Lv.1のチートな二人

Amane

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episode1

たかが時計如きで人生左右されてたまるか。

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魔物を分解して無限収納にしまい、ティアのスキルでなんとか学園に帰って来る事が出来た。
ロゼ先生とは再会出来なかったが、明日になればまた会えると信じて学園を出る。
外に出ると、丁度日が傾いた頃だった。
あれから随分時間が経った気がしていたが、まだ夕方なのか。この世界に転生してからまだ1日が経っていないのだと思うと、1日充実してたと感じる。
辺りを見回したら、まだ店も開いている時間のようだ。

「とりあえず、魔物の肉でも売りに行くか。」

無限収納にはまだまだ余裕がありそうだが、いつまでも魔物の死体を持ち歩く趣味はない。
早く手放してしまいたかった。

「ねぇゼロ、お腹空かない?先に何か食べよーよ。」

ティアにねだられると俺も弱い。近くの食堂で飯にする事にした。
入った店は{ボンヌ}というお店。
懐かしい良い匂いが食欲をそそる。見た目は全然違うが、この世界の料理は、地球の味と似ていた。
食べると懐かしい気持ちになるのは、ティアも同じだろう。
俺達は感想を言い合う事もなく、黙々と料理を食べていた。

「美味しかったー。」

満足そうにティアが微笑む。
腹ごしらえも終えた所で、そろそろ魔物の肉を手放したい。だが、どこで売れば良いんだ?

「あれ?二人共、こんな所でどうしたの?」

後ろからリアンに声をかけられた。

「丁度良かった。魔物の肉を売りたいんだ。」
「あれ?トロールは学園に渡したはずだろう?」
「いや、それが…。」

俺達は始まりの地での出来事をリアンに話した。最初は驚いていたリアンも、クエストの行動を思い出したのか、仕舞いには呆れて聞いていた。

「災害級のトロールを倒した後に、勇者の集う始まりの地。おまけにロゼッタちゃんの戦闘訓練…王都に来たばっかりなのに、災難続きだね。」

あまりにいろんな事があったので、まだ1日目だと言う事を忘れていた。

「ともあれ、魔物の部位はギルド商会で売却が出来るよ。キミ達は相変わらずLv.1みたいだから、オレが交渉してあげるよ。」

基本的には、ギルド商会は学生を受け入れる事はない。しかし、エスポワール学園のSクラスなら、特別待遇してもらえる。
Lv.1の俺達では、学生証を見せたとしても信じて貰えないが、リアンなら話が通せる。

リアンの言う通り、ギルド商会で魔物の肉を買い取ってもらえた。俺が魔物を取り出すとかなり疑われたが、そこはリアンに助けてもらい、なんとかスムーズに事が進む。
頭、腕、胸、腹、足に分けて出すと、一つあたり白金貨10枚で買い取ってくれた。オークとミノタウロスを合わせて、白金貨100枚の稼ぎだ。

その後、リアンに勧められて武器屋で防具を見る事にした。
ずらりと甲冑が並んでいる店に入る。日本語ではないが、武器{アルム}と書いてあるのがわかる。

「レティシアちゃんは、リジェネを掛けてくれるアクセサリーなんかを身に付けるといいよ。」

リジェネとは、定期的にHPを回復してくれる魔法の事だ。
売れ行きの良い武器屋で防具を揃えたほうが、商品の質が良いのだとリアンは言う。

「ゼロには、これなんか良いんじゃないかな?」

渡されたのは綺麗な宝石の付いたペンダントだ。MPを温存させておくためのアクセサリーのようだ。

「これに魔力の一部を貯めておくと、その魔力を他人に渡せたり、無くなった時にすぐ回復してくれる。」

なるほど、これは便利な代物だ。値段が白金貨50枚とかなり値段が張るが、下級魔法一つで高価な聖水を使う状況になるよりよっぽど良い。
他にも便利そうな防具を購入し、俺達は店を後にした。

