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Chapter08 - Side:EachOther - C
128 > 幕間・親友として (Side:Salt)
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【Side:Salt】
病院を出ても池宮弁護士の事務所に行くまでに少し時間が空いていた。オレは佐藤と二人でぶらっと近くの公園を散歩することにした。
夏日和なので長く外を歩くと暑さにやられてしまいそうだ。だが、この1週間まともに外を出歩かず先週からずっと屋内にいたせいで外の空気を吸いたかった。外を散歩してるだけなのに頭がスッキリする。
少し陽が傾きかけているからか、さほど暑さは感じなかった。
木漏れ日の遊歩道をポツポツ話しながら二人で歩く。
「ちょっと早いけど夕飯にするか?」
オレがそう言うと、佐藤も腕時計を覗き込む。時計は5時を過ぎたばかりだ。
「さすがに早くないか?」
「んー……まぁでも面談は7時からって言ってたから」
「もしかして、腹減ってんのか?」
「ちょっと……」
診察があるので昼は軽めに食べてから出た。そのせいか今頃すでに空腹感を感じてつい食事の話をしてしまう。
「汐見は朝全然食べないのに昼と夜がっつりだよな。よく太らないよな?」
「っあー、なんか筋肉つきやすいからだろう。筋トレしてるからそういうのも関係あるかもな。あ、でも最近筋トレしてないからヤバイな……」
「いや、今はまだやるなよ?」
「うーーん」
そっちは悩ましい問題だ。
筋トレが習慣化していたので最近の運動不足というか筋トレ不足がじわじわ来てる気がする。気のせいか、体が重い。
〝元々、痩せにくくて筋肉質なんだよな……父親に似たんだろうけど……〟
記憶の中だけにある、ほとんど顔も姿も覚えていない父親の写真を思い出した。
中肉中背でがっちりした体型の男で、自分でも思うほど顔は似ていなかった。
〝オレ、顔つきは完全に母親似だからなぁ……〟
母親の方は、目つきはオレほど悪くなかったが、切長の一重まぶたでスッキリとした顔立ちをしていた。だから、顔は母親、身体的特徴は父親似、と両親双方の外見的特徴を完全に受け継いでいた。
〝兄弟もいないから……そう思うと……あの二人の遺伝子を継いでるのはこの世でオレだけなんだよな……〟
哀愁に似た感覚がオレの中を駆け抜ける。
佐藤には理解してもらえないかもしれない。だけどきっとこれは話さないといけないことだろう。
〝オレの中にある蟠りと葛藤と……まだオレにも明確になってないが……お前に応えられない理由を……〟
ニコニコ笑いかける佐藤に、オレはうっすらと笑って返す。その返した笑顔にすら笑みを深める佐藤の表情の意味なんて、これまで考えたこともなかった。
だが、あの部屋を見て────
〝お前は……〟
そこまで想ってくれてる、オレに恋愛感情を抱いている佐藤に、嫌悪感とは違う不思議な感覚を抱いている。
〝……EDっつってたけど、じゃあ……自分で……とかもできないってことだよな?それが……あんな写真ばっか集めたら、それこそ生殺しじゃないのか?〟
オレは自分が立たなかったら、ということを想像してみた。
今の佐藤は、立たないのにグラビアアイドルの水着写真を集めてるようなものだろう? オレだったらそんなことしないが……収集癖があるんだったら習慣で何かにつけて写真を集めてしまうかもしれない。それでも立たないのにそういうものを目の前にして────
〝それはそれでまた辛いんじゃないか?〟
佐藤がオレに対して直接、告白しないのであれば、オレはそれを言い訳にしようと思う。
オレ自身が都合よくお前のそばで親友としていられるように。
せめて、オレが転職を決めたり転居したりすることになって、お前から離れるまでは。
〝佐藤から言い出さない限りその話題には触れないでおこう、オレの返事を聞かれるその時が来るまでは……〟
佐藤の端正な横顔を見ながら、オレは決意した。
「汐見?」
「ん?」
「夕飯、お前、何食べたいんだ?」
「うーん……って、お前、オレの要望ばっかじゃなくて、お前は何食いたいんだよ」
「俺? 俺は……」
木漏れ日で顔に影ができる佐藤をすこし斜めに見上げると、佐藤がジッとオレを見つめていた。
今はその意味を知っているからか、若干動揺する。
「汐見が食べたいって言ったものを食いたくなるから、それでいいんだよ」
