18 / 42
番外編
みんなでキャンプ・1
しおりを挟む
みんなでキャンプ・1
「よし、キャンプしよう!」
いつもの飲み会中、末沢の鶴の一声で決定した。
みんなで休日にどこかへ行くのは、初めてのことだった。
「道具は私が持ってるから、各自個人の荷物を持参するように。詳細は追って連絡する。松田はサポートに入れ。」
「イエッサー!」
ドヤ顔で言い放つ末沢と従者松田を、他3人が拍手で賞賛した。
決行日は快晴。
朝のふわりと爽やかな風が心地がいい。まだ気温は低いため、
末沢からの指示で、各人キャンプ仕様の格好をしていた。
ほとりは、山ガール風。長袖Tシャツ、ウィンドブレーカー、スカートにレギンスを合わせて、靴下は長めでスニーカー。
灘川は、コットンシャツに薄手のダウンベストを羽織り、グリーンのパンツ、ショートブーツ。
待ち合わせ時間に駅にいたのは、この2人だけだった。
「みんな、来ないね。」
「末さんは時間通りに来そうなもんだけど。」
スーパーで買った野菜を持って、待ちぼうけしていると、クラクションが鳴った。
「あ、末ちゃん。」
ロータリーに停まった大きなバンの助手席から、末沢が手を振っていた。
「お待たせー!乗って乗ってー!」
荷物をトランクにしまい、後部座席のドアを開けると、既に阿部が乗っていた。
「おはよう。阿部くん、早いね。」
「はーざまーす。いや、俺、趣味で野外フェス行くんで、テントと寝袋持ってるんすよ。だから、先に拾ってもらいました。」
「おはよー!トランクにいっぱい荷物詰まってたー!車どしたの?レンタカー?」
助手席から末沢が顔を出し、ピースサインをする。
「おは!もち!5人分の荷物となると、実家の乗用車じゃ無理だからねー!」
「それでは、本日の運転手松田が、安全運転で出発いたしまーす。」
「お願いしまーす」
駅を出発し、街中をすいすい進む。
「阿部くんロキノン厨だったんだ!知らなかったー!」
「そね、言ったことなかったかも。あとロキノン厨というか、音楽は何でも聞く。」
「へー」
また助手席からひょいっと顔を出した末ちゃんが、プラグをチラチラさせた。
「阿部くんよぉ、ここにスピーカーと繋がるコードがあるぜ。」
「いいんすか、あざーす。」
阿部セレクトミュージックが流れ出す。ファンキーでオシャレな往路になった。
しばらく音楽に耳を澄ました。
「ねーねーどこ行くの?!」
「今日はね、海浜公園でキャンプだよ!」
「海!?砂浜?!」
「リゾートっすね」
音楽に合わせて、阿部がシェイクしている。
「へー。キャンプって山とか川のイメージあるけど、海でも出来るんだ。」
「灘川の好きなBBQもできます。」
「お、だから指定された野菜の種類がBBQっぽかったのか。」
「灘くんお奉行様なんでしょ?」
「控えおろう、BBQ奉行である。」
「ははー」
ほとりが膝の上に平伏する。
「ねえバカップルは、薄着だけど上着持って来てる?朝晩は結構冷えるのよ。」
「あるよー!カイロも持って来た!」
「とりあえずダウン持って来た。」
バカップルを特に否定しない2人。
「浜辺だから潮風吹くんだよ。寒かったら俺の家から毛布も持って来たし、大丈夫だと思うけど。」
運転中の松田が、左親指でトランクを指す。
後ろにはたくさん荷物が詰まっているため、どれが毛布かは分からないが、入っているのだろう。
「あそこ、直火不可だから、焚き火できないんだよね。」
「へー!焚き火できないキャンプ場もあるんすね。」
「結構あるよー!」
「末ちゃんと行ったところは、直火不可多かったね。」
「芝生だしね。燃えちゃうから。」
ほとりはポケットからチョコレートを取り出して口に入れる。
両隣の男子と、前の2人にも渡す。末沢もチョコレートを口に入れ、ついでに包装を開けて松田の口にも放り込んだ。
「うまい。」
「このみんセンキュー」
「ねえねえ、キャンプって何するの?」
「…思い思いに過ごす。」
「俺は、散歩したり、温泉あるところだと浸かりに行ったり。」
「私は一人で本読んでる。」
「えっ、松田くんと一緒に散歩しないの?」
「たまに行くよね?」
「このみん、末ちゃんてアウトドアとスポーツ好きだけど、実はインドアなんだよ。」
「アウトドアな場所で、インドアをするのが醍醐味なのよ。」
「末さんて、見た目インドアだよね。」
「灘川はリア充って感じ。インドアな私は今日ものんびり過ごすぞー。」
「俺は松田さんと散歩行こっかなー。面白いとこあります?」
「飛行機が飛んでるよ!あと、道具があれば海釣りもできた気がする。」
「え、松田それ先に聞きたかった。俺、釣り道具持って来るのに。」
「あー!ごめん、灘は釣り好きだったよね。」
話を聞いてるほとりの左手を、そっと温かい手が包み込んだ。左側を見ると、灘川は知らんぷりをしている。
急にそんなことをされると、照れてしまう。ほとりは赤くならないように深呼吸をした。
「もうすぐ着くよー。」
駐車場に車を停め、チェックインに向かう。
先に支払いを済ませ、一通りの説明を受ける。指定されたサイト内へ、早速荷台を借りて荷物を運んだ。
「わっ!本当だ!飛行機が近いっすね!」
すぐ上をジャンボジェットが飛んでいる。
「すげー!」
男子3人はワクワクしている。
「男子、先にテント張るよー。」
末沢は慣れた手つきで荷物を整理し、テントを出す。
末沢持参の大きめテントが男子用、阿部持参の小さめテントが女子用になった。
「ねえ末ちゃん。」
ほとりはテントの下に敷くシートをバサバサと広げる。
「何?」
末沢は、テントにポールを押し込んでいる。
「松田くんとキャンプして、仲良くならないの?」
不思議そうな顔をしたほとりを見上げて、末沢はふっと笑う。
「あー、そういう意味のね。そもそもテントが別だから、何にも起きないよ。ほとりが思ってるのと、違うんだよね。松田って。」
「そうなんだ。末ちゃんと松田くんて不思議な関係だよね。」
「そうだね、私もそう思うよ。ほとり、そっち持ってて。」
「分かったー。」
阿部と灘川が2人でテントを張り、松田はタープ(日除けの屋根)を広げてリビングの準備をする。
「テント張りって割と時間かかるんだね。」
「そうっすね。慣れても俺はそこそこ時間食ってます。」
なんとかテントを自立させ入り口を風下に向け、地面に固定する為、ペグを打つ。フライシートを被せて完成。
「おおー、できた。阿部くん手際良いんだね。」
「あざーっす!」
入り口のフラップをくるくる巻いて止める。
「松田さん、そっちどうっすか?」
「もうできてるよーん!」
タープの下では、チェア、テーブル、ボックスコンテナなどのギア(キャンプで使う道具などのこと)が置かれており、チェアに座った松田がのんびり手を振っていた。
「おお、思ったより部屋っぽくなるんだな。」
「おしゃれー!」
「さすがじゃん、松田。」
テントを張り終わった女子達が戻ってきた。
「もう12時前だね、お昼にしよっか。はい、みんな準備始めて。」
男子チームはレンタルで借りられるBBQ道具を、野外炉にセットして火起こしを始める。
女子チームは炊事場で野菜類を洗い、野外炉のそばにセットしたキッチンテーブルでカットし始めた。
「なんかなんか、部活みたいで楽しいね!」
「ねー!こんな大掛かりなキャンプってあんまりしないから、ワクワクする!いつも松田と2人だからさ、ご飯の種類たくさん準備しても食べきれないし、簡単なスープパスタとかにしちゃうんだよね。」
隣にぴょこんとやって来た松田が、切れた野菜をアルミホイルに詰める。
「末ちゃん、今日は夜もちゃんと作るんだから、お昼を食べ過ぎちゃダメだよ!」
「分かっとるわい。」
「松田くんさ、末ちゃんとよく遊んでるけど、どんなことしてるの?登山とボルダリングと、あとマラソン?は知ってる。」
野菜を切り終わったので、今度は塊肉を小さく切って行く。
「んー、そんなもんだよね?」
「そうね、基本的には登山だけど。別に高い山に登りたいとか、登山家になりたいとかじゃなくて、そこそこの山をそこそこで登って、ぼーっとしたいだけだから。なんならトレッキングに近い。マラソンも速く走りたい訳でもないし、ボルダリングはこの前初めて行った。」
「このみん、末ちゃんはモテモテだからさ、俺とだけ遊んでくれる訳じゃないんだよー。悲しいね。」
「モテモテって…ただ趣味ごとに顔見知りがいるだけだよ。仲良いかって言われるとまた違うし。個人プレイの趣味ばっかりだし。」
「そうなんだ!末ちゃんは、たくさん友達がいるイメージだった。」
末沢はアルカイックな微笑みで、野菜をザルに入れた。
「私が友達って言えるのは、この集まりぐらいよ。」
「末ちゃん、好き。」