「ねぇ、リアンくんはどこかに用事だったの?」
「オレは時板の修理にね。」
「時板?」

そう言って、リアンは首から下げた金色の懐中時計を取り出した。どうやらこの世界では、時計は時板と呼ぶらしい。
文字は違うけれど、作りは地球と同じみたいだ。
花と翼の描かれた綺麗な懐中時計に、見覚えがある気がするのは俺だけだろうか。

「動かないの?」
「もう何年も止まったままだよ。時板の修理を扱ってる店は各国にあるけど、どこで見せてもダメだった。だから、国で一番品揃えの良いアイテム屋に見てもらおうと思って。」

そう言って、リアンは近くの店を指差した。
日本語ではないが、骨董屋{アンティーク}と書いているのが分かる。

「良ければ一緒に行くかい?何か良いアイテムが見つかるかも。」

リアンに連れられて、俺達はアンティークに入った。
中に入ると、見た目の割に中が広い。見た事のない置物やカップなど、古めかしい骨董品が飾られている。

「この世界、時間の感覚はどうなっているのかしら。」

目の前の大きな時計を見つめて、ティアが言う。
アリーヤに来た時間が学校が始まる時間なのだとしたら、8時。 9時に授業が始まったとして、 1時間ほどクエストの説明があり、パーティを組んでクエストに向かった。
そのクエストが大体2時間くらい。その後すぐに始まりの地に来た。

「それが大体3時間くらい…夕方に食事をして…今が夜?大体地球と一緒なのか?」

リアンと話をしている店主は眉毛も髭も伸びていて、表情がいまいち分からない。会話はちゃんと出来ているんだろうか。

「ねぇ、私達でなんとかしてあげられないかな?」
「…壊れた時計を治すなんて、専門家に任せるのが一番だろ。」
「でも…あの店主さん、なんか怖い…。」

ティアの言う通り、店主の顔はまるで、ホラーゲームの魔法使いのように不気味な顔だ。しかしそれだけで悪者だと決めつけるのは良くない。
俺に見えている黒いオーラが、ただの腹黒であれば良いんだがな。

「これは…非常に厄介な呪いがかけられてますなぁ。」
「呪い?」

思わず息を呑んでしまうほど、雰囲気は完璧だった。だが俺には分かる。この店主、嘘をついている。しかも…

[ソルラン・ファン・ユーイ 89歳
人間族 Lv.33 時板屋店主
HP/4006  MP/5826
スキル:鑑定]

鑑定スキルを持っているのに、嘘を付く理由が分からない。
どこか胡散臭い感じはするが、まだ口を出すには早い。俺は黙って二人を見続けた。

「邪悪な魔法故、大変危険です。よくぞ今までご無事でしたなぁ。」

呪いと聞いて、リアンは明らかに不安そうな顔をしていた。もしかすると、大切な物なのかもしれない。

「この呪いを解くとなれば、相当な魔力を使うでしょう。1カイト貰っても治るか否か…。」
「……」

説明書にお金の事は書かれていたはずだ。もう一度取り出して見る。

「え、カイトってお金の単位なのか。」

種類はクラン、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、カイトの6種類。
クランは日本円にして十円、銅貨は百円、銀貨は一万円、金貨は 十万円、白金貨は百万円。そして、おおよそ一千万円程の価値があるのが、カイトと呼ばれる硬貨。見た目は白金貨だが、普通の硬貨には花が、カイトには剣が書かれている。
白金貨だけでも希少価値の高い代物なのに、カイトのような高価なものは、一般の学生は手にする事も出来ない。

「止まった時板など価値はございません、私が白金貨5枚で買取り致しましょうか?」
「それは…。」

リアンが悔しさに拳を握った。その時点で、俺はもう黙っていられなかった。
懐から巾着を取り出し、白金貨を5枚バンと机を叩くように置いた。

「俺が買い取る。」

肩に手を置いて優しく言ったが、店主の顔は引きつっていた。白金貨も高価なものだ。5枚を惜し気もなく出す俺を見て、驚いていたのはリアンも同じだった。

「呪いは周りの者まで巻き込みます。お勧めしません。」
「たかが時計如きで人生左右されてたまるか。」

俺達は一度死んだ身だ。“呪われる”なんて理由で今更ビビる訳がない。
確かに、痛いのも苦しいのも嫌だ。だけど、この懐中時計に悪い呪いが掛けられているとは、到底思えない。証拠がある訳じゃないが、俺の勘がそう語っている。

