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Chapter08 - Side:EachOther - C
122 > 佐藤宅 ー18〜 何かの予兆 [Side:Other]
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【Side:Other】
慰められるかどうかは置いておくとしても、なんと言葉をかければいいのかわからず、佐藤は逡巡していた。
それを見て意を決した汐見は、佐藤の顔を真正面から捉えて言った。
「ちょっと、聞きたいんだが、いいか?」
「あ、ああ」
いきなり質問する体制に入った汐見に不審気な顔をした佐藤が返事をする。
「お前はさ……浮気、とか二股、とか、その……どう、思う?」
「!!」
その疑問は汐見にとってはあり得ないと一刀両断ものの話だったが、もしかしたら眉目秀麗な人間にとっては当たり前のことなのかもしれない。
そう思いたくないからこそ聞きたかったのだが、そこで佐藤に当然のように『浮気や二股なんて今時誰でもしてる』と言われたらそれはそれで衝撃を受けそうだと汐見は感じていた。
「……それ、って、俺にそういう経験があるか? って聞いてるのか? もしかして……」
「……」
汐見は質問を質問で返されて、どう答えればいいかわからなかったが、そういうことを聞きたかったのかもしれないと思って、ゆっくり頷いた。
〝汐見がどういう返事を望んでいるか、わかる……けど……〟
きっと、汐見は佐藤がそういうことをしたことがない、とはっきり言って欲しいのだろう。
もし、今ここで適当な嘘をついて返事を返せば汐見はこれ以上傷つかないかもしれない。だが、後々にそれが嘘だと分かった時の方が、痛手は大きい気がした。
汐見と出会う前までの、特に出会う1年前までの佐藤は誰彼構わず、それこそ二股など普通にしていた時期があったのは確かで。
〝もし、万に一つでも……汐見と付き合えるようになって、その頃に……今の〈春風〉みたいに……俺の過去が知られたら……死ぬほどショックを受けるだろうな……〟
今の時点で汐見潮とそういう関係になる可能性は低い。もしかしたら今後も無いかもしれない。だが、恋愛事情や付き合うなどという事柄に関しては、汐見に嘘をつきたくなかった。
嘘をついて、いつかその嘘がバレた時、その瞬間に汐見の信用を全て失うことになる。
それは汐見の心を永遠に失うことと同義だ。
それくらいなら───
〝お前が、今は欲しくない答えかもしれない……〟
「あるよ。……俺自身がされたことも、俺がしたこともある。けど……」
佐藤は少し動揺を見せた汐見をまっすぐに見据えて
「今の片想いの人ができてからは、ない」
〝お前と出会ってからは……〟
「ってか、本当はその片想いの人とそういう関係になれたらいいんだけど……その……その人に似た人と付き合ったりしてて……でも、被ったことはない」
ちゃんと、言い伝えた。包み隠さず。それが今、佐藤が汐見にできる自分なりの誠意だった。
〝本命のお前が目の前にいるけど、お前とは付き合えない。だから他の人と付き合って欲求を解消してる。でも本当はお前と……〟
そこまで考えて佐藤は自ら思考停止した。
でないと自分の本当の欲望が目の前にいる本命の汐見相手に、眼球から飛び出しそうだったからだ。
「……そう、か……」
〝片想いの人ができてから……って、佐藤、それ、何年前からの話なんだ……〟
あの部屋を見て佐藤の本音を知った今、汐見は佐藤が自分を見る視線の意味が違うことを、ようやく理解した。
佐藤は自分が好きで、でも自分に受け入れてもらえないと思っていると。
その熱っぽい視線が汐見にそう訴えかけている。
言外に溢れ出す佐藤の視線からの言葉が、ようやく汐見にも聞こえてきた。
〝お前……ずっとそんな目で見てたか?〟
視線を返す汐見の表情がいつもと少し違うような気がした佐藤は、少し目元を赤くした後、ゆっくりと長い睫毛を瞬かせて目を伏せた。
「その……本当は、その人と付き合いたいんだけどさ……はは。情けないよな俺……」
「……」
汐見は何をどう伝えればいいのかわからなかった。
自分に対する想いを直接言わない理由をちゃんと知りたかった。
〝お前がちゃんと言ってくれればまだ……考えることができるのに……〟
だが、汐見には優先事項が複数ありすぎて、今そういうことを言われてもキャパオーバーで処理できないと感じたので────
「別に、情けなくはないだろ。既婚者相手なら……普通、行動は……起こせない、だろ……」
そう言って、汐見自身が自分で自分の言葉に得心した。
〝そう、だな。結婚してる相手に、何ができるんだ、って話だ……既婚者で、しかも男でってハードル高すぎるし多すぎるな、佐藤……〟
汐見は他人事のように、佐藤の表情から心象を観察していた。
佐藤の表情にいつもとは違う憐憫を感じた汐見は自分が佐藤だったらどういう行動に出ただろう、と思った。
〝男と……ってのはわからんが、でも……既婚者相手ではどうにもならない、と思っただろうな〟
俯瞰してみると、佐藤の行動の理由はある程度わかる。もっと深く考えれば佐藤の行動原理まで見えてきそうだった。
だが、今はそれ以上突っ込むことはやめて
「……言いにくいこと言わせたな。とりあえず、明日、色々進むだろ……紗妃のことも……池宮先生と話して今後のことを考えようと思ってる……」