その言い方が、恋人に言う、甘ったるいセリフに聞こえた。
〝いや……お前はさ……お前は、オレとは違うんだから……〟
病院を出ても池宮弁護士の事務所に行くまでに少し時間が空いていた。オレは佐藤と二人でぶらっと近くの公園を散歩することにした。
夏日和なので長く外を歩くと暑さにやられてしまいそうだ。だが、この1週間まともに外を出歩かず先週からずっと屋内にいたせいで外の空気を吸いたかった。外を散歩してるだけなのに頭がスッキリする。
少し陽が傾きかけているからか、さほど暑さは感じなかった。
木漏れ日の遊歩道をポツポツ話しながら二人で歩く。
「ちょっと早いけど夕飯にするか?」
オレがそう言うと、佐藤も腕時計を覗き込む。時計は5時を過ぎたばかりだ。
「さすがに早くないか?」
「んー……まぁでも面談は7時からって言ってたから」
「もしかして、腹減ってんのか?」
「ちょっと……」
診察があるので昼は軽めに食べてから出た。そのせいか今頃すでに空腹感を感じてつい食事の話をしてしまう。
「汐見は朝全然食べないのに昼と夜がっつりだよな。よく太らないよな?」
「っあー、なんか筋肉つきやすいからだろう。筋トレしてるからそういうのも関係あるかもな。あ、でも最近筋トレしてないからヤバイな……」
「いや、今はまだやるなよ?」
「うーーん」
そっちは悩ましい問題だ。
筋トレが習慣化していたので最近の運動不足というか筋トレ不足がじわじわ来てる気がする。気のせいか、体が重い。
〝元々、痩せにくくて筋肉質なんだよな……父親に似たんだろうけど……〟
記憶の中だけにある、ほとんど顔も姿も覚えていない父親の写真を思い出した。
中肉中背でがっちりした体型の男で、自分でも思うほど顔は似ていなかった。
〝オレ、顔つきは完全に母親似だからなぁ……〟
母親の方は、目つきはオレほど悪くなかったが、切長の一重まぶたでスッキリとした顔立ちをしていた。だから、顔は母親、身体的特徴は父親似、と両親双方の外見的特徴を完全に受け継いでいた。
〝兄弟もいないから……そう思うと……あの二人の遺伝子を継いでるのはこの世でオレだけなんだよな……〟
哀愁に似た感覚がオレの中を駆け抜ける。
佐藤には理解してもらえないかもしれない。だけどきっとこれは話さないといけないことだろう。
〝オレの中にある蟠りと葛藤と……まだオレにも明確になってないが……お前に応えられない理由を……〟
ニコニコ笑いかける佐藤に、オレはうっすらと笑って返す。その返した笑顔にすら笑みを深める佐藤の表情の意味なんて、これまで考えたこともなかった。
だが、あの部屋を見て────
〝お前は……〟
そこまで想ってくれてる、オレに恋愛感情を抱いている佐藤に、嫌悪感とは違う不思議な感覚を抱いている。
〝……EDっつってたけど、じゃあ……自分で……とかもできないってことだよな?それが……あんな写真ばっか集めたら、それこそ生殺しじゃないのか?〟
オレは自分が立たなかったら、ということを想像してみた。
今の佐藤は、立たないのにグラビアアイドルの水着写真を集めてるようなものだろう? オレだったらそんなことしないが……収集癖があるんだったら習慣で何かにつけて写真を集めてしまうかもしれない。それでも立たないのにそういうものを目の前にして────
〝それはそれでまた辛いんじゃないか?〟
佐藤がオレに対して直接、告白しないのであれば、オレはそれを言い訳にしようと思う。
オレ自身が都合よくお前のそばで親友としていられるように。
せめて、オレが転職を決めたり転居したりすることになって、お前から離れるまでは。
〝佐藤から言い出さない限りその話題には触れないでおこう、オレの返事を聞かれるその時が来るまでは……〟
佐藤の端正な横顔を見ながら、オレは決意した。
「汐見?」
「ん?」
「夕飯、お前、何食べたいんだ?」
「うーん……って、お前、オレの要望ばっかじゃなくて、お前は何食いたいんだよ」
「俺? 俺は……」
木漏れ日で顔に影ができる佐藤をすこし斜めに見上げると、佐藤がジッとオレを見つめていた。
今はその意味を知っているからか、若干動揺する。
「汐見が食べたいって言ったものを食いたくなるから、それでいいんだよ」
その言い方が、恋人に言う、甘ったるいセリフに聞こえた。
〝いや……お前はさ……お前は、オレとは違うんだから……〟
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