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Chapter09 - Side:Other - C
129 > 弁護士事務所 ー01(訪問)
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【Side:Other】
汐見と佐藤が病院から出て早めの夕食を食べ終わると6時を過ぎていた。
日は傾いているが、まだそこまでは暗くなかったので名刺に書かれた住所をスマホのGmapに入れて二人は移動を始めた。
電車で最寄り駅に到着すると今度はGmapの指示通りに歩いて行く。
「こんな住宅街なんだ……」
「だなぁ……」
Gmapで指示された場所は、商業施設が立ち並ぶビルなどではなくその裏通りにある少し閑静な住宅街。戸建てが少なくアパートとマンションが立ち並ぶ、開発してそれほど立っていなさそうな通りだった。
「……あってる、よなぁ?」
スマホを覗き込みながら歩いている汐見にただついて行くだけの佐藤は、左横斜め下にある汐見のつむじを見つめていた。
〝今日は寝癖ないな……ちょっと寝癖ある方がかわいいんだけどな……〟
親バカならぬ【汐見バカ】なことを考えながら住宅街を進む。
「あ、ここだ……」
「え?」
そう言って汐見が立ち止まったのは、築年数がそれほど古くはないが新しいとまでは言えない中層の普通の住居用マンションだった。
「ここ、って……」
佐藤が訝しがりながら汐見を見ると、汐見も同意するように首を傾げた。
〝弁護士事務所って、すっごいオフィスビルの中に入ってたり、古めかしい屋敷の一角だったりするんじゃないのか?〟
テレビでよく見るステレオタイプな弁護士事務所を想像していた二人からすると意外すぎるほど意外な場所だった。
とりあえず、マンションのエントランスに入る。すると佐藤のマンションと同じような解錠ナンバーを打ち込むボードがあり『来客の方は訪問先の部屋番号を入力して【呼出し】ボタンを押してください』とあった。ナンバーのボードの横にカメラがあったのでそれで来訪者を確認するのだろう。
二人は顔を見合わせ、汐見がそのボードに【205】と入力した後【呼出し】ボタンを押す。
すると、ボードのスピーカーから
『はい。弁護士法人リーガルリザルトでございます』
応答した声は女性のもので、汐見はその声に聞き覚えがあった。
「あ、あの、少し早いんですが7時に予約していた者です」
『お名前を伺ってもよろしいでしょうか?』
「え、っと汐見潮と申します」
『7時ご予約の汐見潮さまですね?』
「はい」
『お待ちしておりました。今解錠します。ドアが開きましたら階段かエレベーターでそのまま2階までお上がりください。部屋の玄関で再度、ドアチャイムを押していただけますか?』
「はい。あ、あの、付き添いの者もいるんですが大丈夫ですか?」
『身内の方ですか?』
「はい、そんな感じで、その……」
『かしこまりました。待合室もありますので、詳しいことは池宮にお尋ねください』
「あ、はい、わかりました」
『では、どうぞ、お入りください』
「はい」
ガーッ とエントランスから少し奥まったところにあるガラス扉が存在を主張するように大きな音を立てて開くと、真正面にエレベーターと階段が見えた。
汐見は佐藤に頷いて階段の方に向かおうとする。と、そこで佐藤が
「大丈夫か?歩き疲れてるんだからエレベーターで……」
「2階くらいなら大丈夫だ。それにエレベーター、10階みたいだし降りてくるの待つより早いだろ」
見るとエレベーターの表示は10階で止まったままチカチカと明滅して動いていない様子だった。
「……とにかく、無理するなよ」
「わかってるって」
「俺、待合室で待ってた方がいいよな?」
「……まぁ、それは池宮弁護士に確認してから……」
「あぁ、そうしてくれ」
〝刑事との事情聴取とか医者の診察とか……今更だけど、汐見のプライベートに首突っ込みすぎてないか?俺、大丈夫かよ……〟
佐藤は今更ながらに完全に家族同然で当たり前のように汐見の重要な会合に同席していることに懸念を抱いた。
