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明亜と女装男子編

10-10第四目的の達成は

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最寄駅から徒歩10分、三階建アパートの二階、階段を昇って一番奥。
「どうぞ。」
「お邪魔します。」
女装の生着替えで、ファッションショーしてもらえるかしらって思ったら、嬉しくて楽しくてワクワクしている。
伊知地さんは部屋を見渡して観察しているのか、しばらく黙っていた。
「さっきの古着屋さんみたいで、可愛いね。アメリカの子どもの部屋みたい。」
「そうなんです!そういう感じにしてます!あ、好きなところに座っててください。」
少し寒いので暖房をつけて、電気ポットでお湯を沸かす。
インスタントのラテを入れて部屋に戻ると、伊知地さんは床にぺたりと座っていた。
「あ、床冷たいですよ。クッション使ってください。」
クマ柄のクッションを渡して下に敷いてもらう。
可愛い、似合う。
キレイで可愛い人が、私の可愛い部屋で、ちょこんと座っている。すごく可愛い!
「明亜ちゃん、なんかテンション上がってる?」
「はい!伊知地さんが、可愛いので!!」
「ありがとう。」
テーブルにマグカップを置き、隣に座る。
「着替えますか?!」
「あははは!うん、着替えようか。」
袋からトレーナーを取り出して、左右を見回す。
「どこで着替えていいかな?」
「あっ、そうですよね。えっと、そしたら私がキッチンにいます。」
私の部屋で、伊知地さんがお着替えしてる…!
どうしよう、ドキドキが止まらないよ!
「いいよー!」
そっと部屋を覗くと、ロングトレーナーに生足の伊知地さんが立っていた。
丈が短くて、眩しい太ももが半分くらい見えている。鼻血出そう…!
「可愛い…可愛いです…!」
「んふふ、ありがとう。」
この感じなら、きっとあれが似合う。
クローゼットを漁り、お目当てのものを取り出す。
細いから私の服でも着られるはずだ。
「これ、履いてください。」
「えっ?」
「大丈夫、伊知地さん細いから履けますよ!」
「あ、うん…」
そそくさと部屋を出て待っていると、すぐに呼ばれた。
「やっぱりー!似合うと思ったー!!」
ロングトレーナーの下に履いてもらったのは、青地にウサギの柄のパジャマズボン。
「本当に?」
「本当!伊知地さんはメイクがキレイめお姉さんだから、今合わないだけ。」
「メイク変えたら合うの?」
「うん、絶対!」
「じゃあ、今度挑戦してみる。」
少しはにかんでもじもじしていたけれど、その理由は初めてのジャンルの服を試したからだと思ってた。
着て欲しい服を色々出して、そのまま伊知地さんファッションショーに流れ込んだ。
ブリブリのワンピースや、プレッピーなチェックプリーツスカート、ダサニット、グランパシャツにキャップなど。
私がオーバーサイズやゆったりシルエットを多く持っていたのもあり、背があるから丈が短くなるけど細いから着られるものが結構あった。

気がつけば、とっぷりと日が暮れていた。
「わっ!もう7時半?」
「早いわねぇ、楽しいから気がつかなかった。」
「ごめんなさい、伊知地さん。時間大丈夫ですか?」
「あ、うん。それは全然大丈夫よ。」
猫の顔がプリントされたパーカーの上に、カラフルなスキージャケットを羽織った伊知地さんが、ニコニコしている。
可愛い…!
もっと一緒にいたい…そうだ!
「デリバリー取るから、ご飯食べていきませんか?」
「…明亜ちゃんが迷惑じゃなければ。」
「迷惑だなんてそんな!こっちこそ、無理言っちゃってごめんなさい。」
「ううん、嬉しい。」
照れながらちらっと目線を寄越すから、美女に見つめられて、なす術なく死にそうな童貞の気持ちになった。
「…私が…帰って欲しくないだけなんです…すみません。」
バッと顔を背けた伊知地さんの、耳元が赤くなっている。
「き、着替えるね。」
「あっ、出ますね!」
急に顔が熱くなって、キッチンで水をごくごく飲み干す。
部屋に戻れば、元の服に着替えた伊知地さんがクッションを抱きしめて座っていた。
可愛すぎる。
「えっと…食べたいものありますか?この辺だと、ピザとカレーと…あと中華かな。」
「ピザがいいな。パーティっぽいし。」
「すぐ頼みますね。」
スマホでサイトにアクセスすると、週末の丁度混み合う時間のようで配達まで時間がかかりそうだった。
「40分から1時間かかりそうですけど、良いですか?」
「うん、いいよ。」
「好きな味あります?」
「色んな味がのってるやつ!」
「はーい…ん、頼みました。」
キッチンに戻って新しい飲み物を用意し、テーブルに置く。
「ありがとう。」
「粗茶ですが。」
「ふふふ。」
隣に座り、伊知地さんを見ると目が合った。
にへら、と笑ってみる。
「今日、すっごく楽しくて、もう終わっちゃうんだって思ってたから…夕ご飯誘ってくれてありがとう。」
「こちらこそ、ありがとうございます。あの…伊知地さん。」
「なにかしら。」
「私しかいないし、元の喋り方でも大丈夫ですよ。」
キョトンとしてから、むにゅっと困ったような顔をした。
「えっと…うん。どうしようかな…もうちょっとこの喋り方でいようかと思ってて。」
「あ、ごめんなさい!いいんです、伊知地さんの自由にしてください!」
余計な気を回してしまった。
「ご、ごめんね。明亜ちゃんは悪くないから、謝らないで。」
手をぶんぶん振って否定する伊知地さんが可愛くて、ついついニヤニヤ見てしまう。

ふと、思い出す。
今なら第四目的の10秒見つめるが、出来るかも。

体ごと伊知地さんの方を向き、キラキラ光る瞳を見つめる。
1、2…
伊知地さんも私を見てる。
3、4…
まつ毛が長いけど、マスカラつけてるのかな。
5、6…
思ったより10秒って長い。
7、8…
伊知地さんが全く目を逸らさなくて、どうしよう。
9、10…
やっと10秒経った。

目を逸らそうとした瞬間。
両肩を掴まれて、唇が重なった。

キス、された?

