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Chapter16 - Side:EachOther - E
229 > 終業後 ー03〜 汐見の罰 [Side:Other]
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[Side:Other]
佐藤のその驚きように汐見はどう反応したらいいのか少し戸惑う。
佐藤は目を白黒させながら汐見の顔面を凝視して
「お、お前……そ、……」
「辞める、ってのはちょっと語弊があるな。けど……でもまぁ似たようなもんだ……」
二の句を告げられずにいる佐藤を見ながら、汐見はどこから話せば良いのか考えていた。でも、ちゃんと全部伝えようと思っていた。
「お前のLIME、ずっと無視してて、すまなかった」
「!!」
「通知が来てるのは知ってた。……だが……あの時、お前に返信すると何言い出すか自分でもわからなかったから……」
「……汐見……」
佐藤のLIMEを見てしまうと、佐藤に労られたいと感じてしまう自分を汐見は自覚していた。
LIMEを開いて既読になり、佐藤から「大丈夫か?」と言われて慰められることを、汐見は自分自身に禁じたのだ。
〝……お前を……解放、しないと……佐藤がオレに……オレが、佐藤を絡め取ることで……佐藤、が……〟
自分はもういい。
もう、1人で生きていく、と覚悟を決めたから。
だが、佐藤は違う。
佐藤にはまだ、引き返せる【道】がある。
〝オレも、ようやく……引き返した……だから……〟
自分と同じ道に引き摺り込むことはできないと悟ってしまった。
〝カトウのトキとオナじ? ニげる?〟
〝違う。これは……佐藤にとって、オレのこの選択は……〟
〝ソウダ。オマエハ、サトウヲセオエナイ〟
佐藤を選び、佐藤と生きる道を選んだ先に、何も残せないのなら。
〝オレが……お前の人生を狂わせるわけにはいかないんだ……〟
汐見は佐藤には分からないような微妙な表情をした。
「……全部、片付いてから、お前には返信しようと思って……」
口元を引き結んで佐藤に向き合う。
結局、いくつかの懸念事項は残ってしまった。
だけど、汐見なりに精一杯、できる限りのことはしたと思っている。
〝多分、現時点で、これ以上は無理だろう……〟
紗妃の不倫を知って慰謝料を請求され、その紗妃に刺されて、紗妃まで入院して。怪我とは別の理由で紗妃は病院に入院することになり、慰謝料の件では別の協力者も得て解決した。できた。
そして────
〝紗妃と……結婚していなければ、実現できただろうことも、今……実現しようとしている……〟
残っているただ一つの──そして最大の懸念事項が────
今、この目の前にいる、7年来の親友との関係性だ。
変えようと、変えたいと望んでいる親友に対して、変容している自分の気持ちにも気づきながら、でも。
〝お前の……告白、を……〟
自分が応えることで、佐藤がどうなるのか、もうわかってしまった。
〝こいつは、きっと……〟
自分に対する接し方が、他の人間と違うことには薄々感づいていた。否、気づかないふりをしていた。ずっと。
〝蓋、が……〟
長いこと放置していた【感情への蓋】のせいで、ますます鈍磨していく自分の気持ちにも──気づかないふりをした。
1年前の出張の時に感じた感情すら、小骨のような違和感すら、紗妃の母の死をきっかけに────
〝……周りにはわからないだろう。伝えたところで理解されない……けど……これは……オレの、罰だ……〟
罪を認識して初めて、佐藤への想いをようやく自覚した。
だから────
〝……わけには、いかない……佐藤……オレは……〟
伝えるべきことと、今もって伝えられないことを仕分けながら、汐見はそれでも佐藤には言うべきだと思った。
「紗妃が、さ……」
「……」
汐見の脳裏に、先日行った療養棟で1年ぶりに穏やかな表情を見せた妻の顔が見えた。
「……『私たち、間違ってたね』って、言ったんだ……」
