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本編
1ー3・悲報:所詮、リア恋枠は妄想でした。
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※男性同士の接触、キスシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
15分くらい休んでいたら、ばんばん効果なのかめちゃくちゃ元気になった。脳から元気になる物質がたくさん出たに違いない。
風邪をひいた時や具合が悪い時、ばんばんが出ていたコンサート映像やバラエティ番組の録画を見ると、熱は下がるし具合は良くなるのだ。
リアルで会ったなら、尚のこと回復が速い。
ベッドから降りてスタッフさんにお礼を言い、会場に戻ることにした。
まだライブは続行中で、あと30分以上は終わらないだろう。
だけど、私の脳内はライブどころじゃない。ばんばんの存在によりスパークしてしまった。ずっとドキドキが止まらなくて、息も絶え絶えだ。
誘われたからといって、自ら担当の元へ行くことはありえない。死にに行くようなものだ。いくら向こうが優しいからって、気軽に話をしていい人じゃない。
大好きだけど、大好きだからこそ距離が必要なのだ。
だから…会場の端っこで静かにしているから、楽しそうにしているばんばんを観察させて欲しい。絶対に邪魔なんてしない。
生きているばんばんが、見たいんだ。
そっと会場の重いドアを開き、速やかに中へ入る。
ライブはかなり盛り上がっていて、歓声が上がり、拳は突き上げられ、モッシュも最高潮に動いている。
助け出してもらえて良かった…あそこにいたら確実に病院行きだった。
そっと視線を移し、後ろの方でのんびり音楽を楽しんでいる人達を見る。
ばんばんとお連れ様は、どこにいるだろうか。
ばんばんサーチアイが作動する。担当をしている間に身に付けた、どこにいても、シルエットだけで必ず見つけ出せるスキルだ。
どんなに遠い場所でも、先輩のコンサートの大量のバックダンサーの中からも、絶対に見つけ出せる。ダンスの音取り、仕草、癖、全部覚えているから、例え手だけだってどこにいるか分かる。
それに、キラキラと輝いているのだ。
きっと、誰でもそうだと思う。みんな自担が最高にかっこいいと思っているし、一番素敵だと思っている。
あ、あそこにいる。
リズムに合わせて頭を揺らし、楽しそうにお酒を飲んでいた。
にこにこ笑う顔は可愛いし、楽しそうにしているだけで、私は嬉しくて幸せな気持ちになる。
ばんばん、生まれて来てくれて、アイドルになってくれてありがとう。私は、あなたに出会えて最高にハッピーです。
そうして眺めていると、先程のお連れ様であろう方が、ばんばんの隣に戻ってきた。
随分、仲が良いんだろうな。肩を組んで笑っている。ばんばんも普段のアイドル業じゃ見せないような、とろけるような柔らかい表情で、肩に乗るお連れ様の手を取って指を絡めた。
え?どういうこと?
男性同士も仲が良いと手を繋いだりするのかな。私はよく知らないけど、そういうこともあるよね。ほら、事務所に所属してるタレント同士は仲良くていつも一緒にいるし。それに、雑誌だとわちゃわちゃくっついて楽しそうに撮影されてるし。そういうあれでしょ?知ってる知ってる。
そう自分に言い聞かせても、心臓がバクバクと大きな音を立てている。今日はずっとこんな調子で、私の心臓は壊れてしまうんじゃないだろうか。
二人は体が重なるほど近い距離を保ち、耳元で囁き合いながらお酒を飲んでいる。
待って、待って。これは、爆音で聞こえないから距離が近いだけだよね?
さっきまで肩にあった手が、ばんばんの腰に移動してるけど、普通よりちょっと仲が良いだけだよね?
頭の中が混乱している。
私が今目にしてるのは、サンキュウ!の伴喜一だよね?大好きな自担のばんばんだよね?そっくりさんじゃないよね?
うん、そっくりさんじゃないってことは、私が一番よく分かってる。
そして次のイントロが流れ、ファン人気の高い曲で周りが最高潮に盛り上がる中、二人は人目を忍んでキスをした。
誰か、嘘だって言って。
今私が見たのは、妄想だって言って。
次に目を開けたらベッドの中で、ああ良い夢だったなー最後の方は何故かBLだったけど。ばんばんかっこよかったなー!って、夢オチになって。
自担のスキャンダルを、この目で見る日が来るとは思わなかった。
私はいい年してアイドルオタクで、夢女で、担当はリア恋枠だけど、こんな風に夢が破れるとは思ってなかった。
しばらく突っ立っていると、後ろから来た人にぶつかられて、よろけて地面に膝をついた。
「あっ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
謝ってくれてる声に反応が出来ず、呆然と座り込んでいれば、頭の上で声がした。
「お姉さん、大丈夫ですか?まだ辛い?」
大好きな、大好きな自担の声が、二度も私を心配してくれている。
痛いくらいに叩く心臓が、これが現実だと教えて来る。
「だ、だ大丈夫です。すみません、何度も。」
ぶつかって来た人はいつの間にか立ち去り、彼が手を引っ張って起こしてくれた。
また、自担の手を触ってしまった。嬉しいやら悲しいやら辛いやら、感情がとっちらかって迷子になっている。
もうダメだ…この場にいるのが辛すぎる。
そっと顔を上げれば、優しく微笑むばんばんがいた。
条件反射で涙ぐむ。
「痛くない?どこか怪我は?」
「なっななない、ないです。」
「良かった。戻って来れたんですね。こっちで俺たちと見ましょうよ。」
無邪気に笑う自担が、好きで辛くて嬉しくて悲しくて、この人はこんなに無防備で、アイドルとしてやっていけるんだろうかと、心配になった。ファンにキスシーン目撃されるって、お酒に酔ってたとしても隙がありすぎる。ダメでしょ!
