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Chapter14 - Side:Salt - D
217 > 後日ー11(北川専務ー中編)
しおりを挟む驚きを隠せないオレの表情を確認すると、北川専務はニコッと笑った。
「自分で言うのもなんだが……いくら仕事ができるとはいえ、40過ぎで会社となんの縁もない人間がいきなり取締役になれるはずがないんだ。……社長の娘ではなかったから妻が社長の縁戚だということを知っているのはごく一部でね」
「!!!」
「驚かせるつもりはなかったんだが……昨日? だったかな? いや、違うな、水曜日だな。志弦さんから直接連絡を受けたんだ。君がきっちり仕事を終えたと」
「なっ!? 仕事っ?!」
「仕事……じゃないよな……」
そうにっこり笑うと北川専務が右手にあった電子メニュー用のタブレットを操作する。
「春風さん……いや、紗妃さんか。2年前、再就職先を探していた彼女を受け入れるよう志弦さんに直接相談されたのは私だったんだ」
「……そ、れって……」
眉間を揉みながら北川専務が続ける。
「まさか、君が彼女と良い仲になってしまうとは……予想がつかなくてね。最初の頃の噂では佐藤くんとってことだったもんだから……」
「じ、じゃあ、専務は、彼女のことを……!!」
〝この人たちは! 紗妃の素性を知った上でこの会社に! 紗妃を監視するために!〟
「……申し訳ないことをしたと思ってる。まさか君が……巻き込まれるのが君になるとは思ってなくてね……」
二の句を告げることができないとはこの事だ。
〝オレは……オレと紗妃は、最初からこの人たちの掌にいたのか?!〟
「願わくば佐藤くんと、と思っていたんだ。まぁ、こればかりはどうしようもなかった。それに、思った以上に君が彼女に執心だと聞いて……君に話をする直前に入籍してしまったものだから……タイミングがね……」
「……北川せんむ……」
コンコンと扉がノックされ、扉の向こうから人が……入っては来なかった。その代わりに北川専務が立ち上がって数歩の場所にある扉を開き、どこかからグラスを二つ持って再度入ってきた。
「会話を邪魔することのないように、こういうシステムになってるんだよ」
オレが注文したノンアルコールビールと、専務はどうやらロックの酒だった。
「……このこと……他に、誰が……」
「私の妻と社長、私ともう1人の取締役。私が把握してるのはこの4人だ」
「……なんで……紗妃は! 嵌められたんですか?!」
「……嵌められた……というのとは若干違う」
ふう、とため息をついた北川専務が自分の手元にあるロックをちびりと飲む。
「何があったのか知らないが、彼女が自分から行動を起こして不倫を再開したのは事実だ。そこに私たちの介入は一切なかった」
「……ですが! ……紗妃を見張って……紗妃が……行動を起こすのを待ってた……!」
「……少し語弊があるな。……それを待ってなかったとは言い切れない……だが、新婚2年目の妻が不倫を再開させるとは……普通思わないだろう?」
「っ!! それは! 僕に落ち度があったと?!」
〝アッタダロウ。サキハ、オマエヲミカギッタ〟
「落ち度、か……不倫する側の理由は大概がとんでもない屁理屈だ。彼女もそうだったんだと思う。だから汐見くんの落ち度とは思っていない」
「じゃあ、なぜ! 紗妃が不倫していることを! 知っていたのに誰も僕に言わなかったんですか! これほど傷が深くなるまで!」
「……我々は監視していたから、彼女の不倫開始当初から知っていた。だが……数ヶ月後に我々以外にも彼女の不倫を知った人物がいた。彼が行動に出ないのであれば、我々も今は様子を見守ろうと思って、ね……」
「……誰、なんですか……その、不倫を知った人って……」
「……佐藤くんだ」
「えっ?!!」
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