「…貴方達のような未来ある子供に、そのような危険はさせられません。1カイト出します。売っていただけませんか?」

コイツ、どれだけこの時計が欲しいんだ。
腹立たしい発言に怒りを通り越し呆れ返っていると、ティアが巾着を弄った。
徐に剣の書いた白金貨を取り出し、リアンに押し付ける。

「行きましょう、リアンくん。」
「ちょっ、レティシアちゃん?!」

ティアに手を引かれて外に出るリアン。ティアが俺の代わりに怒ってくれたからか、俺の怒りは治った。

「なぁ店主、あの懐中時計…時板は珍しい物なのか?」
「…あのように懐に入る時板は、もう何年も生きていて見た事がありません。」

なるほど、懐中時計が珍しかったのか。
地球では腕時計やら目覚まし時計やら、小さい時計は一家に一つは当たり前だったのに、この世界では珍しいものなのか。
だがこの店主は、珍しいではなく見た事がないと言った。そんな物を、リアンはどうやって手に入れたんだろうか。やはりダンジョン報酬なんだろうか。

「ゼロ、早く行きましょう。」
「あぁ。」
「お待ちなさい。」

ティアに呼ばれて出口に向かった俺を、店主は腕を掴んで止めた。
掴まれた腕に力が込められ、熱が篭る。

「女神の新たな差し金よ。貴様の思い通りになると思うな。」
「え…?」

その瞬間、店主は黒い霧になって消えた。
驚いて動けないでいると、奥の部屋から同じ顔の老人が出て来る。

「おや、いらっしゃい。」

曲がった腰が特徴的な老人は、ゆっくりと長椅子に腰掛けた。
ステータスも見た目もさっきと同じ。しかし、全く違う人のようにも思う。
不思議に思ったリアンとティアももう一度店内に入り、懐中時計を見せた。

「ほぉ、これはこれは珍しい。しかし、針が動いていませんな。」
「治せるか?」
「これほど繊細な作りの時板は、見た事がございません。恐らく無理かと。」

さっきとは全く違う反応だ。一体何が起こったのだろう。
そして…

『女神の新たな差し金よ。貴様の思い通りになると思うな。』

さっきの店主は偽物だったのかもしれない。俺達を連れて来たのが女神だと分かった上で、あんな挑発をしたのだろうか。
新たな差し金ってなんだ?
俺達は不穏な空気に戸惑いながらも、店を後にした。


「まさか、キミ達が王族の人間だったなんてね。」
「王族?」

リアンが言うには、カイトを持っているのは王族だけなんだとか。
店にカイトを飾れば、王族が来た店という事で繁盛する。だから、それ程高価なカイトを持ち歩くのは、王族だけなんだそうだ。

「そう言われれば納得行くよ。Lv.1で規格外の強さ…。」
「…軽蔑する…?」

この世界での常識がいまいち分からないので、話は合わせておいた方が無難だ。
しかし、確かリアンは王族が嫌いだったはず。話を合わせてリアンに嫌われたら、明日から学園での居心地が悪くなるだけだ。
知り合いもいない俺達がこの世界で生きていくには、少なからず仲間が必要だ。
不安そうなティアの上目使いに、リアンの心臓の音が聞こえた気がした。

「キミ達はオレの知ってる王族じゃない気がする。だから今は保留って事にしておく。だけど…。」
「だけど?」
「学園生活が、キミ達のおかげで少しだけ楽しみになってきたよ。それは信じて。」

優しく笑ったリアンの笑顔に、少し安心したゼロとティアだった。




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