だが、当の汐見は佐藤が付き添うことに安心しきっているのか、なんの疑問も持たずに同僚で友人の佐藤を同席させる。
その感覚がすでに普通ではないということに気づくことすらなく───
玄関前に到着して、ドアチャイムの横にあるカメラを覗き込みながらチャイムを押すと
『どうぞ』
応答があり、ガチャっと音が鳴ってドアが自動で少しだけ開いた。
ドアノブに手をかけて引っぱると、一人の女性が出迎えてくれた。中に入るよう促され、病院で見るよりは少し高級そうな待合ソファが置かれた、簡易的な仕切りだけの個室っぽい一角に案内される。
「しばらくこの待合室でお待ちください」
「あ、はい……」
「お飲み物はお茶かコーヒーですが、どちらがよろしいですか?」
二人は顔を見合わせて、汐見が答えた。
「あ、じゃあお茶で……」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言ってその女性は奥の方に消える。
二人は初めて来る【弁護士事務所】に少し緊張しているものの
〝オレ一人だったら挙動不審になってたな……〟
佐藤と一緒に来たことに汐見は心底安堵していた。
キョロキョロと見回すが、待合の一角は他の場所があまり見えないようにゆるく仕切られていて、職員らしき人間の複数の声が聞こえるが、重々しい雰囲気はない。
〝弁護士事務所って、中はこんな感じなんだ……〟
雰囲気や感じは事務所によって違うはずだが、初めて来た弁護士の職場に緊張して佐藤と会話することもあまりなく10分程度待たされた後。
「お待たせしました。池宮の相談室までご案内します」
先ほど案内してくれた女性に促され、二人は奥の部屋に導かれた。
「お久しぶりです、汐見さん」
記憶にある声が聞こえてきて、熊のような容貌──と思っていた池宮秋彦は、記憶にあった顎髭が全てなくなりスッキリした顔立ちとがっちりした体型のスーツ姿の男性となって、にこやかに出迎えた。
※弁護士の事務所は、「法律事務所」または「弁護士法人」と呼称しなければならない、と弁護士法で定められていますが、物語をわかりやすくするためあえて俗称である「弁護士事務所」の表記を採用しています。
汐見と佐藤が病院から出て早めの夕食を食べ終わると6時を過ぎていた。
日は傾いているが、まだそこまでは暗くなかったので名刺に書かれた住所をスマホのGmapに入れて二人は移動を始めた。
電車で最寄り駅に到着すると今度はGmapの指示通りに歩いて行く。
「こんな住宅街なんだ……」
「だなぁ……」
Gmapで指示された場所は、商業施設が立ち並ぶビルなどではなくその裏通りにある少し閑静な住宅街。戸建てが少なくアパートとマンションが立ち並ぶ、開発してそれほど立っていなさそうな通りだった。
「……あってる、よなぁ?」
スマホを覗き込みながら歩いている汐見にただついて行くだけの佐藤は、左横斜め下にある汐見のつむじを見つめていた。
〝今日は寝癖ないな……ちょっと寝癖ある方がかわいいんだけどな……〟
親バカならぬ【汐見バカ】なことを考えながら住宅街を進む。
「あ、ここだ……」
「え?」
そう言って汐見が立ち止まったのは、築年数がそれほど古くはないが新しいとまでは言えない中層の普通の住居用マンションだった。
「ここ、って……」
佐藤が訝しがりながら汐見を見ると、汐見も同意するように首を傾げた。
〝弁護士事務所って、すっごいオフィスビルの中に入ってたり、古めかしい屋敷の一角だったりするんじゃないのか?〟
テレビでよく見るステレオタイプな弁護士事務所を想像していた二人からすると意外すぎるほど意外な場所だった。
とりあえず、マンションのエントランスに入る。すると佐藤のマンションと同じような解錠ナンバーを打ち込むボードがあり『来客の方は訪問先の部屋番号を入力して【呼出し】ボタンを押してください』とあった。ナンバーのボードの横にカメラがあったのでそれで来訪者を確認するのだろう。
二人は顔を見合わせ、汐見がそのボードに【205】と入力した後【呼出し】ボタンを押す。
すると、ボードのスピーカーから
『はい。弁護士法人リーガルリザルトでございます』