「!!!」
「ハハッ……間違い、ってなんだよ、って……はは、は……」
汐見の頬を、一筋の涙が伝った────
佐藤のその驚きように汐見はどう反応したらいいのか少し戸惑う。
佐藤は目を白黒させながら汐見の顔面を凝視して
「お、お前……そ、……」
「辞める、ってのはちょっと語弊があるな。けど……でもまぁ似たようなもんだ……」
二の句を告げられずにいる佐藤を見ながら、汐見はどこから話せば良いのか考えていた。でも、ちゃんと全部伝えようと思っていた。
「お前のLIME、ずっと無視してて、すまなかった」
「!!」
「通知が来てるのは知ってた。……だが……あの時、お前に返信すると何言い出すか自分でもわからなかったから……」
「……汐見……」
佐藤のLIMEを見てしまうと、佐藤に労られたいと感じてしまう自分を汐見は自覚していた。
LIMEを開いて既読になり、佐藤から「大丈夫か?」と言われて慰められることを、汐見は自分自身に禁じたのだ。
〝……お前を……解放、しないと……佐藤がオレに……オレが、佐藤を絡め取ることで……佐藤、が……〟
自分はもういい。
もう、1人で生きていく、と覚悟を決めたから。
だが、佐藤は違う。
佐藤にはまだ、引き返せる【道】がある。
〝オレも、ようやく……引き返した……だから……〟
自分と同じ道に引き摺り込むことはできないと悟ってしまった。
〝カトウのトキとオナじ? ニげる?〟
〝違う。これは……佐藤にとって、オレのこの選択は……〟
〝ソウダ。オマエハ、サトウヲセオエナイ〟
佐藤を選び、佐藤と生きる道を選んだ先に、何も残せないのなら。
〝オレが……お前の人生を狂わせるわけにはいかないんだ……〟
汐見は佐藤には分からないような微妙な表情をした。
「……全部、片付いてから、お前には返信しようと思って……」
口元を引き結んで佐藤に向き合う。
結局、いくつかの懸念事項は残ってしまった。
だけど、汐見なりに精一杯、できる限りのことはしたと思っている。
〝多分、現時点で、これ以上は無理だろう……〟
紗妃の不倫を知って慰謝料を請求され、その紗妃に刺されて、紗妃まで入院して。怪我とは別の理由で紗妃は病院に入院することになり、慰謝料の件では別の協力者も得て解決した。できた。
そして────
〝紗妃と……結婚していなければ、実現できただろうことも、今……実現しようとしている……〟
残っているただ一つの──そして最大の懸念事項が────
今、この目の前にいる、7年来の親友との関係性だ。
変えようと、変えたいと望んでいる親友に対して、変容している自分の気持ちにも気づきながら、でも。
〝お前の……告白、を……〟
自分が応えることで、佐藤がどうなるのか、もうわかってしまった。
〝こいつは、きっと……〟
自分に対する接し方が、他の人間と違うことには薄々感づいていた。否、気づかないふりをしていた。ずっと。
〝蓋、が……〟
長いこと放置していた【感情への蓋】のせいで、ますます鈍磨していく自分の気持ちにも──気づかないふりをした。
1年前の出張の時に感じた感情すら、小骨のような違和感すら、紗妃の母の死をきっかけに────
〝……周りにはわからないだろう。伝えたところで理解されない……けど……これは……オレの、罰だ……〟
罪を認識して初めて、佐藤への想いをようやく自覚した。
だから────
〝……わけには、いかない……佐藤……オレは……〟
伝えるべきことと、今もって伝えられないことを仕分けながら、汐見はそれでも佐藤には言うべきだと思った。
「紗妃が、さ……」
「……」
汐見の脳裏に、先日行った療養棟で1年ぶりに穏やかな表情を見せた妻の顔が見えた。
「……『私たち、間違ってたね』って、言ったんだ……」
「!!!」
「ハハッ……間違い、ってなんだよ、って……はは、は……」
汐見の頬を、一筋の涙が伝った────
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