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Chapter11 - Side:Salt - C
163 > 追憶 ー10(加藤母)
しおりを挟むビクッ とした身動きした加藤が、唇を放し顔だけをその声がした場所に向ける。
『か……ぁさ、ん……』
抱き竦められたままのオレも力無く顔面だけを左に向けて、その方角を見た。
『こうじ……』
人気のない公園の入り口に、加藤の母親が立っていた。
人がいないとはいえ、公共の場で……
同性の親友を掻き抱き、キスまでしている息子がいたら……
ヘナヘナと崩れていく加藤の母親は、驚愕のあまり目を見開いてこちらを見ていた。
どうしてここにいるのかはわからなかったが……
息子とその親友が熱い抱擁を超えた、情交を交わしているのを見てしまったのだ。
放心状態とは今の加藤の母親のことを言うのだと思った。
加藤は、込めていた力を緩め、オレの戒めを開放した。
〝……加藤……〟
あれほど強くオレを抱きしめていた加藤はオレから一歩引いた形になり、その表情がよく見えた。
そして、その顔からは完全に色が抜けていた。
『どうしてっ……こうじ……っ! あなた、彼女がいるって!』
加藤の母親が叫んだ。
オレはその場から走って逃げたくなった。
だが、ここで加藤の母親になんの弁解もせずに逃げるのは人として間違ってる、そう頭のどこかから声が聞こえてきて動けずにいると。
オレが口を開くより先に、加藤は母親に向かって言った。……言ってしまった。
『……何言ってるんだよ、母さん。この人が彼女の「みう」だよ』
『?!!』
そう言うと、加藤はオレに向き直り、母親に見せつけるようにオレの手を引いてもう一度抱き寄せ、再度、ギュッ とオレを抱き締めて。
『ごめんな、「みう」』
オレの耳元に囁くようにそう言った加藤の目にはさっきのような暗さはなく……いつも通りの、理性を宿していた。
名残惜しそうにオレを離した加藤は、何も言えなくなった母親の元に行く。
『帰ろう……母さん……』
加藤とオレを呆然と見ていた加藤の母親は、加藤の呼びかけにようやく正気に返って、よろけながら立ち上がる。
オレは加藤と加藤の母親の動きがスローモーションのように見えるのを自覚しながら、オレを振り返ることもなく母親と家路に向かう加藤を見送るしかできなかった。
その後、オレはどうやって自分の家に帰ったのかわからない。
熱を出して2日寝込んでしまったオレは学校を休んだ。
翌日も、学校に行く気がしなくてどうしようかと考えて結局ズル休み。
流石に3日休んでしまうと罪悪感が増してきたので、金曜日には登校することにした。
〝……加藤に会いたくない……〟
いや、会いたくないというのは正確じゃない。
〝あの事を……なかった事にして……なら〟
だがそうはいかなかった。
オレと加藤は同じクラスなので、加藤と顔を合わせたくないならオレは学校を休むしかない。
加藤はいつも通りに登校していたらしく、オレが教室に入って来るのを見てすぐに近寄ってきた。
『おはよ、潮。……帰りに、俺の家に来てくれ……』
そう言ってきた加藤の顔を見上げると、加藤は哀しそうな顔をしてオレの左手を掴み
『ごめんな……』
それだけ言って自分の席に戻った。
その日の学校の授業は一切、頭に入ってこなかった。
〝なんだあれ? どういう意味だ? 何があった?〟
オレが休んでる2日間、加藤からは何の連絡もなかった。
ホッとするような、でも不安な気持ちが押し寄せてきて、オレの方から連絡したくなるのを理性で押しとどめていた。
それなのに何食わぬ顔をして学校に登校して、2日ぶりに顔を見せたオレに何の釈明もせずにそんな一言だけ押し付けてきた加藤。
その日1日は、朝、声をかけただけで加藤がオレに寄ってくることはなく、他の友人と楽しげに会話を交わしていた。
学校が終わる頃にはその理不尽さに怒りが込み上げてきて、帰りにぶつけてやろうと思っていた。
『一緒に帰ろう』
そう言って声を掛けてきた加藤に無言で頷くと、オレたち2人は、ちょうど1週間前の金曜日と同じように加藤の家に向かった。
そう。つい1週間前のことだ────
加藤はあのことについて何も触れずに、オレが休んでいた2日のことを道すがら色々話してくれた。
だから、あんな事があったというのが嘘のような気がしていた。
このまま加藤と今まで通り、友人として、親友として付き合っていけると、この時のオレは少し思っていたのだ。
加藤の家で何があったのかも知らずに────
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