ほとりが末沢の肩に頭を乗せる。
「すえも、ほとり、すき。」
ほとりの頭に、頭をコツンと当てる。
「まつだも、すえとこのみ、すきー。」
後ろから女子2人を抱えるように抱きしめた。
「こら、やめろ。末さんにだけ抱きついてろ。」
「やーん!このみんの彼ピッピに怒られちゃったー!」
灘川にペイッと腕を外された松田は、アルミホイルを持って野外炉へ移動した。
「こっち、準備終わったよ。全部切れた?」
「紙皿と割り箸の準備もバッチリっす。」
「うん!終わったよ。」
「はい、奉行の出番だよ。」
野菜のザルと、肉のトレーを渡す。
トングをカチカチ鳴らして、灘川も野外炉に移動した。
リビングに置いたクーラーボックスから缶ビールを取り出し、女子チームはチェアに座って飲み出す。
缶を開ける音が、耳に心地よい。
「はー!昼から飲むビールは美味い!」
「んふふ!楽しい!」
松田の準備したリビングは居心地が良く、オシャレだった。
テーブルには可愛いランチョンマットが敷かれ、足りないチェア代わりのゴツいコンテナには、座り心地が良いように可愛い柄の座布団が置いてある。
テーブルの中央は、レトロなデザインのランタンが置かれている。
「これ松田くんの私物?」
「うん、あいつオシャレなもの好きじゃん。マラソンや登山の服とかも洒落てるの着てるよ。アウトドアショップに行くのハマってるらしいし。」
ビールをちびちび飲みながら、私物を物色していると、灘川が肉を運んで来た。
「はい、第1弾。」
「ありがとー!美味しそー!」
ほんのりレア感が残った肉は、口の中でジュワッと肉汁が溢れた。
「美味しい、奉行美味しいです。」
「灘くんすごい。美味しい。」
褒められて満足そうな顔をした灘川は、野外炉に戻って行った。
アルミホイルを持った松田と阿部が、リビングにやって来た。
「サーモンと野菜のホイル焼きだよ。」
「灘川さんがリビング行ってて良いっていうから、戻ってきた。」
「奉行、自由にやりたいんだよ。」
「焼いてる奉行、覗いてこようかな。」
「お、いったれいったれ、ジョカノ!俺はここをDJブースにしておくぜ!」
「大きい音は迷惑になるから、リビング内で聞こえるくらいの音にしてね。」
「テーブル内BGM程度にしまっす!」
小さな音で流した曲はボサノバで、カフェ風の雰囲気になった。
「なーだーくん!」
「なーあーに。」
「楽しそうだね。」
「うん、ほとりは?」
「楽しい!そして美味しい!万歳!」
ちょうど焼き上がった肉を、フーフーしてから、ほとりの口に放り込んだ。
「美味ーー!カルビー!タン食べたい。」
「タン無かったよ。」
「タンのない焼肉…」
「今度焼くから、泣くまで食べて良いから。」
「やったー!泣きながら食べるね!」
「いちゃついてんな…あそこ。」
バカップルを眺めて、3人はビールを飲む。
「羨ましいっす。」
しょぼんとした声で阿部がつぶやく。
「あれ?阿部くん彼女は?」
「別れましたー。末さん、美女紹介してくださいよ。」
「私、女友達はほとりしかいないからな。」
サーモンをつつきながら、遠くを見る末沢。
「えっ!マジっすか!」
「末ちゃん、気難しいからね。」
「お、うるせーぞ松田。」
末沢は酔っ払っているため、足の甲で松田の足を蹴った。
「末ちゃん、暴れん坊将軍。」
「松田さんは、女友達で美女は?」
「え、一番の美女は末ちゃんだから、そうなってくると紹介できない。」
なんとなく得意そうな末沢。
「美女じゃなくて良いっす。」
「彼氏欲しい子いるか、聞いてみるよ。社内なら割とすぐだけど。」
「…できれば社外で。」
ほとりが、焼けた肉をフーフーして、灘川に食べさせている。
「彼女欲しい…切実に…」
阿部は、ゴクゴクとビールを飲み干した。
「よし、キャンプしよう!」
いつもの飲み会中、末沢の鶴の一声で決定した。
みんなで休日にどこかへ行くのは、初めてのことだった。
「道具は私が持ってるから、各自個人の荷物を持参するように。詳細は追って連絡する。松田はサポートに入れ。」
「イエッサー!」
ドヤ顔で言い放つ末沢と従者松田を、他3人が拍手で賞賛した。
決行日は快晴。
朝のふわりと爽やかな風が心地がいい。まだ気温は低いため、
末沢からの指示で、各人キャンプ仕様の格好をしていた。