お連れ様もちゃんと気をつけてよ!自担の仕事がなくなるでしょ!どうしてくれんのよ、業界干されたら!もう自担に会えなくなっちゃう、そんなの嫌だ。
私が彼女だったら、絶対にそんなことさせないのに。スキャンダル沙汰になんて、絶対にしないのに。
まあ、私が彼女になれる可能性なんて0%ですけどね。
だって、自担はゲイなんだもん。女は恋愛対象外なんだから。
リア恋枠の夢すら見られない。
「いえ、あの…お礼だけお伝えして帰ろうかと思いまして。ご挨拶に参りました。」
「えっ、帰っちゃうんですか?」
悲しそうな顔をする自担、私ごときにありがとう。
「はい、今日は何度も助けていただきありがとうございました。決して、決してこのご恩は忘れません。もし、あなたが困っているところに遭遇することがあれば、必ずお返しいたします。」
ちょっと早口になってしまったけれど、それだけは伝えたかった。
「あはは、大袈裟。気にしなくていいのに。じゃあ、気をつけて帰ってくださいね。」
「ありがとうございます。お連れ様にもよろしくお伝え下さい。」
ぺこっと頭を下げて、振り返る勇気もなく、私はライブ会場を後にした。
ロッカーから荷物を引き上げ、着替えることもなく、そのまま家路に着く。
辛い、とても辛い。
愛してやまない私の担当には、恋人がいた…。
いいの、だっていい年なんだもん。恋人の一人や二人はいるさ。
私だって彼氏がいたこともある。
自担と付き合えるとも思ってない。
だけど、アイドルの恋愛事情は知りたくなかった。受け止めきれない。
恋人がいてもいい、でも知りたくない。
それに、もうリア恋枠の夢は見られない。こんなに好きでも、受け入れてはもらえないのだ。
なぜなら、自担はゲイだったから。
所詮、リア恋枠は私の妄想でした。
明日から、どうしよう。
15分くらい休んでいたら、ばんばん効果なのかめちゃくちゃ元気になった。脳から元気になる物質がたくさん出たに違いない。
風邪をひいた時や具合が悪い時、ばんばんが出ていたコンサート映像やバラエティ番組の録画を見ると、熱は下がるし具合は良くなるのだ。
リアルで会ったなら、尚のこと回復が速い。
ベッドから降りてスタッフさんにお礼を言い、会場に戻ることにした。
まだライブは続行中で、あと30分以上は終わらないだろう。
だけど、私の脳内はライブどころじゃない。ばんばんの存在によりスパークしてしまった。ずっとドキドキが止まらなくて、息も絶え絶えだ。
誘われたからといって、自ら担当の元へ行くことはありえない。死にに行くようなものだ。いくら向こうが優しいからって、気軽に話をしていい人じゃない。
大好きだけど、大好きだからこそ距離が必要なのだ。
だから…会場の端っこで静かにしているから、楽しそうにしているばんばんを観察させて欲しい。絶対に邪魔なんてしない。
生きているばんばんが、見たいんだ。
そっと会場の重いドアを開き、速やかに中へ入る。
ライブはかなり盛り上がっていて、歓声が上がり、拳は突き上げられ、モッシュも最高潮に動いている。
助け出してもらえて良かった…あそこにいたら確実に病院行きだった。
そっと視線を移し、後ろの方でのんびり音楽を楽しんでいる人達を見る。
ばんばんとお連れ様は、どこにいるだろうか。
ばんばんサーチアイが作動する。担当をしている間に身に付けた、どこにいても、シルエットだけで必ず見つけ出せるスキルだ。
どんなに遠い場所でも、先輩のコンサートの大量のバックダンサーの中からも、絶対に見つけ出せる。ダンスの音取り、仕草、癖、全部覚えているから、例え手だけだってどこにいるか分かる。
それに、キラキラと輝いているのだ。
きっと、誰でもそうだと思う。みんな自担が最高にかっこいいと思っているし、一番素敵だと思っている。
あ、あそこにいる。
リズムに合わせて頭を揺らし、楽しそうにお酒を飲んでいた。
にこにこ笑う顔は可愛いし、楽しそうにしているだけで、私は嬉しくて幸せな気持ちになる。
ばんばん、生まれて来てくれて、アイドルになってくれてありがとう。私は、あなたに出会えて最高にハッピーです。
そうして眺めていると、先程のお連れ様であろう方が、ばんばんの隣に戻ってきた。
随分、仲が良いんだろうな。肩を組んで笑っている。ばんばんも普段のアイドル業じゃ見せないような、とろけるような柔らかい表情で、肩に乗るお連れ様の手を取って指を絡めた。
え?どういうこと?