応答した声は女性のもので、汐見はその声に聞き覚えがあった。
「あ、あの、少し早いんですが7時に予約していた者です」
『お名前を伺ってもよろしいでしょうか?』
「え、っと汐見潮と申します」
『7時ご予約の汐見潮さまですね?』
「はい」
『お待ちしておりました。今解錠します。ドアが開きましたら階段かエレベーターでそのまま2階までお上がりください。部屋の玄関で再度、ドアチャイムを押していただけますか?』
「はい。あ、あの、付き添いの者もいるんですが大丈夫ですか?」
『身内の方ですか?』
「はい、そんな感じで、その……」
『かしこまりました。待合室もありますので、詳しいことは池宮にお尋ねください』
「あ、はい、わかりました」
『では、どうぞ、お入りください』
「はい」
ガーッ とエントランスから少し奥まったところにあるガラス扉が存在を主張するように大きな音を立てて開くと、真正面にエレベーターと階段が見えた。
汐見は佐藤に頷いて階段の方に向かおうとする。と、そこで佐藤が
「大丈夫か?歩き疲れてるんだからエレベーターで……」
「2階くらいなら大丈夫だ。それにエレベーター、10階みたいだし降りてくるの待つより早いだろ」
見るとエレベーターの表示は10階で止まったままチカチカと明滅して動いていない様子だった。
「……とにかく、無理するなよ」
「わかってるって」
「俺、待合室で待ってた方がいいよな?」
「……まぁ、それは池宮弁護士に確認してから……」
「あぁ、そうしてくれ」
〝刑事との事情聴取とか医者の診察とか……今更だけど、汐見のプライベートに首突っ込みすぎてないか?俺、大丈夫かよ……〟
佐藤は今更ながらに完全に家族同然で当たり前のように汐見の重要な会合に同席していることに懸念を抱いた。
だが、当の汐見は佐藤が付き添うことに安心しきっているのか、なんの疑問も持たずに同僚で友人の佐藤を同席させる。
その感覚がすでに普通ではないということに気づくことすらなく───
玄関前に到着して、ドアチャイムの横にあるカメラを覗き込みながらチャイムを押すと
『どうぞ』
応答があり、ガチャっと音が鳴ってドアが自動で少しだけ開いた。
ドアノブに手をかけて引っぱると、一人の女性が出迎えてくれた。中に入るよう促され、病院で見るよりは少し高級そうな待合ソファが置かれた、簡易的な仕切りだけの個室っぽい一角に案内される。
「しばらくこの待合室でお待ちください」
「あ、はい……」
「お飲み物はお茶かコーヒーですが、どちらがよろしいですか?」
二人は顔を見合わせて、汐見が答えた。
「あ、じゃあお茶で……」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言ってその女性は奥の方に消える。
二人は初めて来る【弁護士事務所】に少し緊張しているものの
〝オレ一人だったら挙動不審になってたな……〟
佐藤と一緒に来たことに汐見は心底安堵していた。
キョロキョロと見回すが、待合の一角は他の場所があまり見えないようにゆるく仕切られていて、職員らしき人間の複数の声が聞こえるが、重々しい雰囲気はない。
〝弁護士事務所って、中はこんな感じなんだ……〟
雰囲気や感じは事務所によって違うはずだが、初めて来た弁護士の職場に緊張して佐藤と会話することもあまりなく10分程度待たされた後。
「お待たせしました。池宮の相談室までご案内します」
先ほど案内してくれた女性に促され、二人は奥の部屋に導かれた。
「お久しぶりです、汐見さん」
記憶にある声が聞こえてきて、熊のような容貌──と思っていた池宮秋彦は、記憶にあった顎髭が全てなくなりスッキリした顔立ちとがっちりした体型のスーツ姿の男性となって、にこやかに出迎えた。
※弁護士の事務所は、「法律事務所」または「弁護士法人」と呼称しなければならない、と弁護士法で定められていますが、物語をわかりやすくするためあえて俗称である「弁護士事務所」の表記を採用しています。
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