ほとりは、山ガール風。長袖Tシャツ、ウィンドブレーカー、スカートにレギンスを合わせて、靴下は長めでスニーカー。
灘川は、コットンシャツに薄手のダウンベストを羽織り、グリーンのパンツ、ショートブーツ。
待ち合わせ時間に駅にいたのは、この2人だけだった。
「みんな、来ないね。」
「末さんは時間通りに来そうなもんだけど。」
スーパーで買った野菜を持って、待ちぼうけしていると、クラクションが鳴った。
「あ、末ちゃん。」
ロータリーに停まった大きなバンの助手席から、末沢が手を振っていた。
「お待たせー!乗って乗ってー!」
荷物をトランクにしまい、後部座席のドアを開けると、既に阿部が乗っていた。
「おはよう。阿部くん、早いね。」
「はーざまーす。いや、俺、趣味で野外フェス行くんで、テントと寝袋持ってるんすよ。だから、先に拾ってもらいました。」
「おはよー!トランクにいっぱい荷物詰まってたー!車どしたの?レンタカー?」
助手席から末沢が顔を出し、ピースサインをする。
「おは!もち!5人分の荷物となると、実家の乗用車じゃ無理だからねー!」
「それでは、本日の運転手松田が、安全運転で出発いたしまーす。」
「お願いしまーす」
駅を出発し、街中をすいすい進む。
「阿部くんロキノン厨だったんだ!知らなかったー!」
「そね、言ったことなかったかも。あとロキノン厨というか、音楽は何でも聞く。」
「へー」
また助手席からひょいっと顔を出した末ちゃんが、プラグをチラチラさせた。
「阿部くんよぉ、ここにスピーカーと繋がるコードがあるぜ。」
「いいんすか、あざーす。」
阿部セレクトミュージックが流れ出す。ファンキーでオシャレな往路になった。
しばらく音楽に耳を澄ました。
「ねーねーどこ行くの?!」
「今日はね、海浜公園でキャンプだよ!」
「海!?砂浜?!」
「リゾートっすね」
音楽に合わせて、阿部がシェイクしている。
「へー。キャンプって山とか川のイメージあるけど、海でも出来るんだ。」
「灘川の好きなBBQもできます。」
「お、だから指定された野菜の種類がBBQっぽかったのか。」
「灘くんお奉行様なんでしょ?」
「控えおろう、BBQ奉行である。」
「ははー」
ほとりが膝の上に平伏する。
「ねえバカップルは、薄着だけど上着持って来てる?朝晩は結構冷えるのよ。」
「あるよー!カイロも持って来た!」
「とりあえずダウン持って来た。」
バカップルを特に否定しない2人。
「浜辺だから潮風吹くんだよ。寒かったら俺の家から毛布も持って来たし、大丈夫だと思うけど。」
運転中の松田が、左親指でトランクを指す。
後ろにはたくさん荷物が詰まっているため、どれが毛布かは分からないが、入っているのだろう。
「あそこ、直火不可だから、焚き火できないんだよね。」
「へー!焚き火できないキャンプ場もあるんすね。」
「結構あるよー!」
「末ちゃんと行ったところは、直火不可多かったね。」
「芝生だしね。燃えちゃうから。」
ほとりはポケットからチョコレートを取り出して口に入れる。
両隣の男子と、前の2人にも渡す。末沢もチョコレートを口に入れ、ついでに包装を開けて松田の口にも放り込んだ。
「うまい。」
「このみんセンキュー」
「ねえねえ、キャンプって何するの?」
「…思い思いに過ごす。」
「俺は、散歩したり、温泉あるところだと浸かりに行ったり。」
「私は一人で本読んでる。」
「えっ、松田くんと一緒に散歩しないの?」
「たまに行くよね?」
「このみん、末ちゃんてアウトドアとスポーツ好きだけど、実はインドアなんだよ。」
「アウトドアな場所で、インドアをするのが醍醐味なのよ。」
「末さんて、見た目インドアだよね。」
「灘川はリア充って感じ。インドアな私は今日ものんびり過ごすぞー。」
「俺は松田さんと散歩行こっかなー。面白いとこあります?」
「飛行機が飛んでるよ!あと、道具があれば海釣りもできた気がする。」
「え、松田それ先に聞きたかった。俺、釣り道具持って来るのに。」
「あー!ごめん、灘は釣り好きだったよね。」
話を聞いてるほとりの左手を、そっと温かい手が包み込んだ。左側を見ると、灘川は知らんぷりをしている。
急にそんなことをされると、照れてしまう。ほとりは赤くならないように深呼吸をした。
「もうすぐ着くよー。」
駐車場に車を停め、チェックインに向かう。
