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Chapter08 - Side:EachOther - C
116 > 佐藤宅 ー12〜 坂田からの話 [Side:Other]
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【Side:Other】
佐藤が外出から帰ってきてその日1日は、佐藤の家でまったり過ごすことになった。
テレビで録画していた番組を流してそれを二人で突っ込みながら観ているが、実際の二人は別のことが脳裏を駆け巡っていた。
〝……汐見が転職……橋田に連絡取る前にあいつと一回サシで話したほうがいい気がするな……汐見がもし橋田の会社に行くなら俺も……〟
佐藤は汐見と離れる気は毛頭ないので、何らかの手段を講じてでも汐見と一緒にいられるように動こうと思っていた。
一方の汐見は、昨夜知った事実に混乱してはいるが佐藤の機嫌が良さそうなのは良いことだと思っていた。
〝だが……この状態が続くのは良くないな……紗妃のことも、慰謝料のことも、転職も、佐藤……も……〟
積み上がっていく課題がどんどん増えていくだけでどこから手をつけたらいいのかわからなくなる。
汐見は差し当たって、明日予定している池宮弁護士との面談について整理しなければいけないだろうと思っていた。
ふと思い出した佐藤が
「病院は午後だろ、何時でもいいって?」
汐見に聞いた。
「ああ、予約は特に必要ないけど4時までには受付してほしいって言ってたな」
「じゃあ、その後弁護士事務所ってことになるな。……外出時間短い方がいいよな?」
「そうだな……事務所は……何時だって?」
「一応、7時くらいでどうですか、って言ってたな。その後は特に予定とかないよな?」
「それは大丈夫だ……」
〝とすると……病院に行ったあと夕飯食って、それから事務所って感じになるかな〟
汐見は池宮秋彦とまともに話したことなどないが、記憶にある彼は温厚そうな容貌をしていた。
紗妃の旧来の友人と言うからどんな派手な人間かと思いきや、まるで正反対。なんだったら紗妃が付き合うのを躊躇いそうな人物像だったためその意外性に驚いたのは確かだ。
"交友関係は派手じゃなかったってことかな……"
色々と思いを巡らせていると、佐藤が汐見の横顔を見ながら話しかけてきた。
「あの、な、汐見……」
「ん? どうした?」
「その……」
珍しく言い渋っている様子の佐藤に汐見が怪訝な表情を返す。
「俺、悪いかとは思ったんだけど……紗妃ちゃんのこと、聞いたんだよ……その、俺たちの会社に来る前の話……」
「!!」
「……先週木曜日にさ、聞いた、って話。あれ」
佐藤は汐見の様子を伺いつつ、でも思い出すように左上を見ている。
「俺の大学の同期の坂田ってやつがさ、紗妃ちゃんが元いた会社での元同僚だったらしくて……そいつから、その……」
「……」
佐藤の話す言葉に嘘はないだろう。だが、その言いあぐねている表情や口調を見て、汐見は思っていた。
〝オレに恋愛感情を抱いているんだろうな、って今の佐藤から……紗妃の話を聞くのは、複雑だな……〟
汐見の感情はない混ぜで、周囲にできた事実は複雑に絡み合っていて、果たしてどちらに向かって片付けていけばいいのかわからない。
一方の佐藤は、坂田から聞いた話を今の汐見に話すことは傷口に塩を塗りたくることだと理解している。だが、話すべきことだと思っていた。
明日、弁護士事務所に行けばきっとそこで紗妃のこれまでの行動だのなんだのは聞かれるし、話題に上がることは必至だからだ。
〝夫である汐見以上に〈春風〉の情報を知ってしまった俺としては複雑だけど、でも汐見は知っておくべきだと思う……〟
慰謝料請求をされた当事者である紗妃本人はいない。と言うより、現実問題、会話が成り立たないだろう。『紗妃』が『紗妃』であるかどうかということ自体が不確かで、不倫の事実を現実の自分のこととして自覚している『紗妃』かどうかが同定(※)できないままでは。
なのに、W不倫された被害者であるはずの夫が、加害者である妻の代わりに弁護士事務所に出向かざるを得ない。その事実がとてつもなく理不尽で、タイミングとして最悪だとすら思う。
だが、夫である汐見自身が〈春風〉のことを、〈春風〉が不倫に至るまで、そして不倫に至ってから何があったのかを、知りうる限りで知っておくべきだと佐藤は思った。
汐見は聞きたくないだろうが、紗妃がどのようにして退職に至ったのか、伝聞ではあるものの、紗妃が不倫に至るまで、どれだけ派手な遊び方をしていたのか、など。
坂田から聞いた情報を漏らさず、なるべく主観を入れずに正確に伝えることが今の佐藤にできる唯一のことだとも思った。だから───
「これから話すことは、その大学の同期から聞いたことだ。その同期はちょっとしたルートからその情報をたまたま入手したらしいし、俺もその真偽は知らない。けど、信憑性は高いと思っている。その……」
「……いいよ、回りくどいことを言わなくても、わかってる。お前がオレを気遣ってなかなかはっきり言えないってこともな。だから、遠慮なく話してくれ。オレは紗妃のことをできるだけ知るべきだと思う」
