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第十六章…「生きた証」

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レトの言葉に誰も何も言えなかった。
何て言葉をかければいいかわからなかったからだ。だがしかし、レイトは迷わずにユリィの方を見る。

「ユリィ、転移魔法で全員を外まで運んでくれ」

「でもレイト……本気なのか?」

「冗談に聞こえるか?」

ユリィの問いを心のこもっていない声で返した。ユリィは一瞬戸惑うが冷静に考えれば、誰が一番辛いかくらいは気づく。気づいてしまえば後はどんなにユリィ達が言葉を並べても叶うはずがない。
そこまで理解すれば、レイトの言葉通りにするしかない。

「……わかった、皆…俺の側に」

「ユリィ!?」

ユリィの言葉にエリオが声をあげた。
ひなもエリオと同じ気持ちなのだろう、ユリィを見つめたまま固まっている。
ミエハネはユリィとレイトを交互に見ているが結論は変わることはない。

「いいから早く!」

「__っ、わ、わかった」

「___っ」

ユリィの怒鳴るような声にビクつくエリオとひなはすぐにユリィの側に行くが、やはり納得の行っていないものは最後までは残りたがるのだろう。
ミエハネがユリィの側に行かない。

「おかしいです!何でレトが死ななければならないのですか!」

「そうしないといけないから」

「違う方法はないの?」

「ない……これが俺の出した答えだ」

ミエハネの言葉に答えるレト。
まだ何かを言おうとするミエハネの背中を押すレイト。
ミエハネは逆らうことのできぬ強さによりユリィの側に行ってしまうと、躊躇なくユリィは転移魔法を行使する。

「【転移テレポート】」

「ユリィ、待ってくれ___」

光に包まれてユリィ、エリオ、ひな、ミエハネの四人が消える。
残されたレイトとレトは、静かになった部屋の中を歩き始めて下に降りるために階段に向かう。
白い廊下。二人の靴の音。会話などない。ただひたすらに静かに歩く。
不意にレイトが口を開いた。

「……本当に無いのか?」

「……レイト?」

ピタリと足を止める。
一歩前に出たレトは振り返る。
俯いているレイトにレトは、ふっと微かに笑う。

「その顔……初めて見た時もしてた」

「……?」

懐かしそうにレトは再び歩きながら、どこか楽しそうに話し始める。

「あの時のレイトは笑わないし、喋らないしで今となったらよく仲良くなったよ」

「……あの時は荒れてたんだよ、色々と……でも助けられてからは……」

「なぁレイト……」

階段を1段1段ゆっくりと降りていく。
どこまでも白い。頭がおかしくなるくらいに白い。

「何だよ……」

「仲良くしてくれて、ありがとな」

「何だよ、改まって」

くすくすと笑って誤魔化す。

「俺の側にいてくれて、ありがとな」

「…………おぅ」

「俺のせいで、トラウマにさせて悪かったな」

「と、トラウマになんかなってねーし」

「ほんとかよ……」

「ほ、本当だし」

くすくすと笑うレト。
視界一杯に広がる、どこまでも続く白い廊下。
二人の声と足音しか聞こえない廊下。

「なぁレイト……」

「…………なんだよ」

目の前にある白い扉。
今レトはどんな表情をしているだろうか……今レイトはどんな表情をしているだろうか……
二人は横に並ぶ。
しかし、横を見ないで扉を見つめている。

「………っ、俺の願いを叶えてくれて………ありがとな」

「……当たり前だろ?……俺たちは、友達なんだからな……っ」

声が震えていた。
だけど涙は流さない。
ゆっくりと扉を開けると、目の前に置かれた大型の機械。
モニターがいくつもあり、そこに映し出されているのは様々だ。
ハートがとくんと鼓動を打ったときの波、体温、脈、心拍数などが映し出されていた。
レトはその機械の前まで歩いていくとレイトを見る。

「これを破壊してほしい」

「………わかった、マーカーを付けとく」

そう言ったレイトは、機械に触れる。
触れた場所には何も付いていなかったが透明化させているのだろう。
レトの表情が和らぐ。

「俺はこれからユリィの元に行く……レトはどうする?」

「俺は………ここに残るよ、一緒にいたら死にたくなくなっちゃうからここにいるよ」

「……そうか、わかった」

そう返したレイトだったが、がしっとレトの手首を掴む。

「へ!」

「【転移テレポート】」

「な___」

驚いたレトに対して悪戯する子供のような表情で笑うレイト。
シュンと音をたてて、闇の光に飲まれる。



闇の光が消えたときには、ユリィ、エリオ、ひなそしてミエハネが目の前にいる場所にいた。
レトはレイトの方を見て口を開くよりも先にレイトが口を開く。

「俺は、心残りがないままお前を逝かせたい……それに、一人あの場所で死ぬのは悲しいからな」

「………わかった」

レイトの言葉に頷いて優しく笑うレトはどこか嬉しそうなのと、ホッとしているようにも見えた。
レイトとレトに気づいた四人が近づいてきたとき、ミエハネはレイトの胸ぐらを掴む。感情的になっているミエハネには仕方の無い行動のため、レイトも大人しい。

「何でそんな簡単に殺せる覚悟ができる?何でレイトは、すぐに諦めきれる……どうして」

「…………ミエハネ」

涙目になっているミエハネにレイトはそっと口を開く。

「確かに俺は殺す覚悟をすぐに作れる癖がある……だけど、レトが調べに調べて出した結論なんだよ…もし、自分の意思とは関係なく他の人間や魔族を殺したとき誰が一番傷つくか考えてくれ」

