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第3章
034 > 一瞬【!グロ・流血注意!】
しおりを挟むリングにいる2頭の獣の睨み合いが続いていたが、血の匂いで表情が変わった。
獣としての本能が呼び覚まされ、そこから目の前にいる生き物は捕食対象としてしか見れなくなる。
二足で立っていた爬虫類型の対戦相手はゆっくりとリングに前足をついた。
2頭とも、前足、後ろ足ともに鉤爪をもち互いの肉を引き裂くだけの膂力を持っている。
本来なら、肉食獣にとって首への噛み付きが最速で獲物を仕留める手段だが、それはカラーが邪魔して目的が果たせない。
鋼鉄製のカラーは対荷重50トンに設計されているため、噛み付いたとしても一撃で破壊できないのだ。噛み付いて破壊するのが目的であれば数時間、首に齧り付く必要があるため有効な攻撃手段とはならない。
ある意味、残酷なショーを演出するためにあるようなアイテムだ。
首の次に噛み付くのに適した場所、しかも致命傷になる箇所に一撃を加える必要がある。
動物の次の急所といえば、腹部だ。
腹に噛み付き内臓を抉れば、いかに頑強な肉体だろうと、死は免れない。
さらにいえば、首ほどではないにしても出血も著しく、血を見るために自家用ジェットまで飛ばして、地球の反対側から駆け付けて来る観客へのショーとしての役割も十分に果たす、というわけだ。
「爬虫類ってことは、皮膚は鱗だろ? 硬いんだろうな」
「ドラゴでも歯がたたない可能性があるぞ」
「でも、以前、戦った亀は甲羅を噛み砕いて頭の方から内臓引きずり出してたぞ」
「あれはエグかったよなぁ……」
「僕、その試合見てないんだよね。録画とかあるの?」
「カジノで売ってるらしい」
そこかしこでざわつく観客たちの声も2頭には聞こえていない。
ドラゴとギルガは対戦相手の姿だけに全神経を集中させていた。
じりじりと距離を縮めながら、相手の攻撃範囲を探る。
中途半端なワニの姿となっているギルガは、地球最大級のイリエワニほどの大きさではない。だが、クロコダイル科ではあるのか、顎の大きさがそれなりにあり、あの顎に挟まれたら無敗のドラゴも逃げる術を失うのではないかと思われた。
双方が、4本足で睨み合いを続ける中、天井のゴンドラからレフェリーが互いの間合いを図っている様を見つめていた。
おそらく勝負は一瞬でつく。
人間同士と違ってルールなどない。
2本足で立ち、手を使って戦うわけでもない。
彼らは全身を使って戦うが、最も強力な武器は互いの口に持っている強く鋭い牙だ。
肉を捕食するための狩りの道具として使われる牙が、地上最強の武器になる。
ギルガの目が蛇のように細められる。
両目が離れている分、視野が広いためドラゴの全身がどういう状態なのか把握している。
対するドラゴも全神経と五感の全てを相手に傾け、様子を伺っている。
グルルルル
威嚇、というより、間合いを計りながら相手の反応を試しているような音がドラゴの喉から発せられた。
すると
なんの前触れもなく、前足と太い尾で床を踏みつけたギルガが上半身をしならせてドラゴに飛びかかってきた。
その気配を察知していたのか、ドラゴはひらりと身を躱す。
ズドンッ!
重そうな音を立てて床に着地したギルガを見やったドラゴが頭上を見上げた。まるでレフェリーに「見ておけ」と合図するように。
ギルガは2メートルはありそうな太い尾を曲げて振り返り、もう一度ドラゴと相対する。
会場内にいる観客は大声で野次を飛ばし歓声を上げながら、手に汗握り、固唾を飲んでゲームを見守っている。
今、既に始まっている殺戮ショーを期待して、胸も股間も昂らせていた。
先の奇襲に近い攻撃が効かないと判断したのか、ギルガは真っ向から向かってきた。
また、前足を踏みしめて再び跳躍する。
そのギルガの姿勢を最後まで見届けてからドラゴはまた身体一つ分すれすれで躱した。
「なんだ? なんか今日はやけにおとなしいな?」
「だな……」
いつものドラゴなら、先手必勝とばかりに真っ先に飛びかかって相手を血祭りにあげる。
なんだったら、下半身に噛み付いて体を振り回し、リングロープに巻かれた有刺鉄線に打ちつけて引き摺り回し、血だらけにする。その血塗れのショーすら、観客は興奮と歓声をもって歓迎した。
だが、ドラゴ贔屓の観客の目には今日のゲームでの彼の動きが相当鈍く感じられていた。
それは、ギルガの5度目の跳躍の時に起こった。
ギルガの跳躍を躱したかと思われたドラゴが、ギルガの下敷きになったのだ。
「えぇっ!?」
「まさか?!」
下敷きにしたギルガの顔がニタリと微笑んだように感じられた。
そして、その直後。
声のような絶叫のような、獣の咆哮が聞こえた。
「な、なに?! なにが?!」
固唾を飲んだ観客全員が身を乗り出して下方に見えるリングを凝視する。
だが、ギルガに乗られてドラゴの姿が見えない。
数秒後。
プシャァアアアッ!
ギルガの下から大量の血が滴り、瞬く間にリングには真っ赤な血溜まりができる。
「ど、どうなってるんだ?!」
「レフェリー!」
観客の一部から檄が飛び、レフェリーは片手で待て、と観客に合図を送り、天井から2頭の様子をうかがっている。すると──
ずるり
ギルガがドラゴの上から滑り落ち──その拍子にひっくり返り、そこには──
ワニでも最も薄い腹部の皮を食い破られ、内臓を抉り出された無惨な姿を晒すギルガの姿があった。
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