先に支払いを済ませ、一通りの説明を受ける。指定されたサイト内へ、早速荷台を借りて荷物を運んだ。
「わっ!本当だ!飛行機が近いっすね!」
すぐ上をジャンボジェットが飛んでいる。
「すげー!」
男子3人はワクワクしている。
「男子、先にテント張るよー。」
末沢は慣れた手つきで荷物を整理し、テントを出す。
末沢持参の大きめテントが男子用、阿部持参の小さめテントが女子用になった。
「ねえ末ちゃん。」
ほとりはテントの下に敷くシートをバサバサと広げる。
「何?」
末沢は、テントにポールを押し込んでいる。
「松田くんとキャンプして、仲良くならないの?」
不思議そうな顔をしたほとりを見上げて、末沢はふっと笑う。
「あー、そういう意味のね。そもそもテントが別だから、何にも起きないよ。ほとりが思ってるのと、違うんだよね。松田って。」
「そうなんだ。末ちゃんと松田くんて不思議な関係だよね。」
「そうだね、私もそう思うよ。ほとり、そっち持ってて。」
「分かったー。」
阿部と灘川が2人でテントを張り、松田はタープ(日除けの屋根)を広げてリビングの準備をする。
「テント張りって割と時間かかるんだね。」
「そうっすね。慣れても俺はそこそこ時間食ってます。」
なんとかテントを自立させ入り口を風下に向け、地面に固定する為、ペグを打つ。フライシートを被せて完成。
「おおー、できた。阿部くん手際良いんだね。」
「あざーっす!」
入り口のフラップをくるくる巻いて止める。
「松田さん、そっちどうっすか?」
「もうできてるよーん!」
タープの下では、チェア、テーブル、ボックスコンテナなどのギア(キャンプで使う道具などのこと)が置かれており、チェアに座った松田がのんびり手を振っていた。
「おお、思ったより部屋っぽくなるんだな。」
「おしゃれー!」
「さすがじゃん、松田。」
テントを張り終わった女子達が戻ってきた。
「もう12時前だね、お昼にしよっか。はい、みんな準備始めて。」
男子チームはレンタルで借りられるBBQ道具を、野外炉にセットして火起こしを始める。
女子チームは炊事場で野菜類を洗い、野外炉のそばにセットしたキッチンテーブルでカットし始めた。
「なんかなんか、部活みたいで楽しいね!」
「ねー!こんな大掛かりなキャンプってあんまりしないから、ワクワクする!いつも松田と2人だからさ、ご飯の種類たくさん準備しても食べきれないし、簡単なスープパスタとかにしちゃうんだよね。」
隣にぴょこんとやって来た松田が、切れた野菜をアルミホイルに詰める。
「末ちゃん、今日は夜もちゃんと作るんだから、お昼を食べ過ぎちゃダメだよ!」
「分かっとるわい。」
「松田くんさ、末ちゃんとよく遊んでるけど、どんなことしてるの?登山とボルダリングと、あとマラソン?は知ってる。」
野菜を切り終わったので、今度は塊肉を小さく切って行く。
「んー、そんなもんだよね?」
「そうね、基本的には登山だけど。別に高い山に登りたいとか、登山家になりたいとかじゃなくて、そこそこの山をそこそこで登って、ぼーっとしたいだけだから。なんならトレッキングに近い。マラソンも速く走りたい訳でもないし、ボルダリングはこの前初めて行った。」
「このみん、末ちゃんはモテモテだからさ、俺とだけ遊んでくれる訳じゃないんだよー。悲しいね。」
「モテモテって…ただ趣味ごとに顔見知りがいるだけだよ。仲良いかって言われるとまた違うし。個人プレイの趣味ばっかりだし。」
「そうなんだ!末ちゃんは、たくさん友達がいるイメージだった。」
末沢はアルカイックな微笑みで、野菜をザルに入れた。
「私が友達って言えるのは、この集まりぐらいよ。」
「末ちゃん、好き。」
ほとりが末沢の肩に頭を乗せる。
「すえも、ほとり、すき。」
ほとりの頭に、頭をコツンと当てる。
「まつだも、すえとこのみ、すきー。」
後ろから女子2人を抱えるように抱きしめた。
「こら、やめろ。末さんにだけ抱きついてろ。」
「やーん!このみんの彼ピッピに怒られちゃったー!」
灘川にペイッと腕を外された松田は、アルミホイルを持って野外炉へ移動した。
「こっち、準備終わったよ。全部切れた?」
「紙皿と割り箸の準備もバッチリっす。」
「うん!終わったよ。」
「はい、奉行の出番だよ。」
野菜のザルと、肉のトレーを渡す。
トングをカチカチ鳴らして、灘川も野外炉に移動した。
