【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter15 - Side:Other - E

222 > 出社ー04(403会議室)

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[Side:Other]



 開発部のドアの前に着いた時から少し息が上がっていた佐藤は、足早に進む汐見の背中を見ながら

「ちょ、っと……待って……」

 上がる息を整えるため立ち止まった。

「? なんだ?」
「ごめっ……」
「具合でも悪いのか?」

 両膝に両手をついて呼吸している佐藤の顔を、汐見は不意に覗き込む。

「っ! っちょ! 近いって!」
「あ? ……あ! あぁ……すまん」

 佐藤はもう限界だった。
 この目の前にいる同僚に告白をしたのだ。2週間前に。

 汐見本人に、問い詰められるように聞かれて、言わされて。
 告白をしてから何の連絡ももらえないまま時間だけが過ぎた。

 返事はまだもらってない。
 今日もらえるのか、もしかして今もらえるのか。それすらもわからない。
 わからないけど、これだけは佐藤にもわかった。

〝汐見の態度が変わらないってことは……〟

 喜んでいいのか、悲しんでいいのか、それすらも佐藤は考えたくなかったが。

〝本当に……汐見は俺のこと、なんとも思ってないんだな…………〟

 悲しい気持ちが佐藤の胸を覆い尽くそうとする前に、汐見が

「とりあえず、会議室、入るぞ」
「……あぁ……」

 そう言ってドアノブの近くにある小さなパネルに暗証番号を打ち込んだ。
 ガチャッ と開錠する音が聞こえ、勝手に開いたドアに汐見が体を滑り込ませると、佐藤がそれに続いた。

「ここ、10時から次の予約が入ってるから、それまで、な。……まぁ、30分くらい……か」

 汐見がそう言って振り向くと、佐藤が至近距離に立っていたのに驚く。

「……な、んだ……お前……も、ちかいぞ……」
「……」

 ごくり、と佐藤の嚥下する音が響き、その音が汐見の耳にも届く。

〝これは…………もしかして、いや、もしかしなくても……〟

 10cm下にある汐見を凝視する佐藤の視線が、汐見の顔面に突き刺さる。

 佐藤に2週間前の返事を催促されるだろうことは予想していた。
 だが、今すぐ返答するのは難しい。だから、とりあえず仕事の後で、とLIMEを送ったのに。

「……見過ぎ……」
「っあ、ごめ……」

 はぁ、と汐見は短くため息をつくと部屋のど真ん中を占領してる会議テーブル沿いに並んだ椅子のうち、2台引っ張り出して、1つを

「ん」

 佐藤の前に置いて座らせる。汐見はその隣の椅子に座った。

「……汐見……その……」

 言いたいことは山ほどある。だが、何から話すべきか、佐藤は考えあぐねていた。

〝顔見たら安心して……それだけじゃないのに……〟

 佐藤が考えている間、汐見も考えていた。

〝主導権はオレが握ろう。佐藤の気持ちはわかっている……だが、その前に……〟

 汐見の顔を見る佐藤。しかし、ふい と視線を外したりする。
 少し顔を赤くしている佐藤を見て汐見は、佐藤に対する気持ちとは別に、徐々に冷静になっていく思考を自覚していた。

「し、汐見……その、こないだの、アレ……その、へ、返事……とかって……」
「……」

 汐見は、じっ と佐藤の表情を確認するように見つめていた。

〝な、なんだ? 汐見、なんか……俺の顔、凝視してないか……?〟

「返事をする前に。お前に……聞きたいことがある」

 無表情な強面を維持したまま、汐見は佐藤を見つめていた。
 それを見た佐藤はただならぬ気配を感じて、姿勢を正す。

「な、なんだ?」

 一呼吸置いた汐見は佐藤の鳶色の瞳を見つめたまま。

「なんで……紗妃が不倫してること、オレに言わなかった?」
「え?」

「……どれくらい前か知らないが……お前、紗妃が不倫してること、もっと前に知ってたんだろ?」
「え?!」

〝な、なんで?! どこでそれを?!?!”

 汐見は佐藤の表情に潜む思考も感情も、何1つ見落とさぬよう、視線を佐藤の顔面に貼り付けたまま微動だにしない。

〝あぁ……汐見は……疑ってる……なにか……俺を……〟

 自分の中にあったずるさを引きり出そうとする汐見が、怖くて、苦しくて、切なくて、恋しくて……悲しい。

〝こんなにも、お前を想って……こんなにも辛い……のに……〟

「……すまん……隠すつもりじゃなかった……」
「……何ヶ月も前に知った時だけじゃない。お前、先々週、池宮先生の事務所に行く前、紗妃の話をしていた時だって話さなかったな」

「!! ……そう、だ……け、ど……」
「どういうつもりだったんだ? せめて、事務所に行く前に話してくれても良かったんじゃないのか?」

「!!!」

 佐藤は、土俵際に追い詰められている自分を自覚していた。
 ここで汐見に正直に話すと、嫌われる可能性が高い。だがそれでも、ここで嘘をつくわけにはいかないとも思った。

 なぜなら今、嘘をついたわけでもないのに、佐藤の『聞かれなかったから話さなかった』という不実ふじつを、一番知られたくなかった汐見に指摘されている。
 これ以上、不実を重ねれば、自分に対する失望をさらに上塗りして信用さえ失うだろうことを、佐藤は直感した。

「……知っていた……よ……半年前、くらい……に……他の男と……ラブホ街、歩いてた……」
「!!!」

 汐見は、先週、北川専務から聞いた出来事を佐藤に確認して、それが事実だったということに目眩めまいと同時に失望を感じた。

〝オレは……また、裏切られたのか……?〟

「でもっ! 聞いてくれ! 汐見! 隠そうとしたんじゃない!」

「……じゃあ、どういうつもりだった?」

「その! ……あの、頃のお前は! ……ずっと! 残業ばっか、で……! 言い出し、づらくて……」

〝ああ、そうだ。そうだよ……汐見……なんで……なんでお前、あんな女と結婚したんだよ……なん、で……〟









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