【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

文字の大きさ
上 下
189 / 253
Chapter12 - Side:Other - D

185 > 決戦の日−04(三浦家の癌)

しおりを挟む
 



「大当たり?」
「ええ」

 志弦はつまらなさそうに言うと、ソファから立ち上がって汐見と池宮が座るソファの横を通り過ぎ、再び執務机の上にある内線の受話器を取る。

「ごめんなさいね。コーヒーのお替わりが欲しいの。サーバーで持ってきてくれる?」

 コーヒーが1杯では足りなかったらしい。

〝『身を滅ぼす』のが大当たりって? 不倫した、くらいで?〟

 ソファに戻って来た志弦が、テーブルにある茶菓子に手を伸ばした。その爪も美しく整えられ、落ち着いた色のグラデーションネイルが煌めいている。

「隆が離婚した後で結婚したがってる女性の多くは彼の資産や財産も目的の一つだとは思いますが……」
「……」

〝そうだ、紗妃は吉永隆と再婚してセレブな生活を送ると……〟

「彼女たちの目的はかないません」
「え?!」

 志弦は取った茶菓子の個包装をピリリと開けると、中のスティック上のクッキーを取り出して、もぐもぐと食べ始め……食べ終わるまでしばし待たされる羽目になった。

「彼に……いえ、三浦家に投資、あるいは融資……という形で吉永から出て行ったのは6千万、だけではないんです」
「??」

「吉永が私に代替わりする前から、三浦家はずっと借金し続けていましたので」

 ふいっと視線を外した志弦がドアの方を見るが、誰かが入ってくる気配はない。

「私の前の代、つまり父ですが……隆の父に甘いところがあって、回収する予定がないみたいでした。それも私は気に食わなかった」

 苦笑いしながら、志弦は続けた。

「大学進学した後、そういった親族間の内情が全て理解できた時、父に
『返す気のない借金を続ける好色な親族と、いつまで良縁を保とうとするつもりか』と食ってかかりました。元々私と父は仲が良くなかったので、さらにそれで決裂して。大学卒業後には家を出て、海外での就職が決まった時は天にも昇る気持ちだった……」

 今度は悲しそうな表情をしていた。

〝吉永の内情を知ったところで、オレには関係ない……〟

 汐見がそう思う一方で、この女性の肩に乗せられた責務は想像より遥かに重いんじゃないかと感じ始めていた。

「色々あって、この会社の代表にさせられたんですが、その時の第一条件を設定しておいて良かったと、今回、本当に思いました」

 コンコン、とノックがあり、また受付嬢が入って来た。
 今度は保温サーバーが盆に乗せられて、横には茶菓子の追加もあった。

「私がこの会社の代表に就任するなら、それ以降、三浦家への融資という名の借金には返済のための手段を取ると」
「……」

 当然と言えば当然だろう。そもそもなぜ志弦の父親が隆の父親から借金返済を求めなかったのかがわからない。

「私が代表になって以降は、融資する際、三浦家の不動産で相応の返済を求めることにしました」
「……」

「三浦家所有の土地建物、山など全てに、抵当権(※)を設定することにしたんです」
「そ、それは……!」

 驚いたのは池宮の方だった。
 志弦がサーバーからゆっくりとコーヒーを注ぐ。

「私に代替わりしてから三浦への融資は5億。三浦家の土地建物全ての時価総額は低かったんですが、不動産は全て差し押さえてあります。……それでも全額には満たなかったんですけどね」

 深く息を吐き出した後、志弦は汐見に視線をやった。

「なので、私と離婚したところで隆はもう一文無しです。残されたのは彼の容姿だけ。それだけで良いというのなら愛人のどなたかに差し上げようと思ってます」












※抵当権:(住宅ローンなど)多額の借金を借り入れるとき、(購入する)住宅の土地・建物に貸付金融機関などが設定する権利。個人間でも設定可能。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...