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綾菜と瑞樹編
7-2いってみようやってみよう(過去)
しおりを挟むこの前は、ひかちゃんのおかげで、みーちゃんと気持ちを確かめ合えた。
だから、今度は私がひかちゃんの力になりたい。
翌週。
放課後、部室で作戦を練っていると、さくちゃんも一緒になって話をしていた。
こんな作戦はどうか、あれはどうか、と提案するが、いつまでも煮え切らないひかちゃんに、さくちゃんは少しイライラしている。
机をパンっと叩いて、さくちゃんが立ち上がった。
「ひかり先輩は、結局どうなりたいんですか。」
「え…」
ひかちゃんは虚を突かれた顔をした。
「爽介先輩の彼女になりたいんですか?」
ひかちゃんは、俯いてモゴモゴしている。
さくちゃんが強く畳み掛ける。
「告白されたから、独占欲が出たんじゃないんですか?他の女に取られるのが悔しいって。」
「違う!好きだもん!」
真っ赤になって、泣きそうなひかちゃんが叫んだ。
「ほら、そう言えばいいのに。」
さくちゃんは、ニコッと笑って座った。
ひかちゃんはびっくりしている。
誘導するの上手いなぁ。
「ひかり先輩は、変に考え過ぎなんですよ。」
「でも…」
きっと、この言い淀んでいることが、ひかちゃんの1番の悩みの気がする。
「でも?」
目を合わせると、瞳を陰らせる。
「好きって言われたから、好きになったんだって思われたら…嫌じゃない?」
「誰が?ひかちゃんが?」
首を振って否定する。
「爽介が…嫌に思わないかな。そんな簡単な気持ちなんだって、ガッカリしないかな。」
ああ、そっか。
ひかちゃん、そこそこの気持ちじゃダメって気にしてたもんね。
「私は、みーちゃんに好きって言って、好きって返されたら、嬉しいよ。」
「そりゃ、綾と瑞樹は元から両思いじゃん。」
「違うよ。この前、初めて両思いになったの。ひかちゃんの、おかげで。」
この、ひかちゃんの卑屈さは、どこから来るんだろう。
可愛くて元気で、友達思いで、優しい素敵な子なのに。
「どうして、ひかちゃんは迷ってるの?委員長に爽介くんを取られるのが嫌なのに。」
「…私は、私なんて可愛くないし、男みたいって言われるし、ちんちくりんだし…。委員長は、背も高いし、顔もキレイだし…スタイルもいいし…」
「ひかちゃん…、ひかちゃんは可愛いよ。」
私をキッと睨んで、ひかちゃんの歪んだ顔から、じわりと目から涙が溢れた。
「綾には、分かんないよ!だって、綾はおっぱい大きいじゃん!」
そ、そこかぁ。私も、大きいから気にしてるんだよ…。
「ひかり先輩、一旦落ち着きましょう。そんな感情的になっても、おっぱいは大きくなりません。」
ひかちゃんは素直に頷いて、涙を拭った。
そこが、ひかちゃんの良いところなんだけど。
「綾、ごめん。」
「ううん、いいよ。」
「ひかり先輩は、自分の見た目かコンプレックスなんですね。」
こくりと頷く。
さくちゃんは自信満々に言い放つ。
「おっぱいは、揉まれたら大きくなります!」
「えっ?!」
ひかちゃんの顔が真っ赤になった。
「見てください、綾先輩のおっぱいを!」
さくちゃんが後ろから私を羽交い締めにする。
「ちょっと、さくちゃん!」
「綾先輩のおっぱい、1サイズ大きくなりましたよね?」
うっ…何故それを…
私の表情でひかちゃんは分かったらしく、驚愕の顔をしている。
「綾先輩は、金沢先輩の手によって1サイズ大きくなってるんです!」
ぎゃー!やめてー!!
真っ赤なひかちゃんが、こっちににじり寄って来る。
「綾…瑞樹におっぱい揉まれてるの?」
ううう…おっぱいどころか、おちんちんを入れる直前までいってます。とは、口が裂けても言えない!
自分の顔が熱くなって、耳まで赤くなってるのが分かる。
「そうなんだ…綾…大人なんだね。」
「そうです!かくいう私も、彼氏に触りたいと言われました。でも、まだ触らせてません。」
さくちゃんの爆弾発言!!
羽交い締めから解放され、席に着く。
「みんな…大人になっていく…」
「ひかり先輩、胸の大きさは、爽介先輩の手で大きくしてもらいましょう!解決です!」
「そんな、恥ずかしいこと頼めないよー!」
なんか分かんないけど、ポジティブな雰囲気になってきてる!
さくちゃん、さすがだよ!
