37 / 38
第3章
035 > ヒールかヒーロー
しおりを挟む「いや~すごかったなぁ~」
「いつもと動きが違ってたな」
「相手の出方を見てたのか?」
「なんか……やることが人間らしくなってきたな……って、中身は人間か」
「いやぁ、あそこまでヤルってのは人間かどうか疑わしいぞ」
「姿だけ見ればまるっきり虎だしな」
ゲームが終わり、興奮冷めやらぬ観客たちは順次、闘技場(コロシアム)に隣接しているカジノに案内され個別行動の時間となっていた。
カジノに併設されているPrivateと書かれた80室もある個室は既に埋まっている。そこでは先程のゲームで辰樹のフェロモンに当てられ、メインディッシュに興奮したαたちが行為に励んでいる真っ最中だ。
相手は各々のパートナー、あるいはその場に用意されていた見目麗しいバニー姿の男女のΩのいずれかを伴う。個室の使用料は1時間100万円と高額だが、それすら彼らのステータスとαとしての格を競う最後のデザートとなる。
「それにしても、どこの誰なんだろうなぁ?」
「そりゃあ、機密事項だよ」
個室に入るだけの懐の余裕も相手もいないαたちは、その場が友好を築く社交場ともなっているため親睦を深めるのに余念がない。
初対面の相手であれば名刺交換のついでとばかりに口々に先程の闘技場でのファイターの話になる。ただし、主語がなくともその話題の主役が無敵の獣であることを誰もが了解している。
ゲームというショーのヒールであり、ヒーローでもある彼の話題には事欠かない。
「ワニってのは珍しいよな。あれは成獣だったのか?」
「成獣かどうかは知らんが、でももう少し大きければドラゴでも手こずったかもな」
「手こずることってあるのか?」
「そりゃあ、わからん。今後の敵に期待するだけだな」
「最近は海外から参戦したいって『S』もいるらしいからな」
「これは、カード次第では番狂わせも出てくるかもなぁ」
だが話題の内容も徐々に下世話な話題に移っていく。
「しっかし、あんなに強い雄体のΩとか……相手の番は大変だよな」
「それだよ! 番った直後に食い殺されそうだ」
「俺ならごめんだなぁ」
「お前なんか相手にされないって!」
完全に野次馬根性丸出しで現在のところの最強ファイターのセンシティブな部分に触れる。だが、その場にその話題を咎めるものはいない。
誰もがドラゴの正体を、人間の姿を、見たいと、知りたいと思っているからだ。
「滝信会の子飼いの1人ってことらしいが……噂では幹部の子供なんじゃないか、って話もあるぞ」
「幹部のこどもぉ? んなわけあるかよ。獣化が始まると人間に戻れるようになる確率は2割もないんだぞ。ここに来ない連中のほとんどは最後、気色悪い化け物みたいになって殺処分される。そんなことする人間に幹部が務まるかって」
「……だよな」
噂の域を出ない会話の内容を聴きながら
〝火のないところに煙は立たないものだ……〟
目立たぬバーカウンターの端の影に巨体を縮こまらせていた岩清水は、ほんの少しだけ身じろいだ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

組長と俺の話
性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話
え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある?
( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい
1日1話かけたらいいな〜(他人事)
面白かったら、是非コメントをお願いします!

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。
グッバイ運命
星羽なま
BL
表紙イラストは【ぬか。】様に制作いただきました。
《あらすじ》
〜決意の弱さは幸か不幸か〜
社会人七年目の渚琉志(なぎさりゅうじ)には、同い年の相沢悠透(あいざわゆうと)という恋人がいる。
二人は大学で琉志が発情してしまったことをきっかけに距離を深めて行った。琉志はその出会いに"運命の人"だと感じ、二人が恋に落ちるには時間など必要なかった。
付き合って八年経つ二人は、お互いに不安なことも増えて行った。それは、お互いがオメガだったからである。
苦労することを分かっていて付き合ったはずなのに、社会に出ると現実を知っていく日々だった。
歳を重ねるにつれ、将来への心配ばかりが募る。二人はやがて、すれ違いばかりになり、関係は悪い方向へ向かっていった。
そんな中、琉志の"運命の番"が現れる。二人にとっては最悪の事態。それでも愛する気持ちは同じかと思ったが…
"運命の人"と"運命の番"。
お互いが幸せになるために、二人が選択した運命は──
《登場人物》
◯渚琉志(なぎさりゅうじ)…社会人七年目の28歳。10月16日生まれ。身長176cm。
自分がオメガであることで、他人に迷惑をかけないように生きてきた。
◯相沢悠透(あいざわゆうと)…同じく社会人七年目の28歳。10月29日生まれ。身長178cm。
アルファだと偽って生きてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる