上 下
28 / 89
3章

25・再会(1)

しおりを挟む




 いつも通りに庭の手入れをし、父の仕事を手伝い、奉仕活動の教材準備などをしながら数日を過ごしていたけれど、プルメリアが家に突撃してくることは無かった。
「懲りたんじゃないですか。」
 教会へ行く準備をしながら、ミュゲが取りつく島もなく答える。
「そうなのかな。」
「あれだけ強要して来てたんですから、ジャスミン様の様子を見逃すはずはないし、下半身騎士とのことも見てたでしょうね。」
 根に持つタイプのミュゲは、未だにオスマンのことを下半身騎士と呼んでいた。
 ジャスミンは聞くたびに笑ってしまう。
「好きな相手が、自分じゃない女性を連れて行為をしようとする姿を見て、傷つかない訳がないから…プルメリアは落ち込んでるのかも。」
「自分と重ねてます?」
 声を出さずに、アレク様と口だけで唱えるミュゲを、ジャスミンがぺちんと叩いた。
「もう!すぐそういうこと言う!違うわよ!」
「はいはい、そうですね。失礼しました。」
 ミュゲにオモチャを与えてしまったばかりに、ジャスミンはこのところずっと恥ずかしい思いをさせられている。
ーこんなの、否が応でも意識してしまうじゃない。
「今日はとっても暑くなりそうだから、早めに行って帰って来ましょう。」
「かしこまりました。」

 二人が教会に着くと、なぜか乗馬服を着たプルメリアが待っていた。
「何でいるの?」
 驚きのあまり、そのまま声に出してしまったが、プルメリアはムッとした顔をしてそっぽを向いた。
「来ちゃ悪い訳?教会は誰にでも開かれているはずよ。」
「…そうだけど、乗馬でもするの…?ここには荷馬車の馬しかいないわよ?」
 段々と真っ赤になり、ぷるぷる震えていくプルメリアが、大きな声で言い放った。
「身軽に動ける服装が、これしかないのよ!仕方ないでしょう!」
 ぎゅっと強く握りしめた手を見て、ジャスミンが微笑んだ。
「そう、分かったわ。じゃあ、一緒について来て。子ども達に紹介してあげる。」
 プルメリアは、口を尖らせたまま不機嫌そうにしているけれど、何も言わずにジャスミンの後にくっついて、子ども達の居住エリアに入って行った。
 ミュゲがこっそりジャスミンに耳打ちをする。
「不器用すぎませんか?」
「それが良いところなのかもね。可愛いじゃない。」
 庭にいた子ども達が気づき、ジャスミンのところへ走って来る。
「ジャスミン様ー!おはよー!」
「おはよう、みんな。今日は、新しいお友達を連れて来たの。みんなと遊びたいんですって!」
 そう言うと、子ども達の顔がキラキラし始める。
「本当?!じゃあ、ここのこと、教えてあげる!」
「名前、なんて言うの?」
「お洋服、素敵ね!」
 好奇心旺盛な子どもに囲まれて、慣れていないプルメリアはオロオロしていた。
「子どもが子どもに遊ばれてますね。」
「きっと、すぐにみんなのことが好きになるわよ。」
 手を引っ張られて連れて行かれたプルメリアを見て、二人は笑った。

 散々遊び倒されてぐったりしたプルメリアに、ジャスミンが冷えたお茶を渡した。
「お疲れ様、楽しそうだったわね。」
 受け取って一息で飲み干すと、プルメリアが大きく息を吐いた。
「そうね、体力が尽きないからびっくりしたわ。」
「元気いっぱいだけど、苦労してる子達なのよ。」
「…そうね。」
 ジャスミンが隣に座り、お茶を飲む。
「それで、どうしてここが分かったの?」
 目をそらしながら、プルメリアが答えた。
「少し調べればすぐ分かるわよ。リバーサイド公爵家は有名だから、忍ばない限りは全て周知されてると思った方が良いわよ。」
 確かに、奉仕活動をしていることは隠していない。ジャスミンは納得し、次の話題を振る。
「で、どうしたの?私に言いたいことがあって来たんじゃないの?」
 プルメリアはギクッとして、しばし黙っていた。
「…悪かったわ。」
「え?」
「泣いてすがるほど、好きな人がいるって知らなかったから…酷いことをしたと、思ってる。」
 最後の方は消え入りそうだったけれど、全部聞こえた。
 ただ、ジャスミンは後半よりも前半部分が引っかかって仕方なかった。
「待って、泣いてすがるほど好きって、何?!どういうこと?!」
「え?自覚ないの?」
 プルメリアがキョトンとした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

★完結 【R18】変態だらけの18禁乙女ゲーム世界に転生したから、死んで生まれ変わりたい

石原 ぴと
恋愛
 学園の入学式。デジャブを覚えた公爵令嬢は前世を思い出した。 ――ああ、これはあのろくでもない18禁乙女ゲームの世界だと。  なぜなら、この世界の攻略対象者は特殊性癖持ちのへんたいばかりだからだ。  1、第一王子 照れ屋なM男である。  2、第二王子 露出性交性愛。S。  3、王弟の公爵閣下 少女性愛でM。  4、騎士団長子息で第一皇子の側近 ドMの犬志願者。  5、生徒会長 道具や媚薬を使うのが好きでS。  6、天才魔術教師 監禁ヤンデレ。  妹と「こんなゲーム作った奴、頭おかしい」などと宣い、一緒にゲームしていた頃が懐かしい。 ――ああ、いっそ死んで生まれ変わりたい。  と思うが、このゲーム攻略対象の性癖を満たさないと攻略対象が魔力暴走を起こしてこの大陸沈むんです。奴ら標準スペックできちがい並みの魔力量を兼ね備えているので。ちな全員絶倫でイケメンで高スペック。現実世界で絶倫いらねぇ! 「無理無理無理無理」 「無理無理無理無理無理無理」」  あれ…………?

