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Chapter12 - Side:Other - D
185 > 決戦の日−04(三浦家の癌)
しおりを挟む「大当たり?」
「ええ」
志弦はつまらなさそうに言うと、ソファから立ち上がって汐見と池宮が座るソファの横を通り過ぎ、再び執務机の上にある内線の受話器を取る。
「ごめんなさいね。コーヒーのお替わりが欲しいの。サーバーで持ってきてくれる?」
コーヒーが1杯では足りなかったらしい。
〝『身を滅ぼす』のが大当たりって? 不倫した、くらいで?〟
ソファに戻って来た志弦が、テーブルにある茶菓子に手を伸ばした。その爪も美しく整えられ、落ち着いた色のグラデーションネイルが煌めいている。
「隆が離婚した後で結婚したがってる女性の多くは彼の資産や財産も目的の一つだとは思いますが……」
「……」
〝そうだ、紗妃は吉永隆と再婚してセレブな生活を送ると……〟
「彼女たちの目的は叶いません」
「え?!」
志弦は取った茶菓子の個包装をピリリと開けると、中のスティック上のクッキーを取り出して、もぐもぐと食べ始め……食べ終わるまでしばし待たされる羽目になった。
「彼に……いえ、三浦家に投資、あるいは融資……という形で吉永から出て行ったのは6千万、だけではないんです」
「??」
「吉永が私に代替わりする前から、三浦家はずっと借金し続けていましたので」
ふいっと視線を外した志弦がドアの方を見るが、誰かが入ってくる気配はない。
「私の前の代、つまり父ですが……隆の父に甘いところがあって、回収する予定がないみたいでした。それも私は気に食わなかった」
苦笑いしながら、志弦は続けた。
「大学進学した後、そういった親族間の内情が全て理解できた時、父に
『返す気のない借金を続ける好色な親族と、いつまで良縁を保とうとするつもりか』と食ってかかりました。元々私と父は仲が良くなかったので、さらにそれで決裂して。大学卒業後には家を出て、海外での就職が決まった時は天にも昇る気持ちだった……」
今度は悲しそうな表情をしていた。
〝吉永の内情を知ったところで、オレには関係ない……〟
汐見がそう思う一方で、この女性の肩に乗せられた責務は想像より遥かに重いんじゃないかと感じ始めていた。
「色々あって、この会社の代表にさせられたんですが、その時の第一条件を設定しておいて良かったと、今回、本当に思いました」
コンコン、とノックがあり、また受付嬢が入って来た。
今度は保温サーバーが盆に乗せられて、横には茶菓子の追加もあった。
「私がこの会社の代表に就任するなら、それ以降、三浦家への融資という名の借金には返済のための手段を取ると」
「……」
当然と言えば当然だろう。そもそもなぜ志弦の父親が隆の父親から借金返済を求めなかったのかがわからない。
「私が代表になって以降は、融資する際、三浦家の不動産で相応の返済を求めることにしました」
「……」
「三浦家所有の土地建物、山など全てに、抵当権(※)を設定することにしたんです」
「そ、それは……!」
驚いたのは池宮の方だった。
志弦がサーバーからゆっくりとコーヒーを注ぐ。
「私に代替わりしてから三浦への融資は5億。三浦家の土地建物全ての時価総額は低かったんですが、不動産は全て差し押さえてあります。……それでも全額には満たなかったんですけどね」
深く息を吐き出した後、志弦は汐見に視線をやった。
「なので、私と離婚したところで隆はもう一文無しです。残されたのは彼の容姿だけ。それだけで良いというのなら愛人のどなたかに差し上げようと思ってます」
※抵当権:(住宅ローンなど)多額の借金を借り入れるとき、(購入する)住宅の土地・建物に貸付金融機関などが設定する権利。個人間でも設定可能。
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