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Chapter15 - Side:Other - E
223 > 出社ー05(汐見の疑念)
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[Side:Other]
「……お前がこんなに、頑張ってるのに……!」
〝俺は、お前が〈春風〉のために頑張れば頑張るほど……!〟
張り裂けそうな胸を抱えて、後悔の渦に呑まれた。
「腹が……! 立っ、て……!」
ホテル街で見た紗妃の姿をまぶたに焼き付けた佐藤が煮えたぎる思いを抱えたまま会社に戻ると、無心に仕事をしてる汐見がいた。佐藤は……何も言えなかった。
「腹が立つ? 誰に?」
「〈春風〉に」
恋しい男の目の前で、初めて、佐藤は怨敵の名前を口にした。
「はるかぜ?」
汐見は心の中で不審に思った。その名前は妻の旧姓だ。佐藤はいつもなら
〝『紗妃ちゃん』だろう? そこは……〟
「……紗妃のこと? だよな?」
佐藤は汐見の妻を下の名前に『ちゃん付け』で呼んでいたはずだ。
「……そうだ。……俺は……お前への気持ちを……抑えて……〈春風〉への気持ちを……」
ぶつぶつと小さな独り言のように呟く佐藤に、汐見が
「? なに?」
聞き返すと、水分を下瞼に溜めた佐藤が、長らくつっかえていたモノを吐き出した。
「俺の中で……『汐見紗妃』は存在しない」
「は?」
そう語る佐藤の面影に誰かが重なる。
『「みう」は潮の中にいる~~~』
〝佐藤?! お前?〟
佐藤の目には汐見しか写っていない。だが、汐見はその中に暗い何かを感じた。
今にも零れそうな佐藤の涙は佐藤の感情とともに溢れ出ようとしていた。
「俺が好きな! 俺が! 一番大事に! 想ってる『汐見潮』を奪った女なんか!!」
「佐藤?!」
佐藤の目から涙が止めどなく零れ始める。
「ダメだ……汐見……ダメだったんだ……俺は……俺は! お前が好きで! どうしても! 諦めきれなくて!!」
「!!」
紗妃と出会う直前、佐藤は汐見と両想いになれそうな雰囲気を感じ取っていた。勘違いじゃないはずだ、汐見も俺に気持ちがあるはずだと、そう思って。
なのに、紗妃と出会ってしまった。
佐藤の目の前で、汐見が紗妃に一目惚れしたのを見た佐藤は、自分の中にあるドス黒い感情を知った。
「お前と付き合い始めて、そばにいる〈春風〉を見るたびに俺は! 嫉妬に狂いそうだった! お前を独占できる〈春風〉が妬ましくて!」
「さ、とう……」
あまりにも非情な汐見の選択に。目の前で繰り広げられる心を抉る光景に。佐藤は数え切れないほど傷ついた。無自覚な汐見の言動に、何度も心臓を削られた。
「すぐに別れると思ってた! 男慣れしてる〈春風〉は絶対お前に本気じゃないって! そう思ってた! お前にもそう言いたかった! だけど!」
紗妃に、自分と同じモテる人間特有の、人を値踏みするような、他者を見下すような本質を嗅ぎ取った佐藤は何度警告しようとしたかしれない。
だが、その警告は一度として
「お前は……お前が〈春風〉を見る目が……もう、何も言えなかった……」
実現しなかった。その当時、紗妃を批判することは、紗妃に惚れた汐見の感情を否定することだと直感したから。
そして。
「俺は! お前がそばにいてくれるだけで良いと思ったんだ! だから! 彼女を作って! 努力して! お前への気持ちを忘れようと!」
「……」
汐見への執着を捨てるため、結婚願望もなかったのに結婚相手を探した。外見だけでも可能な限り、汐見に似てる女性を。
「俺は、もう親友でいいと思ったんだ……思ってたんだよ……本当に……なのに……」
汐見の、親友としてのポジションだけ確保することにして。
「〈春風〉は……俺と約束して……結婚したのに……お前、と……」
「佐藤……」
汐見がこれからどうするのかわからない。だが、汐見に自分の気持ちを知られてしまった。その上で、汐見がもし……
「俺の、気持ちは……お前に言った……その上で……」
自分を選ばないのなら
「お前の……恋人になれないんだったら……」
佐藤はそんな最悪の事態しか想像できない自分が悲しくなる。