「ひかちゃん。爽介くんは、今のひかちゃんが好きなんだから、自信持っていいと思うよ。」
「そうかな?」
「そうだよ!」
「そうですよ!」
ここぞとばかりに、2人で強く同意する。
「ひかちゃん、爽介くんにお返事しようよ。」
「今更変じゃない?」
「うん!遅いかどうか気にするなら、今すぐ行く?」
「それは無理。」
ひかちゃんは全力で頭を振った。
「じゃあ、明日。」
「無理!」
「いつならいいの?!早くしないと、委員長に取られるよ?!」
「分かった、明日!明日する!」
ゼェゼェと息をして、ひかちゃんが天井を見上げた。
「爽介も、こんな気持ちだったのかなぁ。」
「うん、きっと同じだったと思うよ。気持ち伝えるのって、やっぱり怖いもん。」
目を拭って、ひかちゃんが前を向く。
「ひかり先輩、明日のいつ告白するんですか。部活終わり?部活前?」
「サッカー部終わるの遅いし、部活の前かな。どうやって呼び出そう。」
あっ!分かった!
「はい!私にいい考えがあります!」
翌日の放課後。
ひかちゃんは、クリーニングの終わった爽介くんの制服を持って、美術室で待っていた。
私とさくちゃんは、被服室で待機。
2人してドキドキソワソワしている。
廊下から、足音が聞こえる。
「爽介くんかな?」
「ひかり先輩、頑張って!」
息を飲んで待っていると、美術室のドアが開く音がした。
話し声は全然聞こえない。
何を話してるんだろう…。
ひかちゃんはちゃんと告白できているだろうか。
じわじわと時間が過ぎる。
「さくちゃん、どうなったかな。」
「まだ、2人は美術室にいますからね…。でもサッカー部は厳しいから、そろそろ戻らないといけないと思うんです。」
さくちゃんがそう言った瞬間、ガラリとドアが開き、今度は廊下を走る音がした。
2人で顔を見合わせて、美術室の様子を伺う。
ドアの隙間から、ひかちゃんの姿を確認した。
ひかちゃんは、真っ赤になって床にうずくまっていた。
「ひかちゃん!大丈夫?!」
「ひかり先輩!」
駆け寄ると、ひかちゃんは涙をポロポロこぼして座り込んだまま、照れてにこっと笑った。
「き…キスされちゃった…」
「えーー!!!」
「爽介先輩やるう!」
うちの学校の男の子って、みんな手が早いの?
被服室に戻って話を聞くと、詳細はこうだった。
ひかちゃんは、返そうと持って来たクリーニング済みの制服を、美術室に置いてきてしまったから、取りに来て欲しいとお願いした。
理由は、借りたのをみんなに知られたくないから。
人の良い爽介くんは、一つ返事で来てくれることになった。
ドキドキしながら美術室で待っていると、爽介がやって来た。
「ごめん、お待たせ。」
「あ、ううん。こっちこそ、来てもらっちゃって。ありがとう。」
傍に置いていた制服の入った紙袋を、爽介に差し出す。
爽介は手を出して受け取り、引こうとするけれど、手を離さない。
「どうしたの?」
緊張し過ぎて、吐きそうになっている。
「爽介、隣のクラスの委員長と、付き合うの?」
「え?」
丸い目を開いて驚く表情を見て、そんなつもりがないことが分かった。
「付き合わないで。」
泣きそうになるのを堪えて、爽介を見つめる。
「うん。…覚えてる?」
「うん、覚えてる。」
紙袋の取っ手を離す。
「私も、覚えてて欲しい。」
「うん?」
今までで一番、勇気が必要だった。
深呼吸をして、声を出す。
「好き。」
視界が滲んで、歪んで、よく見えなくなった。
爽介の手が頬を撫でてくる。
「覚えたよ。」
瞬きをして、視界がクリアになると、思ったよりも爽介の顔が近くにあった。
「爽介…」
「ひかり。」
鼻先が同士が掠めて、唇がトンっと当たった。
「っ!」
照れて笑う爽介が、紙袋を抱えて後ろを向いた。
「俺、部活行かなきゃ。また、明日。」
「うん、また明日。」
美術室から走り去る爽介の背中を見送ると、体の力が抜けて、座り込んでしまった。
「良かったね…本当に良かったね。」
「ひかり先輩、おめでとうございます!」
「ありがとう、2人のおかげ。」
3人で抱き合って泣いてしまった。
号泣していると、被服室のドアが開いた。
「あーにゃ、まだ?」
気怠そうな顔をしたみーちゃんが、ドアにもたれている。
「あ、ごめん。みーちゃん。」
今日も遅くなると言ったら、絶対に待っていると言って聞かないので、教室で待っていてもらったのだ。
「ごめん、私帰るね!また明日!」
「うん、また明日!」
「さようなら!」
2人で教室を出て、家路についた。
「今の瑞樹の彼氏ヅラ見た?」
「見ました。独占欲が強そうでしたね。」
「そりゃ、綾の胸も1サイズ大きくなるわ。」
「もう1サイズ、大きくなるかもしれませんよ。」
「違いない。」
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