「可愛すぎて…我慢できなかった。」
耳元で、低い声が艶っぽさを帯びて言葉を奏でる。
「あんなに見つめられたら…止めらんないよ。」
腕が背中に回り、優しく抱きしめられた。
「明亜ちゃん…君が好きだ。」
「友達としてじゃなくて…?」
「うん、女の子として好きだよ。」
「性的にってこと?」
「その言い方、面白いよね。うん、性的に好き。」
どうしよう、友達としてじゃなかった。
嬉しい…嬉しいけど、どうしよう。
「えっと…その…私は、どうしたらいい?」
「どうもしなくてもいいけど…俺の希望を叶えてくれるなら、彼女になって欲しいな。」
「でも、会うの3回目だよ…?」
「回数が必要なら、何度でも会うよ。」
そうじゃなくて、えっと…そうじゃない。
頭がぐるぐるしている。
私が知りたいのは…
「私のどこが…そんなに…」
「分かってもらえるまで、何回も言うよ。俺が、俺のままでいてもいいんだって思わせてくれたのが、君なんだ。」
「他にも、きっといるよ?私じゃなくたって、女装してる伊知地さんを好きになる人が。」
ぎゅっと力を入れて抱きしめられる。
「いるかもね。でも、あの日、あの時に俺を救ってくれたのは、明亜ちゃんなんだよ。君だけだ。」
ぼたぼたと涙が落ちて、伊知地さんの服を濡らす。いけないと思っても、止まらない。
「あとは…そうだな、反応がいちいち可愛い。男慣れしてなくて、ビクビクしてたり、ちゃんと喋れなかったり、目に見えて緊張してるのとか。でも、服のことになると饒舌になって生き生きして、俺に似合う服を親身になって考えてくれる。それと、見た目がタイプ。可愛い。」
そっと体が離れて、顔を見合わせる。
「泣いてる顔も可愛い。キスしていい?」
「グス…そういうの、言わなくていいから…」
チュッと音を立てて、もう一度触れ合うキスをした。
「俺の彼女になってくれませんか。」
止まらない涙を指で拭われながら、頷く。
「…はい。」
「ありがとう。」
そして、何度もキスをした。


「ん、伊知地さん。」
「なに?」
鼻先がぶつかり合う距離で、会話をしている。
「まだキスするの?」
「やだ?」
嫌じゃない、嫌じゃないけど。経験値がゼロだから、こんなに急速にいちゃいちゃし出すのは心臓が止まりそう。
「ドキドキして苦しい。」
「あーもう…これでもめちゃくちゃ我慢してるんだよ。」
リップ音を立てて、また唇が触れ合う。柔らかくて気持ちいい。
あと、多分、お互いの口紅がついて混ざってる気がする。
「もう、ピザ屋さん来ると思うから…。」
「じゃあ、最後にもう一回。」
「ん…」
強く押し当てるような、長いキス。
やっと離れて、伊知地さんの顔を見ると、やっぱり口の周りが真っ赤になっていた。
「口紅がはみ出てる。」
「明亜ちゃんもね。」
お互い、ティッシュで口の周りを拭いてキレイにしていると、玄関のチャイムが鳴った。
「俺が出るよ、座ってて。」
インターホンを確認して玄関を開け、ピザを持って戻ってきた。
「食べよっか。」
「はい。」

匂いを嗅いだら急にお腹が空いて、ぺろりと半分食べてしまった。
ゴミを片付けて、お腹いっぱい満足していると、帰り支度を始める伊知地さんがいた。
「もう、帰っちゃうんですか。」
やだ…寂しい。
「そんな顔しないで。帰りにくくなるじゃない。」
優しく頬をなでる伊知地さんは、お姉さん喋りに戻っている。
「トーコさんになっちゃった。」
「んふふ。だって、当真で喋ったら我慢できなくなっちゃうもの。さっきも暴走しちゃったし。」
ぺろっと舌を出してウィンクをする。
なんと…破壊的可愛さ。
「キスなら、我慢しなくても…」
人差し指を口に当てられる。
「そっちじゃないの。このまま一緒にいたら、いやらしめな意味で抱きしめたくなるから。だーめ。」
カッと顔が熱くなった。
そっちか…あやにゃんの体験談でよく聞く…アレのことか。
興味ある。人一倍、興味あるんだ私。でも、それ言ったら…嫌われちゃうかな。
だけど、帰って欲しくない。
もっとそばにいたい。伊知地さんがしたいなら、全然する。ちょっと不安だけど。
じわりと涙が滲んだ。
「あっ、ごめん。怖かった?ごめん!」
違う、違うと首を振る。
「帰っちゃやだ…」
袖を握って離さないと、帰れなくなればいいのに。
振りほどかれたらおしまいだけど。
大きな溜息をついて、伊知地さんが俯いた。
ビクっと体が震える。
どうしよう、呆れられたかな…。

「ずるい…可愛すぎる。反則だよ。こんなの、帰れないに決まってるじゃん。」

強く強く抱きしめられて、私は伊知地さんの腕の中に閉じ込められた。

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