「____っ、ごめん、俺」

「大丈夫だ」

謝るミエハネにレイトは笑って見せる。
それを見た三人はレイトとミエハネの側に寄っていく。
ひなとエリオはミエハネに話しかけ、ユリィはレイトと話始める。
それを少し離れた場所から見ていたレトは、あることを考え腕に付けていたブレスレットをはずしてレイトの側に行く。

「レイト……これをお前にあげるよ」

「これ……確かお前の母親の形見じゃ」

受け取ったブレスレットを見てレイトが呟くように言うと、レトはにししと笑いながら周りの人達の顔を見る。

「これがレイトの友達なんだね」

「はい!……友…達……です!」

「ふふ、改めて友達って言われると嬉しいわね」

「………俺は最近」

「……俺の場合は友達じゃなくて、仲間・ルームシェア・腐れ縁」

「そんなのどうでもいいじゃない、友達にしなさいよ」

ぶつぶつと言い始めるユリィに呆れ顔でエリオがツッコム。
レイトはレトと四人の間に入り両手を広げて笑う。

「レト、紹介するよ………俺の友達だ」

「うん」

「そして、俺の友達はお前の友達でもある」

「……は?」

レイトの言葉が理解できずに変な声で驚くレトに対して、エリオとひなそしてミエハネがすごく嬉しそうな表情をする。
驚いたままのレトを置き去りにキャキャと盛り上がっている。眩しい太陽の下で起きていたのだった。
ゴホン!と強めの咳払いをしてから話を戻す。

「これでお前の友達が増えた、お前はここにいる者たちの記憶に残る、生きた証が残る」

「生きた証………そうか、ずっと何かが足りなかった、そうか……これだったのか」

嬉しそうに笑うレトにミエハネはぎゅっと抱き締める。レトもミエハネを抱き締めて顔を埋める。
そんな二人を見ていたエリオとひなも手を繋いでいた。レイトとユリィは何もしていなかったが、レイトは大きく深呼吸をする。

「俺の心残りはもー無い……レト、そろそろいいか?」

レイトの言葉に顔をあげて頷く。

「お願いするよ」

レトは静かにそう言った。
レイトは前に出て、ちょうど研究所が見える位置に立つ。そこから見える研究所は豆粒のように小さかった。
一度振り向き、ユリィを見つめたあとにゆっくりと口を開く。

「なぁユリィ、お前はどんな姿の俺でも側にいてくれるよな?」

「当たり前だろ?例えどんな困難が待っていようと俺はお前と一緒にいる、お前と一緒に生きていく」

即答するユリィの言葉にホッとしたようにレイトにうっすらと笑う。
そしてもう一度深呼吸したあと、目を瞑り手を前に出して詠唱を始める。

「我、魔王ルア・ベルティノが命じる。
汝、我の声が届くのであれば我の願いを叶えよ。我は消滅を願う我は破滅を願う、汝は全てを消し去る者、見届ける者そして恐れられる者、姿を現せ!
暗黒竜_バハムート」

巨大な紫色の魔方陣が空に浮かび上がり、魔方陣の中から姿を現す黒い鱗に大きな翼、赤い目に大きく鋭い爪。
羽をはばたく度に吹き飛びそうになるのを堪えるレイト以外のその場にいた全員は、目を見開いて驚愕している。
レイトは目の前で飛んでいるバハムートに片手を伸ばして意思を伝える。
少しすると、バハムートは研究所に向かって行き上空に辿り着くと、咆哮と共に大きく羽を広げた。
すると研究所を中心とした黒い竜巻が出現する。その時にレトは気づく。
誰も気づいていないときに、自分の体が薄くなって消えていっていることに。
レトは後ろ姿のレイトを見つめる。集中した後ろ姿にふっと微かに笑い目を瞑る。体の消え具合から考えて、消えるのはもうすぐなのだろう。
ふと気づくとレイトの髪に違和感を覚えたが、微かなために確証を付けなかった。遠くの方でバハムートが咆哮をあげ、もう一度大きく羽を広げれば、黒い竜巻は消え失せて残ったのは研究所があったはずの土のみだった。

「すごい」

「何……あれ」

「暗黒竜バハムート……って……まじかよ」

バハムートはレイトの側に戻ることなく、光の粒子となって消えた。
レトも既にその場には姿がなく、意識だけがまだ残っている状態だった。それを知っていたのか、ふらふらな状態のレイトがレトの意識がある場所に向かって近づいてき、そっと手を添えて呟くように口を開く。

「おやすみ……レト」

__おやすみ、レイト__
誰にも聞こえることの無い言葉。
だがレトは満足したように、意識も消えて本当に逝ってしまう。

「レイト」

「ん?」

ユリィに声をかけられて振り向こうとしたが、体のバランスを崩して倒れかけるがユリィに受け止められて地面に座らせられる。

「大丈夫か?……それにその髪は」

「ああ………バハムート召喚……のための、代償だ………俺が一番嫌いなことが、自分の体に起こるっていう」

「それが」

レイトの言葉に全員が目を見開く。
みるみるレイトの髪は、黒混じりの紫ではなく完全な紫へと変わっていく。

「ユリィ……あのときの言葉、忘れるなよ?」

「……当たり前だろ」

「私たちもずっとレイトの友達よ」

「うん」

「はは……心強いや……」

レイトがそう呟いたとき、意識を手放す。ユリィは気を失ったレイトを背負ってから学園の方角を見る。

「さぁ、帰ろ……俺たちの帰るべき場所に」

ユリィがそう言うと、誰もが力強く頷き歩き出す。帰るべき魔学園場所に向かって。
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