男性同士も仲が良いと手を繋いだりするのかな。私はよく知らないけど、そういうこともあるよね。ほら、事務所に所属してるタレント同士は仲良くていつも一緒にいるし。それに、雑誌だとわちゃわちゃくっついて楽しそうに撮影されてるし。そういうあれでしょ?知ってる知ってる。
そう自分に言い聞かせても、心臓がバクバクと大きな音を立てている。今日はずっとこんな調子で、私の心臓は壊れてしまうんじゃないだろうか。
二人は体が重なるほど近い距離を保ち、耳元で囁き合いながらお酒を飲んでいる。
待って、待って。これは、爆音で聞こえないから距離が近いだけだよね?
さっきまで肩にあった手が、ばんばんの腰に移動してるけど、普通よりちょっと仲が良いだけだよね?
頭の中が混乱している。
私が今目にしてるのは、サンキュウ!の伴喜一だよね?大好きな自担のばんばんだよね?そっくりさんじゃないよね?
うん、そっくりさんじゃないってことは、私が一番よく分かってる。
そして次のイントロが流れ、ファン人気の高い曲で周りが最高潮に盛り上がる中、二人は人目を忍んでキスをした。
誰か、嘘だって言って。
今私が見たのは、妄想だって言って。
次に目を開けたらベッドの中で、ああ良い夢だったなー最後の方は何故かBLだったけど。ばんばんかっこよかったなー!って、夢オチになって。
自担のスキャンダルを、この目で見る日が来るとは思わなかった。
私はいい年してアイドルオタクで、夢女で、担当はリア恋枠だけど、こんな風に夢が破れるとは思ってなかった。
しばらく突っ立っていると、後ろから来た人にぶつかられて、よろけて地面に膝をついた。
「あっ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
謝ってくれてる声に反応が出来ず、呆然と座り込んでいれば、頭の上で声がした。
「お姉さん、大丈夫ですか?まだ辛い?」
大好きな、大好きな自担の声が、二度も私を心配してくれている。
痛いくらいに叩く心臓が、これが現実だと教えて来る。
「だ、だ大丈夫です。すみません、何度も。」
ぶつかって来た人はいつの間にか立ち去り、彼が手を引っ張って起こしてくれた。
また、自担の手を触ってしまった。嬉しいやら悲しいやら辛いやら、感情がとっちらかって迷子になっている。
もうダメだ…この場にいるのが辛すぎる。
そっと顔を上げれば、優しく微笑むばんばんがいた。
条件反射で涙ぐむ。
「痛くない?どこか怪我は?」
「なっななない、ないです。」
「良かった。戻って来れたんですね。こっちで俺たちと見ましょうよ。」
無邪気に笑う自担が、好きで辛くて嬉しくて悲しくて、この人はこんなに無防備で、アイドルとしてやっていけるんだろうかと、心配になった。ファンにキスシーン目撃されるって、お酒に酔ってたとしても隙がありすぎる。ダメでしょ!
お連れ様もちゃんと気をつけてよ!自担の仕事がなくなるでしょ!どうしてくれんのよ、業界干されたら!もう自担に会えなくなっちゃう、そんなの嫌だ。
私が彼女だったら、絶対にそんなことさせないのに。スキャンダル沙汰になんて、絶対にしないのに。
まあ、私が彼女になれる可能性なんて0%ですけどね。
だって、自担はゲイなんだもん。女は恋愛対象外なんだから。
リア恋枠の夢すら見られない。
「いえ、あの…お礼だけお伝えして帰ろうかと思いまして。ご挨拶に参りました。」
「えっ、帰っちゃうんですか?」
悲しそうな顔をする自担、私ごときにありがとう。
「はい、今日は何度も助けていただきありがとうございました。決して、決してこのご恩は忘れません。もし、あなたが困っているところに遭遇することがあれば、必ずお返しいたします。」
ちょっと早口になってしまったけれど、それだけは伝えたかった。
「あはは、大袈裟。気にしなくていいのに。じゃあ、気をつけて帰ってくださいね。」
「ありがとうございます。お連れ様にもよろしくお伝え下さい。」
ぺこっと頭を下げて、振り返る勇気もなく、私はライブ会場を後にした。
ロッカーから荷物を引き上げ、着替えることもなく、そのまま家路に着く。
辛い、とても辛い。
愛してやまない私の担当には、恋人がいた…。
いいの、だっていい年なんだもん。恋人の一人や二人はいるさ。
私だって彼氏がいたこともある。
自担と付き合えるとも思ってない。
だけど、アイドルの恋愛事情は知りたくなかった。受け止めきれない。
恋人がいてもいい、でも知りたくない。
それに、もうリア恋枠の夢は見られない。こんなに好きでも、受け入れてはもらえないのだ。
なぜなら、自担はゲイだったから。
所詮、リア恋枠は私の妄想でした。
明日から、どうしよう。
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