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綾菜と瑞樹編
9-3パーティナイト(過去)
しおりを挟む着替えて、ベッドを綺麗にした。
2人で寄り添って座る。
髪を撫でるみーちゃんの手が心地よくて、微睡んでしまう。
「あーにゃ、体大丈夫?」
「うん、平気。気持ちよかった。」
「良かった。」
みーちゃんの肩にもたれて、猫のようにゴロゴロと甘える。
「ふふふ、可愛い。」
「にゃー!」
嬉しい、幸せ。
この気持ちが、肌を通して全部みーちゃんに伝わればいいのに。
「あっ!」
忘れていたことを思い出し声を上げると、みーちゃんがビクッとした。
「何?」
ベッドから降りてバッグを漁る。良かった、ちゃんと入ってた。
みーちゃんの前に座り直して、それを渡す。ハガキサイズの包み。
「誕生日プレゼント。」
「えっ、さっきもらったよ。」
「うん、でも私もみーちゃんの童貞もらったわけだし。」
「え…うん?」
「まぁまぁ、開けてよ。」
袋を開けると、みーちゃんが笑った。
良かった、気に入ってもらえたみたい。
「アルバムだ。作ってくれたの?」
「うん!お母さんとみーちゃんママにも協力してもらって、私と一緒に写ってる写真を集めたよ。」
小さい頃カメラで撮ってもらったものから、最近のデートのスマホ写真まで。
印刷して、貼って、メッセージを書いた。
「ありがとう。幼女あーにゃ、可愛い。」
「みーちゃんの方が可愛い。」
「それはない。」
それから、2人で写真の思い出を話して盛り上がった。
外は雨が上がり、星が輝いている。
「もうこんな時間だ、みーちゃんパパママが帰ってくるでしょ。3人で誕生日パーティだね。」
「毎年よくやるよ、俺はあーにゃといられればそれでいいのに。」
「んま!嬉しいけど、パパママも大切に!」
ふと、みーちゃんが腕を掴んで引き寄せた。
バランスを崩してみーちゃんの腕の中に倒れこむ。
「あーにゃ、ありがとう。」
「うん。」
ぎゅうっと抱きしめられる。
「あーにゃは、いつも俺を引っ張り上げてくれるんだ。どこにいても、必ず俺を見つけて、手を差し伸べてくれる。」
「そう?」
「あーにゃにその気がなくてもね。俺にとって、あーにゃは北斗七星なんだよ。」
よく分からなくて首を傾げると、みーちゃんは楽しそうに笑った。
「北斗七星はいつも同じ場所にあるから、昔の旅人の道しるべだったんだ。」
「そうなんだ!知らなかった。本当みーちゃんて色んなこと知ってるよね。」
「そういうところもね。」
真っ黒な瞳が、じっと私を見つめる。
「俺は、あーにゃがいれば、絶対にブレない。俺が俺でいられるんだ。」
胸の奥が熱い。嬉しいような、照れるような、泣いてしまいそうな気持ち。
「私も、みーちゃんがいてくれたら、何にも怖くない。あと、楽しい。」
「うん、楽しい。」
2人でクスクス笑っていると、玄関でバタン、ガタガタと2人分の音がした。
「あ、みーちゃんママとパパが帰って来たね。」
「下に、一緒に来て欲しいんだけど…。」
「うん、いいけど。」
離れ難いけれど、体を分けて、2人でリビングに向かう。
「こんばんはー。」
階段を降りて、吹き抜けの広いリビングへ顔を覗かせると、大きな荷物を降ろしたみーちゃんママパパがいた。
「綾菜ちゃん!いらっしゃい!」
「わお!どこの美少女かと思えば!あれ、もう帰るの?」
さすがみーちゃんパパ、目敏い。
帰る支度が終わっている姿を見て、するっと私の手からバッグを取り、スツールの上に保管されてしまった。
「これから、パーティなんだから帰ることないよ!」
「華菜ちゃんには私から連絡しておくから!ね?」
みーちゃんを見上げれば、勝ち誇ったような顔をしている。
あぁ、だから一緒に来てって言ったのね。
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
「イェーイ!こうなったら、華菜ちゃんと真彦も呼んじゃおうぜー!」
「よーし!電話しちゃおっと!」
弾ける2人が嬉々としてテレビ電話をしている。
向こう側でキャッキャした声が聞こえるから、お母さんは乗り気だ。
リビングで音楽を聴きながら、テーブルを拭いたり、お皿を用意したりしていると、インターホンが鳴って騒々しい母と静寂なる父がやってきた。
「瑞樹くーん!ハッピーバースデー!フー!!」
両手に良い匂いのする袋を下げている。
「あっ!フライドチキンだ!!」
「美由紀ちゃんがちらし寿司だって言うから、これしかないと思って!」
子どもの頃から、花見、運動会、ハイキング、行事といえば、ちらし寿司とフライドチキンだった。
みーちゃん家がちらし寿司、うちがフライドチキン。もちろん、どっちも母ズのお手製。分けっこして食べるのだ。
