上 下
113 / 194
第三部

Sky's The Limit・15-3

しおりを挟む


「ふーん…そおなんら」
 意地悪そうにニヤニヤしたきいくんが、私の耳を弄ぶ。
「なかちゃんのこと、上から下まで全部知りたいし、どんな時に恥ずかしがって、喜んで、悲しくなるのか、怒ったり泣いたり、感情の揺れも全部知りたい。それで、全部俺のものにしたい。揺れの原因は、全部俺でありたい」
 待って、本当無理。なにそれ、やめて胸が苦しい。
 嬉しいやら恥ずかしいやら、首まで赤くなってると思うし、ちょっと視界が滲んでる。
「あ、ありがとうございます…分かったので、もう分かりましたので」
「分かってないよ、なかちゃんはまだ俺のこと全然知らない。俺がどれだけ卑怯で弱虫なのかも、すごくワガママで欲しがりなのかも、全然知らないんだ」
 何それ…可愛いのコンボじゃん…ビンゴ大会だったら全部のマス目空いちゃってるじゃん。
「…うう…きいくん好き…可愛い…無理…愛してる」
「本当?」
「きいくんが、きいくんでいるだけで、全部好き…」
 生きてるだけで最高、ありがとうございます。人として尊敬できる上に、人間らしい部分も持ち合わせてるとか、好きにならずにいられないよ。
 きいくんは、眉尻を下げて微笑んだ。
「……ありがとう」
 耳から手が離れると、きいくんはお箸で肉団子を口に入れた。
「おいしい」
「よ、良かったね」
「うん!」
 顔を両手で仰ぎつつ、私も夕飯を食べることにした。
 最近、きいくんの愛の言葉が多くて、慣れたって言ったけどアレは嘘でした。全然慣れてなかったわ。世界で一番かっこよくて可愛くて好きな男性から、そんなこと言われて慣れるとか烏滸がましいこと言った。申し訳ございません。

 それから一週間くらい、きいくんはこの前までの落ち込みが嘘みたいになくなって、普段通りの楽しそうな様子になった。
「なかちゃん、ありがとね」
「え?」
「ずっと、俺のこと心配してたでしょ」
 ベッドの中、きいくんの腕に閉じ込められている。
「ううん、私が好きでやってたから、気にしないで」
「それでも、ありがとう。俺、もう大丈夫だから林家に帰っていいよ」
 ニコって笑っているのに、私は何故か不安になって首を振った。
「まだいられるよ?」
「でも、そろそろ妹様に怒られそう」
「それは…うん…」
 実音々は若干、そろそろ耐えられなさそうな感じではある。
「ね?俺、今すごく元気だから大丈夫だよ」
「そう?」
「うん!」
 きいくんも、言い出したら聞かないところがある。
「分かった。じゃあ、明日は会社に行ったらそのまま家に帰るね」
「うん、気をつけてね」
 額にちゅっとキスをされて、私達は眠った。

 翌朝、出勤する前に、これだけはと伝えておいた。
「冷凍庫と冷蔵庫に、サラダと常備菜があるから食べてね!三、四日はもつからね!」
「分かった、ありがとう。気をつけてね」
 唇にキスを落とされて、ゆっくりと名残惜しむように離れる。
「て、照れる…」
「可愛いなあ、なかちゃん」
「いってきます」
「ん!」
 手を振るきいくんに見送られて、私はきいくんの家を出た。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

処理中です...