【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

文字の大きさ
上 下
152 / 253
Chapter10 - Side:EachOther - D

148 > ひとひらの 〜 汐見と妊活 [Side:Other]

しおりを挟む
【Side:Other】



「笑えるよな……あれだけ子供が欲しいって言ってたオレが、さ……」
「!!」

 これ以上ないくらいの痛烈な皮肉だとでも言うように、汐見は顔を歪めた。
 佐藤は何と声をかければいいのかわからず、呆然と汐見を見ている。

「……紗妃に言わないとな……ってずっと……思っ、て……」

 その声には汐見には珍しく嗚咽が混じっていた。

 紗妃との子供をあれほど望んでいた汐見に、その子供の素になる遺伝子の種が無い。
 その事実は、汐見を絶望の底に叩き落とした。

「そ、れは…………いつ……」

 喘ぐように絞り出した声で佐藤は汐見に聞いた。
 
 いつ、そのことがわかったのか。

「……今年に入ってから……紗妃に断られるようにな、って……」

 歪めた顔で佐藤の視線を受け止めながら、苦しげに告げる。

「元々……オレたちは……少なかったから……それで……オレ一人で……色々調べて……」
「…………」

 妊活は一人ではできない。

 家族が欲しいと強く願うなら早めに手を打つ方が良い。
 回数が少ないなら、その受精率を上げるためにも対策を練る必要がある。

 そう思った汐見は紗妃に内緒で色々と調べ始めた。

 不妊の場合、女性だけの問題ではなく、原因の半分は男性にもあると言われている。
 それほど急ぐ必要もないと思っていたが、気になった汐見はとりあえず、という気持ちで検査に臨んだのだ。

 愛する妻のために。
 紗妃の負担を少しでも軽くしようと思って。ただその気持ちだけで。

「……機能としては問題ない、らしい……ちゃんと射精もするし……」
「……」
「だけど……その、精液の中に……精子が無い…………」

 ポツポツと語る汐見は俯き加減になって、その視線は佐藤の視界から見えなくなる。

「……はは……おかしい、よな……あれだけ……オレ、は……」
「……」

 佐藤は言葉にならなかった。

〝子供が欲しい、血を分けた家族を作りたいって……お前は……だから、俺は……〟

 汐見が好きで好きで堪らないのに、汐見の希望を叶えるために佐藤は自分の気持ちを封印して汐見の想い人である紗妃に道を譲った。

 それなのに。
 この現実は一体なんなのだろうか。

〝汐見の子供を産むはずの〈春風〉は不倫してて、そのことが発端で汐見を……刺して……〟

 なんのために自分が汐見への想いを断ち切ったのか。

〝汐見自身、が……子供ができない体って……〟

 悔しさと苦しさから佐藤も唇を噛んだ。

「さ、最近は、治療で治ることもあるって!」
「……ダメなんだ……」

「え?」
「オレのは治らないんだ……」

「!!」

 絶望の声が汐見の口から漏れた。
 ごくり、と嚥下する音を自分の喉から聞いた佐藤は、俯いた汐見の頭頂部を見ていた。

〝俺が、女でも。お前の望みを叶えてやれなかったのか……〟

 理想と現実が違うことなんて普通に存在する。
 だが、汐見が願うささやかな望みすら奪ってしまったその事実に───

 汐見は打ちひしがれ、最も伝えるべき妻に告げられず、唯一心を許せる佐藤にすら打ち明けられず、一人で踠き苦しんでいた。

 そのことに思い至った佐藤は、切なさのあまり汐見の右手を左手で捕まえた。

「!」
「……汐見、俺で、何か力になれることはないか? ……俺が……」

〝何か……協力してやりたい。せめて、汐見の支えになって……〟

 そう願う佐藤の手から、汐見はじんわりと何かを感じ取った。

 それは紛れもなく、ひたすらに自分を労る佐藤の気持ちが籠っていて。
 佐藤の想いを知った汐見は、これ以上ないくらいにその気持ちが理解できた。

〝そうか……そうだよな……佐藤は……でも……〟

 佐藤のその手に、汐見が薬指に銀の指輪が冷たく光る自分の左手を重ねる。

「!?」

 佐藤が汐見のその行動に驚いて顔を上げると、哀しそうに笑った汐見の視線とかちあう。

 汐見はその手をゆっくり解くと、ローテーブルの下に置いてあった自分のボディバッグを引き寄せた。

 ごそごそと、前面ポケットに手を入れて、一枚の紙切れを引っ張り出す。

「? 汐見?」
「佐藤、これ、説明してくれるか?」

 汐見がローテーブルに置いたソレは────

「?!!」

 大きな佐藤の横顔が、小さな汐見にキスしてる──佐藤が探していた写真だった。






しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...