新月神話伝 第三世代

鴉月語り部

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最終話 怨みの終焉(月鬼と月姫)

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執筆日 2017/06/07
第三世代の本当の終わり
ラスボス黄泉比良坂 不比等(よもつひらさか ふひと)との決着です。

不比等目線の独白に近い
狂愛・死要素あり

登場人物は新月神話伝の第三世代
後期のネタバレあり



1000年が経っても怨みは変わることが無かった

ずっと孤独だった
神久夜(かぐや)への憎しみだけ
神久夜へのウラミだけ

ある時あいつは
「結婚するの
もうお前とは会わない
…さようなら、兄上」


じいさんも婆さんももういねぇ
夜刀もいつの間にか死んじまいやがった

神久夜の娘を連れて竹林を歩いた

懐かしい竹の香り
葦原にいた頃を思い出す

「鬼さん、かぐやちゃんの…母様のお兄さんでしょ?
髪の色が一緒」
「かぐやはお前だろ
※祈里(いのり)…懐かしいな
髪の色…俺はあの頃は黒髪だったけどよ」

※神久夜の幼名

「花…好きだろ、やる」
「母様にそんなに似てるの?
嬉しいな…かぐやちゃんに、かぐやちゃんみたいになりたいから」

「かぐやちゃん、あんまり笑わないけど美人だから
笑うと美人だって、父様は母様の笑顔が好きなんだって」


「…祈里はすぐ泣くから葦原一の不細工なんだよ
笑ってりゃまあまあ見れたもんなのにな…」

「鼠さんの皮衣、、随分古いのね私が直して上げる」

懐かしい…親父が纏っていたのはこんなキラキラ光っていた
だから欲しくなった

いや、親父が纏っていたから、欲しかった
あんなクズでも親父は親父だったからな
祈里と瓜二つなのはなかなかウケた

火の色の皮衣を纏う
嘆く思いを…束ねて

「かぐやちゃんが好きなの?」
「さあな」

「だって鬼さん、さっきからずっとかぐやちゃんの話ばかりしてる
かぐやちゃんからお兄さんの話、たまに聞くの
私も髪を結ってげる、じゃあかぐやちゃんの好きな三つ編み」

『いつかお前の婿になる伯父よ
…結婚したら、お前は私の母上にも会えるのよ
寂しいけどいつでも帰ってきなさい

何と言ってもお前は妾の娘よ?』

「…ありがとよ祈里
お前はそういうところ小まめだよな」
「そんな名前じゃないもん紫
紫って書いてユカリだもん」

祈里がよく、勝手に括ってきやがった

…嗚呼、きっと俺はあいつが好きなんだろう
妹として?幼馴染として…女として

双子だなんて、聞きたくなかった
実の兄妹なんて聞きたくなかった

カッとなって親父を殺っちまった
…あんたにはまだ、聞きたいこと色々あったんだけどな…

我に返った

「そうかそうか…そうだったな
お前は修羅と結婚して、ガキができたからもう会わないって…

ならば
ガキを殺せば、また会えるのか

ユカリに振り上げたらもう一人のガキが俺の右目を矢で射抜きやがった
俺は先に怯えるガキを殺そうと、目を押さえて黄泉の黒刀を振り上げたら修羅の奴が庇いやがるから

もう動かない修羅
殺り損ねたあのガキ
眼の痛さに耐えきれず、一旦黄泉に帰った

修羅を殺したのは計算外だったがこの際どうでもいい…
いつもヘラヘラして変な奴だった

いや、祈里への復讐には良い相手だ

あのガキ…よくも唯一視える方の右目を殺りやがったな

もう
何も視えはしない

第五層・人間道まで降りた
実母に会う為に

「…おばさん、髪を切ってくれ
自分じゃ切れねぇ」

「…目が、視えないのね?
いいわ、お母さんが切ってあげる」

千年ぶりだろうか
髪を切った、葦原にいた頃の髪型に
あの頃と色は変わっちまったが、葦原にいた頃の俺に戻ろう

「どう?上手くできたかしら…お母さん、貴方が頼ってくれたの初めてだったから凄く嬉しかったのよ」

「…ありがとよ
…母さん」

拒み続けた、その言葉を言ってやると母さんは泣いてた
祈里の泣き虫はあんた譲りなんだな…

「母さん…あんたにとって俺はさぞ忌まわしい存在であっただろう
俺が生まれなきゃ、あんたも親父も死ぬことは無かったんだからよ」

「そんなことないわぁ…貴方達を産んで本当に良かった…可愛い可愛い、あたくしの双子…!
だから不比等、帰ってきてね
お母さん待ってるから、貴方が…もう一度…お母さんって呼んでくれるの」

「…そうか
じゃあ母さんの為にも祈里を黄泉に連れ帰ってきてやるよ
なっ、初めての対面だろ?」

「待って不比等、貴方の為にあたくし名前をずっと考えていたの」

「黄泉比良坂 業魔 それが貴方の名前よ、持っていきなさい」

「…ありがとよ
精々俺が死なねーように祈っててくれ」

きっとお前は死ぬつもりだろう…
お前の寿命はもう僅か
神久夜を殺して共に死ぬつもりだろう…

母さん、ずっと泣いてた
あんたに育てられていたら真っ当な妖怪になれただろう

例え兄妹として育っても俺はあいつに惚れるのだろう、自分でも自信がある


忌み子はお前だ神久夜…
死して贖え

黄泉比良坂を上がる途中で吐血し、倒れそうになった
血を吐くようになった…体にガタが来てやがる
千年も生きたからか、それとも力を使い過ぎたか
急がねぇと俺の命が尽きちまうな…

ユカリ、とかいったかあのガキ
あいつと人生をやり直すのも悪くねぇ
母親は邪魔だ、あいつはもう祈里じゃねぇ…殺してガキを奪おう

祈里…いや神久夜
お前はもう要らない
過去を清算する為に死んでくれ…今度は本気で

あと一歩というところで神久夜は吐血してよろけた

「馬鹿かてめぇは…
一気に力を使い切るからガタが来るんだよ」

「わざと…遊ぶふりして私に使わせたのね…!
どこまで外道なのお前は…!!」

「祈里、結構気に入ってたんだぜ?お前のことはよ…昔は
さよならだ祈里…あの世で修羅と会いな」

二人の妖怪は空中で差し違え、地に堕ちた
不比等は神久夜の心臓を貫いた
神久夜は不比等の腹を貫いた

死が身近に感じられる
こんなにも恐い
こんなにも冷たい

先に息絶えたあいつを手探りで探す
祈里を抱きしめるとまだ温かい

お前は最期まで修羅を選ぶのか
お前にとって俺は何だったのか…取るに足らない男に過ぎないというのか

「なあ祈里…なんか話してくれよ
もう、なんも視えねぇんだ…
側に…ずっといてくれよ」

最期にやっと理解した
俺はこいつが好きだったんだ
ずっと、ずっと昔から
名前をくれたあの日からこいつに惚れていた

もう感覚がねぇ…
「祈里、愛している
生まれ変わってもお前を殺そう…」

不比等の死骸は黄泉の第五層・人間道の黄泉比良坂家の墓に埋葬された
名を黄泉比良坂 業魔として

霊香は二人の我が子の最期を見届けると満足し成仏していった…
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