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3章
25・再会(1)
しおりを挟むいつも通りに庭の手入れをし、父の仕事を手伝い、奉仕活動の教材準備などをしながら数日を過ごしていたけれど、プルメリアが家に突撃してくることは無かった。
「懲りたんじゃないですか。」
教会へ行く準備をしながら、ミュゲが取りつく島もなく答える。
「そうなのかな。」
「あれだけ強要して来てたんですから、ジャスミン様の様子を見逃すはずはないし、下半身騎士とのことも見てたでしょうね。」
根に持つタイプのミュゲは、未だにオスマンのことを下半身騎士と呼んでいた。
ジャスミンは聞くたびに笑ってしまう。
「好きな相手が、自分じゃない女性を連れて行為をしようとする姿を見て、傷つかない訳がないから…プルメリアは落ち込んでるのかも。」
「自分と重ねてます?」
声を出さずに、アレク様と口だけで唱えるミュゲを、ジャスミンがぺちんと叩いた。
「もう!すぐそういうこと言う!違うわよ!」
「はいはい、そうですね。失礼しました。」
ミュゲにオモチャを与えてしまったばかりに、ジャスミンはこのところずっと恥ずかしい思いをさせられている。
ーこんなの、否が応でも意識してしまうじゃない。
「今日はとっても暑くなりそうだから、早めに行って帰って来ましょう。」
「かしこまりました。」
二人が教会に着くと、なぜか乗馬服を着たプルメリアが待っていた。
「何でいるの?」
驚きのあまり、そのまま声に出してしまったが、プルメリアはムッとした顔をしてそっぽを向いた。
「来ちゃ悪い訳?教会は誰にでも開かれているはずよ。」
「…そうだけど、乗馬でもするの…?ここには荷馬車の馬しかいないわよ?」
段々と真っ赤になり、ぷるぷる震えていくプルメリアが、大きな声で言い放った。
「身軽に動ける服装が、これしかないのよ!仕方ないでしょう!」
ぎゅっと強く握りしめた手を見て、ジャスミンが微笑んだ。
「そう、分かったわ。じゃあ、一緒について来て。子ども達に紹介してあげる。」
プルメリアは、口を尖らせたまま不機嫌そうにしているけれど、何も言わずにジャスミンの後にくっついて、子ども達の居住エリアに入って行った。
ミュゲがこっそりジャスミンに耳打ちをする。
「不器用すぎませんか?」
「それが良いところなのかもね。可愛いじゃない。」
庭にいた子ども達が気づき、ジャスミンのところへ走って来る。
「ジャスミン様ー!おはよー!」
「おはよう、みんな。今日は、新しいお友達を連れて来たの。みんなと遊びたいんですって!」
そう言うと、子ども達の顔がキラキラし始める。
「本当?!じゃあ、ここのこと、教えてあげる!」
「名前、なんて言うの?」
「お洋服、素敵ね!」
好奇心旺盛な子どもに囲まれて、慣れていないプルメリアはオロオロしていた。
「子どもが子どもに遊ばれてますね。」
「きっと、すぐにみんなのことが好きになるわよ。」
手を引っ張られて連れて行かれたプルメリアを見て、二人は笑った。
散々遊び倒されてぐったりしたプルメリアに、ジャスミンが冷えたお茶を渡した。
「お疲れ様、楽しそうだったわね。」
受け取って一息で飲み干すと、プルメリアが大きく息を吐いた。
「そうね、体力が尽きないからびっくりしたわ。」
「元気いっぱいだけど、苦労してる子達なのよ。」
「…そうね。」
ジャスミンが隣に座り、お茶を飲む。
「それで、どうしてここが分かったの?」
目をそらしながら、プルメリアが答えた。
「少し調べればすぐ分かるわよ。リバーサイド公爵家は有名だから、忍ばない限りは全て周知されてると思った方が良いわよ。」
確かに、奉仕活動をしていることは隠していない。ジャスミンは納得し、次の話題を振る。
「で、どうしたの?私に言いたいことがあって来たんじゃないの?」
プルメリアはギクッとして、しばし黙っていた。
「…悪かったわ。」
「え?」
「泣いてすがるほど、好きな人がいるって知らなかったから…酷いことをしたと、思ってる。」
最後の方は消え入りそうだったけれど、全部聞こえた。
ただ、ジャスミンは後半よりも前半部分が引っかかって仕方なかった。
「待って、泣いてすがるほど好きって、何?!どういうこと?!」
「え?自覚ないの?」
プルメリアがキョトンとした。
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