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番外編
謹賀新年
しおりを挟む年越しを一緒に過ごす約束をして、ドキドキしながら駅の改札で待っている。
せっかくだから、この前買ったばっかりのニットワンピースを着てきた。
ピンクに紫と黄色と水色のぷちぷちが付いていて、すごく可愛い。胸にはハートのアップリケがついている。白いタイツにもこもこ靴下、紫のスニーカーを履いて、コートはコバルトブルー、白いマフラーを巻いて防寒している。
「当真さん、まだかなぁ。」
改札は薄ら寒くて、息が白くなる。
「明亜ちゃーん!」
カランコロンと音がした方を見ると、着物を着た当真さん、いやトーコさんが小走りにやって来た。
「寒いのに待たせちゃってごめんなさい。着付けに時間かかっちゃって。」
普段はロングのウィッグをつけているけれど、今日はボブというかおかっぱ頭という感じで、とても可愛い。コケシっぽい。
そして、着物がとても艶めいていて似合っている。
「可愛いです…すごく可愛いです。」
あまりの可愛さに泣きそう。
「ありがとう、明亜ちゃんもすっごく可愛いわよ。食べちゃいたいくらい。」
食べられちゃいたい!いや、私がその着物を剥いて、トーコさんを食べちゃいたい!
不埒な妄想をしていると、冷えた手をぎゅっと握られて微笑まれる。
「行こっか。」
「はい。」
駅から向かうのは、お寺と神社。距離を空けずに建っているから、除夜の鐘を叩けるし、初詣もできる。
たくさんの人がお参りをするのに歩いていて、夜中じゃないみたいだ。
灯籠がポツポツ灯った石畳を歩くと、トーコさんの下駄が鳴って心地よい音がする。
「なんだか、ワクワクしますね。」
「うん、私もウキウキしてる。除夜の鐘、つく?」
「トーコさんが一緒についてくれるなら。」
「やーん、可愛い!つくつく!明亜ちゃんと一緒に鳴らしちゃう!あ、でも煩悩は増えそうだわぁ。」
むぎゅっと手を揉まれて、ドキッとする。
私もさっきから妄想してるくらいなので、鐘くらいじゃ全然煩悩が去ってくれそうにない。
鐘を鳴らす列に並び、二人でくっつきながら待つ。寒い寒いって言いながらくっついてるのが、楽しい。
私たちの番になって、階段を登り二人で縄を持つ。
「せーのっ。」
ゴーン…ゴーン…鐘の音が響く。
突き終わったら、すぐに階段を降りて次の人へ順番を譲る。
「いい音ですねえ。」
「うん、大晦日って感じ。」
「煩悩消えました?」
「縄を持つ明亜ちゃんが可愛すぎて、煩悩が増えたわよ。」
「ひゃー!」
ドキドキしちゃう!
どちらともなく手を繋いで、神社へ向かう道すがらお神酒をもらって、二人で少しずつ飲む。
「うー、日本酒?アルコール強いよー。」
「明亜ちゃん、あんまりお酒飲まないものね。無理なら私が飲んじゃうから、大丈夫よ。」
「トーコさんかっこいい…!」
そっと渡すと、クイっと飲み干してにこりと微笑む。
「んふふ!」
ああ、しゅき…!
きっと漫画だったら、私の周りに花が飛んでいるだろう。
「わぁ、人がいっぱい。」
神社の境内は、参拝客で賑わっていた。
巫女さん達が忙しそうにお守りを渡したり、おみくじを渡したりしている。
列に並んでトーコさんに寄り添うと、腰を引き寄せられた。
「寒いからくっついてましょうね。」
ウィンクされてドギマギする。
腰に回った手に手を重ねて、トーコさんに身を委ねた。
「トーコさん、神様に何お願いしますか。」
「お願いって言っちゃうと叶わないって聞くけど、伝わった方が叶うこともあると思うのよね。」
「言霊みたいな?」
「うん、それ素敵ね。」
こてん、とトーコさんの頭が私の頭に乗る。
「明亜ちゃんとずーっと一緒にいられるように、努力しますのでよろしくお願いしますって言うわ。」
小さな声で、私にしか聞こえないように教えてくれた。
胸がぎゅっとする。
「嬉しいです。私も、トーコさんとも当真さんともずっと一緒にいられるように努力しますって神様に言おう。」
「嬉しい!」
いちゃいちゃしていたら私たちの番が来て、お賽銭を投げてお祈りをした。
当真さんとずっといられるように、楽しいことも辛いことも一緒に乗り越えます。だから、見守っててください。
ふと見上げると、真剣に目を閉じている当真さんがいた。
同じことをこんなに真剣な顔で願ってくれているんだと思ったら、嬉しくてくすぐったくなった。
「この後、うちに来るのでいいのよね?」
「はい、行きます!」
神社から歩いて20分くらい。話してたらすぐに着いてしまう。
なんかもったいないから、のんびり歩きたいな。
冬の宵闇の中、二人で過ごす年明けはとっても特別で、幸せな時間になった。
「トーコさん、お願いがあるんですけど。」
「なあに?」
「悪代官ごっこしたいです。」
「あーれーって言うやつ?」
「はい!私、良いではないか良いではないかって言うので!」
「アハハ!悪代官ごっこで始まる一年なんて、愉快だわ。」
「今年もよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
トーコさんがサッと周りを確認して、私の唇にキスをした。
「期待してるわ、お代官様!」
「ははは!近う寄れ近う寄れ!」
トーコさんの後頭部に手をかけて、私からもキスをした。
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