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第2章
017 > 『シャケツの儀』
しおりを挟む滑り出した全長6メートルを超える黒いリムジンが森に向かう。先ほど乗っていたベンツとは別の車だが、乗っているメンバーは先ほどと同じ。
夜も10時も過ぎると森の中は漆黒の闇に包まれるが、今夜は巨大な満月が宙空に浮かび木々の隙間から月明かりが漏れているためか、ほんのり薄明るい。
舗装された道は一本だけで、若干曲がりくねりながら森の奥へと誘う。
空に向かってまっすぐに立ち上がる大きな杉や欅といった樹々を抜けながら車を走らせると、やがて涼しげな空気が流れ出す竹林に入る。折り重なるように優雅な風靡を作る竹林はその奥に禍々しい何かを携えていた。
10歳の誕生日の直前にヒートが始まって以来、辰樹は月に一度のヒート期間中、自分の記憶の一切を無くす症状に悩まされていた。
ヒート中のΩの意識がなくなる、あるいは軽い記憶喪失症状があるというのはそれほど珍しいことではなかったが、ヒート期の5日間、全く記憶がないという症例は珍しいと言われていた。
その珍しい症状を見せる辰樹のヒートの頻度は高校に上がる頃から徐々に減り、今では三ヶ月に一度で安定している。だが頻度が減った代わりなのか、ヒートになっている状態での記憶が少しずつ思い出せるようになっていた。
そして、それ以上に。
意識がある分、子宮が疼く自分を自覚してどうしようもない状況に陥っている。
腹の奥が疼く自分を自覚する度に辰樹は、惨めで情けなくて最低な気分になる。
それを鎮める方法は本来は一つしかない。
自分の後孔に男性の肉茎を納めること。
だが、それだけはどうしても嫌だった。
だから、代わりに女を抱く。
それもただの一度として同じ女ではない、プロの女だ。
そして、また──ヒートの時に制御できない自分に恐怖が芽生え始めていた。
〝俺も……最後はああなるんだろうか……〟
『今日は1人だけだそうです』
先ほどエントランスで石清水に告げられた言葉。
その1人のために、今日は『託宣』が行われるということだ。
『託宣』の儀式は、辰樹がヒートになる直前に行われるのが常であった。
その方が、辰樹の父・滝川康樹にとって都合がよかったからに他ならない。そして、父の思惑に薄々気づきながらも自分自身で確たる証拠を突き出せないため、辰樹は動けずにいた。
だが。
2週間前、一つの呪いが解けた。
あといくつ自分に呪いがかかっているのか、それを考えるだけで気が重く、毎朝の目覚めが悪い。
予備校に行くという状況がなければ、夏休みの後半を屍のように過ごしていたに違いない、と自分でも思っていた。
「着きました」
言われて到着したのは、『社』と呼ばれた場所。
厳かな空気が漂うそこは、普通の神社とは様相が異なっていた。
直径2メートルの紅い柱を持つ5メートルほどの高さの鳥居が9つ、連なるように続いており、その奥に建物──神殿──があった。
拝殿となる部分はなく、本殿のみで構成されており、その神殿の高さはゆうに30メートルを超えている。
中に入る前に、すでに外からも聞こえるほどけたたましい叫び声が聞こえてきた。
その絶叫を聞きながら石清水が右手でオールバックを撫でつけつつ辰樹に話しかける。
「『シャケツの儀』を執り行い次第、すぐに始めるそうです」
「……」
神殿の内部に入ると、ヒノキの香りが強く、ほの明るい。
開かれた扉を石清水と2人でくぐるとそこには──
両手両足に枷をかまされ、長い鎖に繋がれ、顔面が涎まみれになり、なお暴れている1人の男らしきモノが蠢いていた。
【!次話、グロ・流血注意!】
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