君知るや 〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜

有島

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第3章

035 > ヒールかヒーロー

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「いや~すごかったなぁ~」
「いつもと動きが違ってたな」

「相手の出方を見てたのか?」
「なんか……やることが人間らしくなってきたな……って、中身は人間か」

「いやぁ、あそこまでヤルってのは人間かどうか疑わしいぞ」
「姿だけ見ればまるっきり虎だしな」

 ゲームが終わり、興奮冷めやらぬ観客たちは順次、闘技場(コロシアム)に隣接しているカジノに案内され個別行動の時間となっていた。

 カジノに併設されているPrivateと書かれた80室もある個室は既に埋まっている。そこでは先程のゲームで辰樹のフェロモンに当てられ、メインディッシュ殺戮ショーに興奮したαたちが行為に励んでいる真っ最中だ。

 相手は各々のパートナー、あるいはその場に用意されていた見目麗しいバニー姿の男女のΩのいずれかを伴う。個室の使用料は1時間100万円と高額だが、それすら彼らのステータスとαとしての格を競う最後のデザートとなる。

「それにしても、どこの誰なんだろうなぁ?」
「そりゃあ、機密事項だよ」

 個室に入るだけの懐の余裕も相手もいないαたちは、その場が友好を築く社交場ともなっているため親睦を深めるのに余念がない。
 初対面の相手であれば名刺交換のついでとばかりに口々に先程の闘技場でのファイターの話になる。ただし、主語がなくともその話題の主役が無敵の獣であることを誰もが了解している。

 ゲーム試合というショーのヒール悪役であり、ヒーロー英雄でもある彼の話題には事欠かない。

「ワニってのは珍しいよな。あれは成獣だったのか?」
「成獣かどうかは知らんが、でももう少し大きければドラゴでも手こずったかもな」

「手こずることってあるのか?」
「そりゃあ、わからん。今後の敵に期待するだけだな」

「最近は海外から参戦したいって『S』もいるらしいからな」
「これは、カード次第では番狂わせも出てくるかもなぁ」

 だが話題の内容も徐々に下世話な話題に移っていく。

「しっかし、あんなに強い雄体のΩとか……相手のつがいは大変だよな」
「それだよ! つがった直後に食い殺されそうだ」

「俺ならごめんだなぁ」
「お前なんか相手にされないって!」

 完全に野次馬根性丸出しで現在のところの最強ファイターのセンシティブな部分に触れる。だが、その場にその話題を咎めるものはいない。
 誰もがドラゴの正体を、人間の姿を、見たいと、知りたいと思っているからだ。

「滝信会の子飼いの1人ってことらしいが……噂では幹部の子供なんじゃないか、って話もあるぞ」

「幹部のこどもぉ? んなわけあるかよ。獣化が始まると人間に戻れるようになる確率は2割もないんだぞ。ここに来ない連中のほとんどは最後、気色悪い化け物みたいになって殺処分される。そんなことする人間に幹部が務まるかって」

「……だよな」

 噂の域を出ない会話の内容を聴きながら

〝火のないところに煙は立たないものだ……〟

 目立たぬバーカウンターの端の影に巨体を縮こまらせていた岩清水は、ほんの少しだけ身じろいだ。





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