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明亜と女装男子編
10-3もっと知りたい君のこと
しおりを挟む初めの頃より比べたらガチガチではなくなったけれど、意識のし過ぎでめーあちゃんは体が熱くなっていた。
「明亜ちゃんは、お洋服が好きなの?初めて会った時も、素敵なお洋服を着てるなって思ったの。」
優しく優しく、ゆったりとした口調で話しかけているからか、めーあちゃんも会話をしようと努力していた。
「は、はい。ありがとうございます。えっと、服が好きで、私達は友達になったので。」
「そうなの。3人共、ジャンルが違うけどオシャレさんだものね。」
「私は、何でも着るんですけど、めーあちゃんは可愛い系が多くて、楓ちゃんはアメリカンな感じだよね!」
「アメリカンなの好き!あとスポーティなやつ。」
「うん、可愛いの好き。カントリーっぽいのも、80年代っぽいのも。」
「みんな、似合ってるわぁ。私はオフィスカジュアルっぽいのが得意っていうか…それしか似合わないのよね…」
寂しそうな顔で、伊知地さんが言うと、めーあちゃんが大きく首を振った。
「そんなこと、ないです!もっと華やかでドレッシーなものとか、ユニセックスで可愛いやつとか、絶対に似合います!」
きっと、連絡先のメモを見ながら、こんな服やあんな服も似合うだろうなって、めーあちゃんは考えてたんだろうな。
伊知地さんは驚いてから、嬉しそうに破顔した。
「ありがとう、嬉しい。」
「い、いえ、あの…急にごめんなさい。」
「ううん、謝らないで。」
サイドの髪を指ですきながら、伊知地さんがめーあちゃんを見つめる。
「私の話をしてもいいかな?」
3人でコクコク頷く。
「ありがとう。先にね、謝っておくわね。お店に来てくれた時、みんなの会話を聞いちゃったの。」
えっ…あの碌でもない会話を。
ぎくっとしてめーあちゃんが固まる。
「あなた達がお店に来てくれた時、私は呼び込みをしてたのね。」
「覚えてます。お店に入る時、ウィンクしてくれましたよね!」
すっごく素敵だった。
「そうなの!だって、可愛いかったんだもの。サービスしたくなるでしょ?特に、明亜ちゃんが。欲しくても手に入らないタイプの可愛さで、目が離せなかったの。」
うっとりとした表情でめーあちゃんを見つめる伊知地さんに、当の本人はもじもじしている。
「だから、会話も盗み聞きしちゃった。そしたら、明亜ちゃんが私のこと性的にタイプって言ってくれるじゃない?しかも女装男子が好きって話し出してて…私はやっと運命の子に出会ったんじゃないかって思ったの。」
少し照れながら話すところが、とても可愛いと思う。
恋する女の子、いや男の子?どっちでもいいか!
「私ね、中身は男なの。可愛いものや綺麗な物が好きで、女装してるんだけどね。やっぱり、なかなか理解はしてもらえないし、そのままの自分を好きな人に受け入れてもらえたこともない。だから、素敵だなって思った女の子が、自分のことを受け入れてくれそうって知ったら…話してみたくなるでしょ。それで、呼び込みしないで接客してたら、交代しなきゃいけなくなって、連れて行かれるし。連絡先は渡すだけで交換できなかったし。絶望したわぁ。」
わざと悲壮な顔をして、それから上目遣いになる。
「今日はね、まさか来てくれると思ってなかったから…実は男の格好で大学に来てて。さっき慌てて着替えてメイクしたの。だから、待たせちゃった。」
「男装もするんですか?!」
楓ちゃんがびっくりしている。
「やーね、するわよ。その日の気分で着たい服を着るでしょ?それと同じよ。」
楓ちゃんは、ああ!と感嘆したり
「そっか、納得。じゃあ、髪の毛ってウィッグですか。」
「そうよ。外すとショートなの。」
伊知地さんと楓ちゃんの会話に、めーあちゃんがソワソワしている。
これは、めーあちゃんの心の中でフィーバーしてるに違いない。
本当は聞きたいこといっぱいあるのに、我慢してるのもったいないよ!
めーあちゃんは下世話で欲望に忠実じゃなくちゃ!
「伊知地さん、普段から女性物を持ち歩いてるんですか?」
「その時によるんだけどね、今日は帰りに服やコスメを買いに行こうと思ってたから、着替えようと思って持ってきてたの。」
めーあちゃんが横でプルプルしている。
「これから、服を買いに行くんですか?」
楓ちゃんも食いついてきた。
「ええ、そのつもりだけど。」
「私達も、行ってもいいですか?!」
伊知地さんがびっくりしている。
「いいけど…用があるんじゃなかった?」
「大丈夫です!」
なぜなら、その用は伊知地さん探しのことだったので!
