私のジーンズのポケットを勝手に探ってスマホを取り出した。
「ほら!今すぐ、連絡して!いい?世の中にね、倫音ちゃんから連絡が来て喜ばない男はいないんだから!」
「それは暴論」
「いいから!送る!」
絶対にメッセージを送らせるという圧がすごい。
渋々、アプリを開いて日晴くんのアカウントを見る。最後のやり取りから、もう二ヶ月くらい経っていた。
なんて送ればいいのだろう。
画面を見たまま固まっていると、高倉さんが覗き込んできた。
「うっわ…現代の若者としてあるまじき連絡頻度の低さ」
「特に話すことないっていうか…会えますし」
「今は会えてないでしょ!」
それを言われて、ウッと言葉を失う。
もだもだしていると、ベルが軽やかに鳴り、 某歌劇団の男役トップのような、背が高く華やかな女性が入って来た。
「やふー!史乃様だよー!みんな元気してるー?」
張りのある威勢の良い声が響き、バックヤードから小田さんが出てくる。
「史乃、声がでかい」
「いいじゃん、今お客さんいないし!ちゃんと窓から中を確かめたよ」
「そういう問題じゃ」
「高倉ちゃん、倫音ちゃん、元気ー?!会わない間に二人とも一層可愛くなっちゃってー!」
小田さんを無視して、私と高倉さんをまとめて抱きしめる。
「史乃さん、倫音ちゃんの恋話聴きたくないですか?」
「恋話じゃないです」
高倉さんの間違った誘いに、史乃さんの目がギラついた。
「聞く聞く聞く!今日の目当てはそれだもんね!」
私の否定はまるで響かない。
史乃さんがカウンターに座ると、小田さんが何も言わずに、大きなマグカップにたっぷりと注がれたホットコーヒーを出した。カップは史乃さん専用で、普通のカップの3倍くらいの大きさがある。
「ありがと」
薄く微笑み合う二人は通じ合っていて、私の理想のカップルそのものだ。
「で、倫音ちゃん!史乃様の為に始めから事細かく話して!」
「史乃、お客さんが来たら途中で終わりになるけど」
「えっ、そんな大長編なの?!」
艶っぽい瞳が、カッと見開かれる。
「全然ですよ。変な男に何度か絡まれてるところを助けてもらって、知り合いになったんですけど、最近会えてないってだけです」
言葉にしたら、そんなものだ。
「いや、違うっしょ!史乃さん、聞いてくださいよ!うちの常連さんの日晴くんって言うんですけど、常連さんになった理由が倫音ちゃんを驚かせたいからっていう大物で!」
「ぎゃー!何それ!愛が重い!素敵なヤンデレになりそう!」
「ヤンデレって…」
日晴くんは、そんな人じゃないけどな。
爽やかで、困った人を放っておけなくて、優しくて、甘いものが好きな男の人だ。
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