「……わかった」
〝〈春風〉が今後どうなるのかはまだわからない……でも……〟
※同定=同一であると見きわめること。
佐藤が外出から帰ってきてその日1日は、佐藤の家でまったり過ごすことになった。
テレビで録画していた番組を流してそれを二人で突っ込みながら観ているが、実際の二人は別のことが脳裏を駆け巡っていた。
〝……汐見が転職……橋田に連絡取る前にあいつと一回サシで話したほうがいい気がするな……汐見がもし橋田の会社に行くなら俺も……〟
佐藤は汐見と離れる気は毛頭ないので、何らかの手段を講じてでも汐見と一緒にいられるように動こうと思っていた。
一方の汐見は、昨夜知った事実に混乱してはいるが佐藤の機嫌が良さそうなのは良いことだと思っていた。
〝だが……この状態が続くのは良くないな……紗妃のことも、慰謝料のことも、転職も、佐藤……も……〟
積み上がっていく課題がどんどん増えていくだけでどこから手をつけたらいいのかわからなくなる。
汐見は差し当たって、明日予定している池宮弁護士との面談について整理しなければいけないだろうと思っていた。
ふと思い出した佐藤が
「病院は午後だろ、何時でもいいって?」
汐見に聞いた。
「ああ、予約は特に必要ないけど4時までには受付してほしいって言ってたな」
「じゃあ、その後弁護士事務所ってことになるな。……外出時間短い方がいいよな?」
「そうだな……事務所は……何時だって?」
「一応、7時くらいでどうですか、って言ってたな。その後は特に予定とかないよな?」
「それは大丈夫だ……」
〝とすると……病院に行ったあと夕飯食って、それから事務所って感じになるかな〟
汐見は池宮秋彦とまともに話したことなどないが、記憶にある彼は温厚そうな容貌をしていた。
紗妃の旧来の友人と言うからどんな派手な人間かと思いきや、まるで正反対。なんだったら紗妃が付き合うのを躊躇いそうな人物像だったためその意外性に驚いたのは確かだ。
"交友関係は派手じゃなかったってことかな……"
色々と思いを巡らせていると、佐藤が汐見の横顔を見ながら話しかけてきた。
「あの、な、汐見……」
「ん? どうした?」
「その……」
珍しく言い渋っている様子の佐藤に汐見が怪訝な表情を返す。
「俺、悪いかとは思ったんだけど……紗妃ちゃんのこと、聞いたんだよ……その、俺たちの会社に来る前の話……」
「!!」
「……先週木曜日にさ、聞いた、って話。あれ」
佐藤は汐見の様子を伺いつつ、でも思い出すように左上を見ている。
「俺の大学の同期の坂田ってやつがさ、紗妃ちゃんが元いた会社での元同僚だったらしくて……そいつから、その……」
「……」
佐藤の話す言葉に嘘はないだろう。だが、その言いあぐねている表情や口調を見て、汐見は思っていた。
〝オレに恋愛感情を抱いているんだろうな、って今の佐藤から……紗妃の話を聞くのは、複雑だな……〟
汐見の感情はない混ぜで、周囲にできた事実は複雑に絡み合っていて、果たしてどちらに向かって片付けていけばいいのかわからない。
一方の佐藤は、坂田から聞いた話を今の汐見に話すことは傷口に塩を塗りたくることだと理解している。だが、話すべきことだと思っていた。
明日、弁護士事務所に行けばきっとそこで紗妃のこれまでの行動だのなんだのは聞かれるし、話題に上がることは必至だからだ。
〝夫である汐見以上に〈春風〉の情報を知ってしまった俺としては複雑だけど、でも汐見は知っておくべきだと思う……〟
慰謝料請求をされた当事者である紗妃本人はいない。と言うより、現実問題、会話が成り立たないだろう。『紗妃』が『紗妃』であるかどうかということ自体が不確かで、不倫の事実を現実の自分のこととして自覚している『紗妃』かどうかが同定(※)できないままでは。
なのに、W不倫された被害者であるはずの夫が、加害者である妻の代わりに弁護士事務所に出向かざるを得ない。その事実がとてつもなく理不尽で、タイミングとして最悪だとすら思う。
だが、夫である汐見自身が〈春風〉のことを、〈春風〉が不倫に至るまで、そして不倫に至ってから何があったのかを、知りうる限りで知っておくべきだと佐藤は思った。
汐見は聞きたくないだろうが、紗妃がどのようにして退職に至ったのか、伝聞ではあるものの、紗妃が不倫に至るまで、どれだけ派手な遊び方をしていたのか、など。
坂田から聞いた情報を漏らさず、なるべく主観を入れずに正確に伝えることが今の佐藤にできる唯一のことだとも思った。だから───
「これから話すことは、その大学の同期から聞いたことだ。その同期はちょっとしたルートからその情報をたまたま入手したらしいし、俺もその真偽は知らない。けど、信憑性は高いと思っている。その……」
「……いいよ、回りくどいことを言わなくても、わかってる。お前がオレを気遣ってなかなかはっきり言えないってこともな。だから、遠慮なく話してくれ。オレは紗妃のことをできるだけ知るべきだと思う」
「……わかった」
〝〈春風〉が今後どうなるのかはまだわからない……でも……〟
※同定=同一であると見きわめること。
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