177 / 253
Chapter11 - Side:Salt - C
173 > 覚醒 −1(結婚と)
しおりを挟む闇の中、急速に浮上する身体感覚を感じて、オレはゆっくりと目覚めた。
目覚めると、オレは……泣いていた───
「ゆ、め……」
涙を拭って、仰向けのまま、寝室の天井を眺める。
いや、夢なんかじゃない。あれは……
「過去……だ……」
ここ10年ほどは、思い出すこともほとんどなかった。
〝顔なんて……もう、忘れてる……〟
記憶に蓋をして、感情に蓋をして、何も感じないように、簡単に動じないように
〝流されない、ように……〟
思い出せなかったんじゃない、思い出さないように、心に鍵をかけていた。
もう2度と、あんな思いはしたくなかった……
〝……紗妃のこと、言えない、よな……〟
紗妃が苦しかった幼少期のことを覚えていないと言ったように、オレも、高校卒業間際の記憶が曖昧だった。
〝思い出したくなかった……〟
人間の心理的な防衛本能として、嫌な記憶を忘却するという作用があると聞いたことがある。
嫌な記憶……
〝……加藤……あの後、どうなったんだ……〟
高校の3年間、あれほど密な親友関係だったにもかかわらず、オレの記憶の中から加藤の姿が、主に加藤の顔の記憶がぽっかり抜けていた。
〝大学は、卒業、したはずだ……〟
少しずつ断片的に思い出してきた。
加藤は、大学野球で割といい成績を出していた。なので、卒業後はプロ入り確定とまで噂されていて、だが……
〝プロ野球で見たことは、ない……〟
なぜか、そのことを疑問に思ったことがなかった。なぜだか。
〝カトウ、のこと、コウカイしてる?〟
そうだ、加藤のことを考えると、こいつらが……
〝コイツラ、ジャナイダロウ〟
「オレの思考を邪魔するな」
〝ジャマなんか、してナイ〟
〝オマエニ、チュウイヲウナガシテル、ダケダ〟
自分の頭の中で二重音声が響き出し、急に騒がしくなり始めた。
〝ネェ、サトウは、サトウはどうするの?〟
現実問題、佐藤と加藤の行動は本質的にはあまり変わらないんじゃないかと思う。
だが、過去の加藤より、今の佐藤の方に気持ちが傾くのはなぜなんだろう……
〝サトウは、チガう、ね?〟
〝サトウモ、カトウモ、カワラン〟
〝そう、カナ?〟
「……」
オレは、よく言えないが、加藤と佐藤の行動の理由は、根本的に何かが違うんじゃないかと感じていた。
〝シオミ、カトウに、コタえなかった。だからサトウも?〟
子供は、親の顔をよく見ている。こいつら、特にこの子供の声の方は、オレの無意識の、それでいて幼児のようなわがままを代弁する。
オレの顔に走る表情から、オレの真意を見抜いている。
〝加藤には……あの時のオレには……応えられなかった……〟
将来を嘱望されている人間を、古くからの家系を背負って立つ同じ男である加藤を、あの時のオレは丸ごと受け止めるだけの力も勇気もなかった。
加藤の将来を思えば、その選択と決断は間違ってなかったと、今でも思う。
無力だと絶望して惨めな気持ちになりながら、オレは……
「逃げた……んだ…………」
本当は救いたかった。
加藤を助けたかった。
だけどただの高校生だったオレは──これから大学に行こうとするオレたち2人で、何も持たずに逃避行したところで、2人とも不幸になるだけだ──冷えた頭の中で誰かがそう叫んでいるのが聞こえた。
今のオレならわかる。
あの時オレの中で叫んでいたのは、こいつだったんだと。
〝トウゼンダロウ。オマエダッテ、イマノオマエガイルノハ、オレノオカゲダ〟
おかげだなどと、言いたくない。
だが、オレが加藤から逃げたのは事実だった。
そしてそれを……
「佐藤には、知られたくない……」
両手で顔を覆う。
じわりとまた新しく熱いものが目尻を滑る。
逃げたなんて、卑怯な真似、オレがしていたことを知ったら、佐藤はオレに失望するだろう。
「こわい……」
〝イマサラ、シツボウサレテモ、ドウッテコトナイ〟
〝ナンで?〟
〝サトウガ、オトコダカラダ〟
〝? ナンで? オンナだったら、シツボウされないホウがイイの?〟
〝ケッコンヲ、ノゾムアイテナラナ〟
〝……ケッコンって、しなきゃいけない、の?〟
〝アタリマエダ〟
「……そんなこと、ない…………」
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる