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第2章
013 > 極道の今
しおりを挟む時は戦前にまで遡る────
自国を大日本帝󠄁國と謳っていた島国において、全国各地で野放図な愚連隊を率いる腕っ節の強い屈強な男集団は、明治に入る頃にはすでに現在の極道の原型となっていた。
第二次世界大戦、終戦2ヶ月前──昭和20年(1945年)6月吉日。
それら愚連隊の首領となる人物、総勢300名余が北は北海道から南は沖縄に至るまで、勅命によって東京にある大本営──陸海軍総司令部・市ヶ谷1号館──に呼び寄せられ、一堂に会する運びとなったのである。
『我ら大日本帝󠄁國は大東亜共栄圏の盟主國たる地位を存続せねばならぬ。その為には、此度の戰の結果がどうあろうとも、いかなる支配も受け入れることは敵わぬ。貴卿らに協力を仰ぎたい』
今上天皇が口上を述べると、一堂は静まり返った。
すでに敗戦色濃厚となっていた戦況にも関わらず大規模な集会を行うことは危険極まりなかったが、その集会を開いたのは偏に祖国の行く末を案じたとある人物の一計だった。
その当時の大政党において舌鋒鋭い論陣を張ることで頭角を現し、当時の日本人らしからぬ6尺(約180cm)を超える体躯を誇る若き国会議員であり、のちに日本復興において最大の立役者となる戦後2代目の総理大臣:織田茂信、その人である。
彼は戦後の敗戦国日本を正確に予知しており、敗戦後の祖国を憂う有能な──明治後期頃より日本でも存在が明らかになりつつあった──先天性アルファ(α)であり、日本政財界のトップエリートの1人だった。
彼ら閣僚および今上天皇が、300名余の首領らに、次のように続けたのだ。
『我ら、および我らの子々孫々がこの地で永く安住を得られるために、貴卿らの協力は必要不可欠である。祖国のために手を取り合ってほしい』
戦後処理の収束を待たず、GHQから任命された直後の総理大臣が、国粋主義の学徒らによって暗殺されたのちに織田は総理を任されることとなった。
復興の礎を築くため、日本国内のみならず、世界中を奔走した織田は内閣を5期に渡って組閣し、生涯独身を貫いたのである。
その結果────
戦後日本では、αの階級を頂点にしたピラミッド型の人口統制が敷かれ、表舞台では政治が、裏では極道が支配し、闇の部分が白日の元に晒されぬよう、巧みに作られた『二重化社会構造』が出来上がる。
裏社会の日本は東西南北の地区で4分割されることとなった。
北は北海道から東北地方までを【任侠玄武会】、東は北陸から関東甲信地方までを【任侠青龍会】、西は近畿・中国・四国・九州地方までを【任侠白虎会】、南を鹿児島県薩南諸島を含む奄美・沖縄・台湾・上海支部までを【任侠朱雀会】が取り仕切ることとなる。
各々1つの部会では末端組織までが大きく5重構造となっており、現代ではそれぞれの部会が2万を超える構成員で運営がなされている。
その歪な社会構造が、令和に入る直前から少なからぬ火種を抱えたまま、不穏な空気を纏っていたのは否めない。
1人のΩによって起こされるきな臭い内紛劇と極道特有の抗争の足音は、すぐそこまで聞こえていた────
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