「今日は時間がなかったから、買ってきちゃった!」
自慢そうに袋を持ち上げたお母さんが、テーブルにチキンを置く。
「ありがとう華菜ちゃん!」
「さ、準備手伝うよー!」
私も手伝おうと思い、その場から離れようとすると、ぐっと腕を引っ張られた。
みーちゃんがムスッとした顔で見上げてくる。
なんなの、駄々っ子可愛いんだけ
ど。
「あらっ、瑞樹くんさみしんぼさんね。」
「瑞樹ってば、昔っからそうなのよねー!綾菜ちゃんがいなくなると、不機嫌になるの。」
「ハハハッ!瑞樹は綾菜ちゃんが大好きだからなあ!」
居心地の悪そうな表情になるけれど、それでも腕は離さないみーちゃん。
「綾菜は瑞樹くんの隣に座ってな。」
頷いて、みーちゃんの隣に座る。
「みーちゃん、甘えたさんだね。」
「この状況で1人にされたくない。」
あの3人の側にいたらいじられ続けるし、みーちゃんはうちのお父さんと一番気が合うもんね。
そんなうちのお父さんは、持ち物から何やらガサゴソと探している。
「お父さん何してるの?」
「瑞樹くんに、これを。」
取り出したのは、一冊の本だった。
受け取ったみーちゃんの目が、キラキラ輝く。
「おじさん!いいの?」
「うん、僕は覚えるほど読んだから。」
何の本なのかは一切興味ないんだけど、みーちゃんとお父さんが心を通わせているのは、とても素敵な光景だ。
のほほんとみんなの様子を見ているうちに、準備が終わった。
「瑞樹、誕生日おめでとう!」
みーちゃんパパが乾杯して、みんなで口々にお祝いする。
「瑞樹も17歳かぁ、早いねぇ。」
「綾菜よりちっちゃくて、弟みたいだったのに。今や綾菜より大きくなって、美少年に育っちゃって。」
母ズの言葉に、お父さんは無言で頷いている。
家族で集まると、大抵こういう話から思い出話になって、大人達は酔っ払って前後不覚になるんだ。
いつもそう。
大人は放っておいて、サラダやポテト、フライドチキンにちらし寿司、チーズの盛り合わせなど、パクパク食べる。
「みーちゃん家のちらし寿司、久しぶり。」
「高校にもなると、みんなで集まる行事がないからね。」
「そうだよね。みーちゃんとはいつも一緒だけど、みーちゃんママとパパは会わないもんね。」
もっしゃもっしゃ食べていると、みーちゃんがお皿にどんどん食べ物を乗せてくる。
「みーちゃん、そんなに食べられないよ!」
「あーん。」
そっちねー。
ぱかっと大きなお口を開けて、ひな鳥みたいに待っている。
子どもの頃から普通にやっているので、特に恥ずかしくはない。
サラダを食べさせて、ちらし寿司はスプーンの方がいいかなーと、テーブルの上を探していると、既に酔っ払い始めたお母さんに冷やかされた。
「あんた達、ほんっと変わらないわねー。昔から、隙あればいちゃいちゃして。」
あー、これ面倒くさいやつだー。
「もう、うちの娘になっちゃいなよー!」
同じく酔うのが早いみーちゃんパパが、でれんでれんになって笑っていると、お父さんがワインのボトルを抱えてみーちゃんパパに体当たりした。
「和に、うちの娘はやらん!」
「わはははは!」
お父さんも酔ってる!
「みんなご機嫌ねえ。」
みーちゃんママだけはお酒が強いので、最後まで生き残っていることが多い。
「この様子だと、今日はみんなでお泊りかしらね。楽しいわぁ。」
そして、グイグイとお酒を煽る。みーちゃんママが酔うのも時間の問題だ。
ご飯を食べ終わった私達は、冷蔵庫からケーキを出して、2人分を切り分けた。
「みーちゃん、誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」
みーちゃんはチーズケーキが好きなので、誕生日ケーキの土台は必ずチーズケーキ。みーちゃんママが美味しいクリームチーズをたくさん使うから、濃厚でとろける。
チーズケーキの上に、甘すぎないクリームやマカロン、チョコレートなどが乗っていて、とても具沢山だ。
でも、みーちゃんはトッピングを全部私のお皿に避けてチーズケーキだけ食べる。私もハッピー!ウィンウィンなのである。
「みーちゃん、泊まってくことになりそうなんだけど。」
「うん、俺の部屋においで。」
「怒られないかな?」
「絶対に朝になっても起きて来ないでしょ、この人たち。」
みーちゃんの冷めた目が、両親ズを眺める。
みんな顔を真っ赤にして楽しそうに酔っ払っていた。
「うん、潰れるね。」
「俺の着替え貸すから、お風呂入れば。」
時計を見ると、もう22時を回るところだった。
「そだね、食べ終わったらお風呂入る。」
「俺も、あーにゃが出たら入る。」
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