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番外編

番外編小話・5

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番外編・5



初めてのナンパ遭遇



「お姉さん、1人でしょ?」
「俺たちと、遊びに行こうよ。」

今、私は人生で初めての、ナンパをされている。

正直言って、訳が分からない。
見ず知らずの男性(しかも2人)から、急に声を掛けられた。
道を聞かれるか、壺を売られるか、宗教の勧誘かなって思ってたから、まさかナンパとは…。
この状況、どうしたらいいか分からず、ぽかんと突っ立ったままになっている。

「お姉さん、大丈夫?」
「びっくりしちゃった?ごめんね。」

えっと…とりあえず、断らなくちゃ。

「あの、待ち合わせしてるので、申し訳ないのですが」
「あっ、お友達?!」
「じゃあその子も一緒に、遊ぼうよ!」

食い気味ー!
話聞かねー!

いや、ナンパとか初めてだから、話のネタになるなって一瞬思ったけど。
もう面倒臭い。

ナンパ2人組は、勝手に盛り上がって遊びに行く算段を立て始めてる。
屋内テーマパークで遊んで、海岸を散歩して、カラオケ行って飲みに行くらしいよ。
うん、興味ないです。
痺れを切らして、話しかける。

「あの、友達じゃなくて…わっ」

グイッと肩を引き寄せられる。

「どうも、彼氏です。」

史上最高にカッコいい彼氏様が、ご登場されました。

「灘くん!」
「待たせてごめんね。」

紺から青のグラデーションになった薄手のニットに、濃いインディゴのジーンズを着ていて、大変爽やかです。

「えー!彼氏待ちなら、最初から言ってよー!」
「なんだよー、友達じゃないじゃん。」

ナンパ2人組は、ブーブー言いながらサッといなくなった。
特に問題も起きず、ほっとした。

「ほとりちゃん、何もされなかった?」
「うん、大丈夫。ありがとう。」

ぎゅっと強く手を握られて、その場を離れる。
歩く速度がいつもより速い。
歩幅が違うから、私は小走りになってしまう。

「な、灘くん、速い。」
「あっ、ごめん。」

慌てて速度を落とし、普段のペースに戻る。
さっきの速さは、スーパー営業マンモードだった。
見上げた顔が、ちょっと硬い。

「灘くん、もしかして怒ってる?」

いつでも平常心、ご機嫌モードの灘くんが、珍しく負の感情を露わにしている。
私、何かやっちゃったかな?

「いや、怒ってるっていうか…」

握手のように握っていた手を、改めて指を絡ませて握り直される。

「そうやって、可愛いから…」
「え?」

ムッとした顔で見られる。
そんな顔してても、かっこいいなぁ。

「可愛いからナンパされたんでしょ。気をつけて!」
「あっ、はい!すみません!」

シャキッと背筋を伸ばして謝罪をした。
ぎゅっと目を閉じて、瞬きをした灘くんは、溜息を吐く。

「いや、違うごめん。ほとりは、悪くない。うん、今度から待ち合わせ時間から5分遅れて来て。もしくは迎えに行く。」
「そんな大ごと?!」
「そりゃそうだよ!ナンパされてるんだよ?一回されたら、あとは、なし崩しにナンパだよ。危ない!」

灘くんがプリプリしていらっしゃる。
これはもしや…

「嫉妬していただいている?」

ギロリと睨まれる。
やだー!迫力あって、かっこいいですー!

「今日、やめてって言われても、絶対にやめないから。」

急な絶倫宣言。

「え、ちょ…何でそうなるの」

そんなこと言われて、耳まで熱くなってるのが分かる。

「はーあ、彼女が無自覚だから困りますねぇ。」

目は鋭いのに、口元が笑っている。
私の反応に、喜んでいらっしゃるようです。

その日一日中、甘くいじめられて、ベッドの中でも嫌と言うほど泣かされて、待ち合わせ時間の10分前待機はやめようと思った。







トリックオアトリート



「なっだっくん!」
社内の廊下で見かけた背中に、声をかける。
すぐに振り向いてその場で待ってくれるから、程なく追いついた。
「なに?」
少し鼻にかかるような、灘くん独特の柔らかい話し方。仕事中は出ない話し方。
「トリックオアトリート!」
「あぁ、そっか今日ね。」
「お菓子くれないといたずらしちゃうぞお!」
ふざけて声をかけたんだけど、予想もしない爆弾を渡された。
「いたずらしてくれたら、お礼にお菓子をあげよう。」
「へ?」
「前払いね。」
手のひらに、ころんとした飴玉が載せられた。
さっき松田くんが配り歩いてたやつだ。
口の端だけくいっと上げて、性的に笑う。
「俺、今日定時だから、よろしくね。」
「は、はい…。」
手を振って廊下を去る灘くんの、背中を見てしばらく突っ立っていた。

いたずらされるのは、私じゃん。


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