「じゃあ…今から行く?」
「行きます!」
めーあちゃんも鼻息荒く頷いていた。
4人でやって来たのは、オシャレ最先端の街にある複合型施設。
普段、古着屋ばかり巡っている私達は、あまり来たことがない場所だった。
「さて、買う買わないは置いといて、可愛いお洋服を見ましょう!」
伊知地さんがルンルンして向かうのは、ブランドが立ち並ぶエリア。
「やばい、値札が尋常じゃない。」
「桁が違う…。」
「不思議なデザインが多い。」
それぞれ物見遊山でウィンドウを眺める。
「こういうのって、見てるだけで楽しいのよね!あ、可愛い!」
マネキンが着ているのは、ボリュームのあるドレスでサボテン柄。かなりインパクトがある。
その隣のマネキンは、レーシーなタイトドレスを着ていて、カラフルな花柄がプリントされてちる。
「民族衣装っぽいのもあるー!可愛い!」
「このフリフリしたやつ、めーあちゃん似合いそう!」
「馬柄ほしーい!」
めーあちゃんも、服となると盛り上がりが違う。伊知地さんを意識して話せないとか、そんなラインは超えているようだ。
あちこち見て回り、地下に降りると、コスメショップが連なっている。
「ね、みんな試しましょうよ!」
伊知地さんが手招きしたのは、口紅のコーナー。
さまざまなカラーがそろっていて、絵の具みたいでワクワクする。
「私、口紅が一番好きなの。」
そういえば、女装喫茶の時もトゥルトゥルのお口だった。
「みんな、あんまり色が強いのはつけないのかしら?」
「私は、濃すぎないティント使ってます。」
楓ちゃんは塗らなくてもセクシーな唇。
「そうね、磐田さんは唇が色っぽいから、濃すぎない方がいいかもね。ベージュピンクとかも有りじゃない?」
手渡したのは、ゴールドのラメ入り艶感のあるとろりとしたものだった。
「あー!可愛いかもー。」
楓ちゃんは、試し塗りをしてニコニコしている。
「吉崎さんは、マットなのもいいんじゃないかな?猫ちゃんみたいなお顔だから、ちょっと色味が強くても負けないと思うの。」
少しトーンの暗い赤、塗ってみると普段より華やかで大人に見える。
「試したことなかったから分からなかったけど、マットも可愛い。」
「でしょう!」
そして、めーあちゃんに優しく笑いかける。
「明亜ちゃんはね、お花が咲いたような可愛いピンクが似合うと思うわ。つけさせてくれる?」
「は、はい…」
手の甲にのせた口紅を、指で叩くように唇に色付ける。
めーあちゃんの頬も同じ色に染まっていく。
「ほら、可愛い。」
唇がほころんで、花びらが舞うようだった。
それを見つめる伊知地さんの顔が、男の人に見えた。
「綾菜、今の伊知地さん、完全に明亜のことロックオンしてるよね。」
「私もそう思った。」
楓ちゃんも同じこと考えてるみたい。
だって、人の唇に指で塗るなんて、リップブラシがこの場にないとはいえ、やらないよ。
伊知地さんは、めーあちゃんをこれでもかと褒め続けている。めーあちゃんは真っ赤になってしどろもどろで答えていた。
それでもちゃんと会話になっている。
他のコスメブランドもまわり、そろそろ夕方になりそうだった。
「ごめんなさい、結構長く連れまわしちゃったけど。大丈夫だった?」
「大丈夫です、楽しかったです!」
「可愛い口紅買えたし!」
楓ちゃんは結局、あの口紅を気に入って購入していた。
「私も!すごく楽しかったわ。」
嬉しそうに笑う伊知地さんを、めーあちゃんが見つめている。
多分、めーあちゃん的にはもっとお洋服を選びたかったのかもしれない。伊知地さんの。
「あのっ…」
めーあちゃんが、初めて伊知地さんに話しかけた。
伊知地さんの瞳がキラリと光る。
「なぁに、明亜ちゃん。」
真っ赤なめーあちゃんは、ぐっとスマホを差し出した。
「連絡先の…メモ、無くしちゃって。だから、交換しませんか。」
「もちろん!すごく…嬉しいよ。」
最後の方だけ、男の人の声で聞こえた。
伊知地さんと駅で別れた私達は、電車に揺られている。
「明亜、頑張ったね!」
「死ぬかと思った…」
「えらいよおー!」
「あんな…綺麗でカッコいい人が…私に好意あるって嘘だと思ってたから。遊ばてるんじゃないかなって…」
楓ちゃんがめーあちゃんの腕をぎゅっとした。
「違って、良かったね。」
「ま、まぁ…」
「照れてる!可愛い!」
そんなめーあちゃんに、爆弾を落とす。
「唇触られてたけど、どうだった?」
瞬間、りんご。
「天に召されました。」
楓ちゃも興奮している。
「あれは、すごかったね!私だって、仁にリップクリームを素手で塗ったことないよ!」
「私もない!」
みーちゃんに塗ってみたい!
「ねぇ、本当に大丈夫かな。私、このまま連絡取っていいのかな。」
「不安だったら、また私達と一緒に会えばいいじゃん。」
「2人でいたいって思った時にそうしたら?」
めーあちゃんが、こくりと頷いた。
「服…着せ替えしたい。色んな服着て欲しい。」
「それ、目指してこ!」
「いいじゃん!これから色々知っていけるね!」
「…うん。」
恋が始まったばかりのキラキラが、私にも伝播して、早くみーちゃんに会いたくなった。
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