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第3章
033 > カラー
しおりを挟む『みなさ~~~ん!? もうベットはお済みでしょうか~?! オッズは大方の予想通りですが、そろそろ受付が終了いたしますッ! 本会場においてハーフタイムベットは行っておりません! お早めにお願いしますッ!』
両コーナーにリングサイドはあってもセカンドエリアはなく、人もいない。
そして今、獣化した双方の獣2頭は、既にリングの対角コーナーで待機させられている。
彼ら獣化した者たちは既に理性と知性を失っており、基本的に制御がきかず、人間の言葉を理解できない。
特に、辰樹から噴出されているΩフェロモンは強烈であり、αだけでなくβであっても理性を根こそぎ刈り取ってしまうため、獣化した者が『ヒト』として目覚めるなら特別な薬を静脈注射するか、死の瞬間しかない。
彼らをコーナーに繋ぎ止めているのは、首に嵌められている厚み2センチ幅10センチで鋼鉄性の黒いカラーと、リング4隅に建てられた2メートルの支柱である。その支柱と鋼鉄のカラーにはカスケード社と提携企業との技術の粋が集められていた。
高さがある支柱全体が指向性の高い強力な電磁石になっており、4本の支柱には有刺鉄線が巻かれたロープが4本張り巡らされている。
支柱に流れる電磁力スイッチを握るのは、リング外の天井から吊り下げられたゴンドラにいるレフェリーだ。
デスマッチゆえにタオルが投げ込まれることはないが、勝者が興奮しすぎてリング外に暴走、あるいは逃走するのを防ぐために用いられる。
スイッチが入ると電磁石にはコンマ1秒で1万テスラが流れ込み、いかに凶暴かつ獰猛な獣でも首輪が支柱に引っ張られて身動きが取れなくなる仕組みだ。
現在はそれほどの強さではないため引っ張られるほどではないが、双方の獣がその場を動けないほどには強力である。
また、首輪にはゲーム用とは別に、人間だったら即死ものの1万ボルトが流れるように作られている。獣化が解けない場合、獣を飼っている主人が嵌めて調教に使われるのだが、調教師としての資格や制度があるわけではない。そのため、結局のところ、その使い方も主人の気分次第というところだ────
そして、そもそもの話、希望して獣化する人間はいない。
「それにシテも、康樹はよくやッタネ」
康樹の隣にはいつの間にかチャイナ服を着た、いかにも怪しげな中国人が座っていた。
「何がです? 王大人」
「日本語……ヒト、悪い、言う、ネ? 副産物……ではない、ネ?」
「……ご想像にお任せしますよ。ああ、ほら、もう始まります」
2人の会話をそば耳を立てて聞いていた岩清水は康樹が誤魔化そうとしていることを知っていた。
辰樹以外の獣の大半は元βだ。
彼らの大半はαに支配されることをよしとするものの、その鬱憤をΩを見下したり蔑み足蹴にすることで溜飲を下げながら暮らす者も多い。
だが──βという凡庸さの軛から逃れたく──分不相応の野望や、何らかの希望を抱く者も多く存在する。それが、この世界の現状であり、世の常でもある。
辰樹──ドラゴ──はいつものように、初めて見る対戦相手の匂いを嗅いだ。
自分自身が強烈なΩフェロモンを放出しているせいで、他のものには届いていないだろう匂いが、ドラゴにだけは感じられた。
据えた男の匂い。
男ではない、甘い匂い。
それに寄り添うように、乳臭い匂い。
獣化している最中には、知性も理性もない。と言われているが、ドラゴは他と違っていた。
人としての意識は薄く記憶も失くしているが、他の獣化した者たちと異なり、5歳児程度ではあるが人語を解することができる。
だから────
〝こ、ども……〟
その獣から親の気配を感じ取り、リングサイドにいる岩清水を振り返った。
だが、そう思ったのは一瞬で────
『ベッティングタイムが終わりました~!! さぁ~!! 始まります!! 今日も勝つのはドラゴか?! それとも新たなる挑戦者か~?!』
ブシャァアアアア!!
霧化した大量の血がリング内に噴霧され──そこでドラゴの、ほんの少しだけ残っていた『ヒト』としての意識も、途絶えた。
※相変わらず導入長すぎで、すみません。明日は……グロ・流血注意です……<(_ _)>
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