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

完結 チート悪女に転生したはずが絶倫XL騎士は私に夢中~自分が書いた小説に転生したのに独占されて溺愛に突入~

シェルビビ
恋愛
 男の人と付き合ったことがない私は自分の書いた18禁どすけべ小説の悪女イリナ・ペシャルティに転生した。8歳の頃に記憶を思い出して、小説世界に転生したチート悪女のはずが、ゴリラの神に愛されて前世と同じこいつおもしれえ女枠。私は誰よりも美人で可愛かったはずなのに皆から面白れぇ女扱いされている。  10年間のセックス自粛期間を終え18歳の時、初めて隊長メイベルに出会って何だかんだでセックスする。これからズッコンバッコンするはずが、メイベルにばっかり抱かれている。  一方メイベルは事情があるみたいだがイレナに夢中。  自分の小説世界なのにメイベルの婚約者のトリーチェは訳がありそうで。

本日をもって、魔術師団長の射精係を退職するになりました。ここでの経験や学んだことを大切にしながら、今後も頑張っていきたいと考えております。

シェルビビ
恋愛
 膨大な魔力の引き換えに、自慰をしてはいけない制約がある宮廷魔術師。他人の手で射精をして貰わないといけないが、彼らの精液を受け入れられる人間は限られていた。  平民であるユニスは、偶然の出来事で射精師として才能が目覚めてしまう。ある日、襲われそうになった同僚を助けるために、制限魔法を解除して右手を酷使した結果、気絶してしまい前世を思い出してしまう。ユニスが触れた性器は、尋常じゃない快楽とおびただしい量の射精をする事が出来る。  前世の記憶を思い出した事で、冷静さを取り戻し、射精させる事が出来なくなった。徐々に射精に対する情熱を失っていくユニス。  突然仕事を辞める事を責める魔術師団長のイースは、普通の恋愛をしたいと話すユニスを説得するために行動をする。 「ユニス、本気で射精師辞めるのか? 心の髄まで射精が好きだっただろう。俺を射精させるまで辞めさせない」  射精させる情熱を思い出し愛を知った時、ユニスが選ぶ運命は――。

R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる
恋愛
 気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。  主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。  もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。  ※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。

18禁の乙女ゲームの悪役令嬢~恋愛フラグより抱かれるフラグが上ってどう言うことなの?

KUMA
恋愛
※最初王子とのHAPPY ENDの予定でしたが義兄弟達との快楽ENDに変更しました。※ ある日前世の記憶があるローズマリアはここが異世界ではない姉の中毒症とも言える2次元乙女ゲームの世界だと気付く。 しかも18禁のかなり高い確率で、エッチなフラグがたつと姉から嫌って程聞かされていた。 でもローズマリアは安心していた、攻略キャラクターは皆ヒロインのマリアンヌと肉体関係になると。 ローズマリアは婚約解消しようと…だが前世のローズマリアは天然タラシ(本人知らない) 攻略キャラは婚約者の王子 宰相の息子(執事に変装) 義兄(再婚)二人の騎士 実の弟(新ルートキャラ) 姉は乙女ゲーム(18禁)そしてローズマリアはBL(18禁)が好き過ぎる腐女子の処女男の子と恋愛よりBLのエッチを見るのが好きだから。 正直あんまり覚えていない、ローズマリアは婚約者意外の攻略キャラは知らずそこまで警戒しずに接した所新ルートを発掘!(婚約の顔はかろうじて) 悪役令嬢淫乱ルートになるとは知らない…

転生したら冷徹公爵様と子作りの真っ最中だった。

シェルビビ
恋愛
 明晰夢が趣味の普通の会社員だったのに目を覚ましたらセックスの真っ最中だった。好みのイケメンが目の前にいて、男は自分の事を妻だと言っている。夢だと思い男女の触れ合いを楽しんだ。  いつまで経っても現実に戻る事が出来ず、アルフレッド・ウィンリスタ公爵の妻の妻エルヴィラに転生していたのだ。  監視するための首輪が着けられ、まるでペットのような扱いをされるエルヴィラ。転生前はお金持ちの奥さんになって悠々自適なニートライフを過ごしてたいと思っていたので、理想の生活を手に入れる事に成功する。  元のエルヴィラも喋らない事から黙っていても問題がなく、セックスと贅沢三昧な日々を過ごす。  しかし、エルヴィラの両親と再会し正直に話したところアルフレッドは激高してしまう。 「お前なんか好きにならない」と言われたが、前世から不憫な男キャラが大好きだったため絶対に惚れさせることを決意する。

処理中です...