汐見にまた『男同士で付き合えるわけない』と言われたら、もう────
「もうお前のそばにはいられない。いたくない……もう無理……無理だ……」
「……お前がこんなに、頑張ってるのに……!」
〝俺は、お前が〈春風〉のために頑張れば頑張るほど……!〟
張り裂けそうな胸を抱えて、後悔の渦に呑まれた。
「腹が……! 立っ、て……!」
ホテル街で見た紗妃の姿をまぶたに焼き付けた佐藤が煮えたぎる思いを抱えたまま会社に戻ると、無心に仕事をしてる汐見がいた。佐藤は……何も言えなかった。
「腹が立つ? 誰に?」
「〈春風〉に」
恋しい男の目の前で、初めて、佐藤は怨敵の名前を口にした。
「はるかぜ?」
汐見は心の中で不審に思った。その名前は妻の旧姓だ。佐藤はいつもなら
〝『紗妃ちゃん』だろう? そこは……〟
「……紗妃のこと? だよな?」
佐藤は汐見の妻を下の名前に『ちゃん付け』で呼んでいたはずだ。
「……そうだ。……俺は……お前への気持ちを……抑えて……〈春風〉への気持ちを……」
ぶつぶつと小さな独り言のように呟く佐藤に、汐見が
「? なに?」
聞き返すと、水分を下瞼に溜めた佐藤が、長らくつっかえていたモノを吐き出した。
「俺の中で……『汐見紗妃』は存在しない」
「は?」
そう語る佐藤の面影に誰かが重なる。
『「みう」は潮の中にいる~~~』
〝佐藤?! お前?〟
佐藤の目には汐見しか写っていない。だが、汐見はその中に暗い何かを感じた。
今にも零れそうな佐藤の涙は佐藤の感情とともに溢れ出ようとしていた。
「俺が好きな! 俺が! 一番大事に! 想ってる『汐見潮』を奪った女なんか!!」
「佐藤?!」
佐藤の目から涙が止めどなく零れ始める。
「ダメだ……汐見……ダメだったんだ……俺は……俺は! お前が好きで! どうしても! 諦めきれなくて!!」
「!!」
紗妃と出会う直前、佐藤は汐見と両想いになれそうな雰囲気を感じ取っていた。勘違いじゃないはずだ、汐見も俺に気持ちがあるはずだと、そう思って。
なのに、紗妃と出会ってしまった。
佐藤の目の前で、汐見が紗妃に一目惚れしたのを見た佐藤は、自分の中にあるドス黒い感情を知った。
「お前と付き合い始めて、そばにいる〈春風〉を見るたびに俺は! 嫉妬に狂いそうだった! お前を独占できる〈春風〉が妬ましくて!」
「さ、とう……」
あまりにも非情な汐見の選択に。目の前で繰り広げられる心を抉る光景に。佐藤は数え切れないほど傷ついた。無自覚な汐見の言動に、何度も心臓を削られた。
「すぐに別れると思ってた! 男慣れしてる〈春風〉は絶対お前に本気じゃないって! そう思ってた! お前にもそう言いたかった! だけど!」
紗妃に、自分と同じモテる人間特有の、人を値踏みするような、他者を見下すような本質を嗅ぎ取った佐藤は何度警告しようとしたかしれない。
だが、その警告は一度として
「お前は……お前が〈春風〉を見る目が……もう、何も言えなかった……」
実現しなかった。その当時、紗妃を批判することは、紗妃に惚れた汐見の感情を否定することだと直感したから。
そして。
「俺は! お前がそばにいてくれるだけで良いと思ったんだ! だから! 彼女を作って! 努力して! お前への気持ちを忘れようと!」
「……」
汐見への執着を捨てるため、結婚願望もなかったのに結婚相手を探した。外見だけでも可能な限り、汐見に似てる女性を。
「俺は、もう親友でいいと思ったんだ……思ってたんだよ……本当に……なのに……」
汐見の、親友としてのポジションだけ確保することにして。
「〈春風〉は……俺と約束して……結婚したのに……お前、と……」
「佐藤……」
汐見がこれからどうするのかわからない。だが、汐見に自分の気持ちを知られてしまった。その上で、汐見がもし……
「俺の、気持ちは……お前に言った……その上で……」
自分を選ばないのなら
「お前の……恋人になれないんだったら……」
佐藤はそんな最悪の事態しか想像できない自分が悲しくなる。
汐見にまた『男同士で付き合えるわけない』と言われたら、もう────
「もうお前のそばにはいられない。いたくない……もう無理……無理だ……」
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