薄く笑いながら言った。何かの予兆を感じながら────
〝色々片付けないとな……紗妃も、オレも、佐藤、も……〟
慰められるかどうかは置いておくとしても、なんと言葉をかければいいのかわからず、佐藤は逡巡していた。
それを見て意を決した汐見は、佐藤の顔を真正面から捉えて言った。
「ちょっと、聞きたいんだが、いいか?」
「あ、ああ」
いきなり質問する体制に入った汐見に不審気な顔をした佐藤が返事をする。
「お前はさ……浮気、とか二股、とか、その……どう、思う?」
「!!」
その疑問は汐見にとってはあり得ないと一刀両断ものの話だったが、もしかしたら眉目秀麗な人間にとっては当たり前のことなのかもしれない。
そう思いたくないからこそ聞きたかったのだが、そこで佐藤に当然のように『浮気や二股なんて今時誰でもしてる』と言われたらそれはそれで衝撃を受けそうだと汐見は感じていた。
「……それ、って、俺にそういう経験があるか? って聞いてるのか? もしかして……」
「……」
汐見は質問を質問で返されて、どう答えればいいかわからなかったが、そういうことを聞きたかったのかもしれないと思って、ゆっくり頷いた。
〝汐見がどういう返事を望んでいるか、わかる……けど……〟
きっと、汐見は佐藤がそういうことをしたことがない、とはっきり言って欲しいのだろう。
もし、今ここで適当な嘘をついて返事を返せば汐見はこれ以上傷つかないかもしれない。だが、後々にそれが嘘だと分かった時の方が、痛手は大きい気がした。
汐見と出会う前までの、特に出会う1年前までの佐藤は誰彼構わず、それこそ二股など普通にしていた時期があったのは確かで。
〝もし、万に一つでも……汐見と付き合えるようになって、その頃に……今の〈春風〉みたいに……俺の過去が知られたら……死ぬほどショックを受けるだろうな……〟
今の時点で汐見潮とそういう関係になる可能性は低い。もしかしたら今後も無いかもしれない。だが、恋愛事情や付き合うなどという事柄に関しては、汐見に嘘をつきたくなかった。
嘘をついて、いつかその嘘がバレた時、その瞬間に汐見の信用を全て失うことになる。
それは汐見の心を永遠に失うことと同義だ。
それくらいなら───
〝お前が、今は欲しくない答えかもしれない……〟
「あるよ。……俺自身がされたことも、俺がしたこともある。けど……」
佐藤は少し動揺を見せた汐見をまっすぐに見据えて
「今の片想いの人ができてからは、ない」
〝お前と出会ってからは……〟
「ってか、本当はその片想いの人とそういう関係になれたらいいんだけど……その……その人に似た人と付き合ったりしてて……でも、被ったことはない」
ちゃんと、言い伝えた。包み隠さず。それが今、佐藤が汐見にできる自分なりの誠意だった。
〝本命のお前が目の前にいるけど、お前とは付き合えない。だから他の人と付き合って欲求を解消してる。でも本当はお前と……〟
そこまで考えて佐藤は自ら思考停止した。
でないと自分の本当の欲望が目の前にいる本命の汐見相手に、眼球から飛び出しそうだったからだ。
「……そう、か……」
〝片想いの人ができてから……って、佐藤、それ、何年前からの話なんだ……〟
あの部屋を見て佐藤の本音を知った今、汐見は佐藤が自分を見る視線の意味が違うことを、ようやく理解した。
佐藤は自分が好きで、でも自分に受け入れてもらえないと思っていると。
その熱っぽい視線が汐見にそう訴えかけている。
言外に溢れ出す佐藤の視線からの言葉が、ようやく汐見にも聞こえてきた。
〝お前……ずっとそんな目で見てたか?〟
視線を返す汐見の表情がいつもと少し違うような気がした佐藤は、少し目元を赤くした後、ゆっくりと長い睫毛を瞬かせて目を伏せた。
「その……本当は、その人と付き合いたいんだけどさ……はは。情けないよな俺……」
「……」
汐見は何をどう伝えればいいのかわからなかった。
自分に対する想いを直接言わない理由をちゃんと知りたかった。
〝お前がちゃんと言ってくれればまだ……考えることができるのに……〟
だが、汐見には優先事項が複数ありすぎて、今そういうことを言われてもキャパオーバーで処理できないと感じたので────
「別に、情けなくはないだろ。既婚者相手なら……普通、行動は……起こせない、だろ……」
そう言って、汐見自身が自分で自分の言葉に得心した。
〝そう、だな。結婚してる相手に、何ができるんだ、って話だ……既婚者で、しかも男でってハードル高すぎるし多すぎるな、佐藤……〟
汐見は他人事のように、佐藤の表情から心象を観察していた。
佐藤の表情にいつもとは違う憐憫を感じた汐見は自分が佐藤だったらどういう行動に出ただろう、と思った。
〝男と……ってのはわからんが、でも……既婚者相手ではどうにもならない、と思っただろうな〟
俯瞰してみると、佐藤の行動の理由はある程度わかる。もっと深く考えれば佐藤の行動原理まで見えてきそうだった。
だが、今はそれ以上突っ込むことはやめて
「……言いにくいこと言わせたな。とりあえず、明日、色々進むだろ……紗妃のことも……池宮先生と話して今後のことを考えようと思ってる……」
薄く笑いながら言った。何かの予兆を感じながら────
〝色々片付けないとな……紗妃も、オレも、佐藤、も……〟
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