リビングに置いたクーラーボックスから缶ビールを取り出し、女子チームはチェアに座って飲み出す。
缶を開ける音が、耳に心地よい。
「はー!昼から飲むビールは美味い!」
「んふふ!楽しい!」
松田の準備したリビングは居心地が良く、オシャレだった。
テーブルには可愛いランチョンマットが敷かれ、足りないチェア代わりのゴツいコンテナには、座り心地が良いように可愛い柄の座布団が置いてある。
テーブルの中央は、レトロなデザインのランタンが置かれている。
「これ松田くんの私物?」
「うん、あいつオシャレなもの好きじゃん。マラソンや登山の服とかも洒落てるの着てるよ。アウトドアショップに行くのハマってるらしいし。」
ビールをちびちび飲みながら、私物を物色していると、灘川が肉を運んで来た。
「はい、第1弾。」
「ありがとー!美味しそー!」
ほんのりレア感が残った肉は、口の中でジュワッと肉汁が溢れた。
「美味しい、奉行美味しいです。」
「灘くんすごい。美味しい。」
褒められて満足そうな顔をした灘川は、野外炉に戻って行った。
アルミホイルを持った松田と阿部が、リビングにやって来た。
「サーモンと野菜のホイル焼きだよ。」
「灘川さんがリビング行ってて良いっていうから、戻ってきた。」
「奉行、自由にやりたいんだよ。」
「焼いてる奉行、覗いてこようかな。」
「お、いったれいったれ、ジョカノ!俺はここをDJブースにしておくぜ!」
「大きい音は迷惑になるから、リビング内で聞こえるくらいの音にしてね。」
「テーブル内BGM程度にしまっす!」
小さな音で流した曲はボサノバで、カフェ風の雰囲気になった。
「なーだーくん!」
「なーあーに。」
「楽しそうだね。」
「うん、ほとりは?」
「楽しい!そして美味しい!万歳!」
ちょうど焼き上がった肉を、フーフーしてから、ほとりの口に放り込んだ。
「美味ーー!カルビー!タン食べたい。」
「タン無かったよ。」
「タンのない焼肉…」
「今度焼くから、泣くまで食べて良いから。」
「やったー!泣きながら食べるね!」
「いちゃついてんな…あそこ。」
バカップルを眺めて、3人はビールを飲む。
「羨ましいっす。」
しょぼんとした声で阿部がつぶやく。
「あれ?阿部くん彼女は?」
「別れましたー。末さん、美女紹介してくださいよ。」
「私、女友達はほとりしかいないからな。」
サーモンをつつきながら、遠くを見る末沢。
「えっ!マジっすか!」
「末ちゃん、気難しいからね。」
「お、うるせーぞ松田。」
末沢は酔っ払っているため、足の甲で松田の足を蹴った。
「末ちゃん、暴れん坊将軍。」
「松田さんは、女友達で美女は?」
「え、一番の美女は末ちゃんだから、そうなってくると紹介できない。」
なんとなく得意そうな末沢。
「美女じゃなくて良いっす。」
「彼氏欲しい子いるか、聞いてみるよ。社内なら割とすぐだけど。」
「…できれば社外で。」
ほとりが、焼けた肉をフーフーして、灘川に食べさせている。
「彼女欲しい…切実に…」
阿部は、ゴクゴクとビールを飲み干した。
0
お気に入りに追加
868
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。
恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。
副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。
なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。
しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!?
それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。
果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!?
*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*不定期更新になることがあります。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる