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Chapter08 - Side:EachOther - C
111 > 佐藤宅 ー07〜 望遠カメラ (Side:Salt)
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【Side:Salt】
「……」
望遠カメラでオレの元いたアパートの部屋が丸見えだったことを確認したオレは、カメラを戻しにまた佐藤の趣味の部屋に戻った。
昨夜見た部屋とは全く違う、まるで別の部屋みたいな空間。あれほど散乱していた写真もどこへやら、
〝一番は壁だ……昨日見たアレは……〟
絶対に見間違いなんかじゃ、夢なんかじゃない。俺は確かにこの目で見た。
〝写真に撮っておけばよかった……〟
だが、さっき、オレが家に来た時の佐藤はいつもと変わらなかった。オレの方が若干挙動不審だったくらいだが、佐藤はそれにはあまり気づいてなかった。
〝それにしても……〟
もし、あの、佐藤のオレへの気持ちが夢とか幻とかじゃなくて……本当に、佐藤がオレにストーカー紛いのことをしていたとして、その気持ちってなんなんだ?
「……でも……何かを強要されたこととか、ない……よな……」
ストーカーの定義を昨日調べてみて考えたのは、佐藤自身がやってる行動はほぼ犯罪だが、だけど佐藤がオレに対するストーキング行為をオレに対して仄めかすことも、それでオレに何かを強要してくることもなかった。
一度たりとてそんなことされたことも言われたこともない。
ただただ、佐藤はオレの写真を撮って集めてて……
〝……でも、半裸の写真が……多かったよな……てことは……〟
オレが部屋にいるのを盗撮した写真の多くはオレが部屋でパンイチで筋トレしてたり風呂あがりの写真だった。
オレが家の中では裸族だったりしてたら佐藤は喜んだのか……
そのオレの写真を見て……そういう写真が性的なことに使われているんだろうなってことはわかる。わかるんだが、佐藤のあの見た目からは想像することが全くできない。
佐藤は女を抱いてる姿の方がしっくりくる。あの見た目だ。
上等な美女を手玉にしててもおかしくない。そういう想像の方が容易にできる。
中世あたりに生まれてたらどこぞの貴族の息子で毎日複数の女性相手に酒池肉林してそう、そんなイメージがぴったりだ。
「それを、なんでオレなんか……」
まだ、まだ綺麗めの、華奢で色白で、女性に見間違えるような美少年とか美青年とかならわかる。佐藤は美形だし美人だが、あの体格があるからこそ女性と見間違える、とかいう形容詞が似合わない。佐藤をあえて言うなら
「美丈夫、って感じなんだよな……周瑜とか?」
思わず出たセリフに笑ってしまった。オレの佐藤のイメージが固まりすぎてて笑える。
そしてそのイメージから乖離しすぎている。佐藤のオレに対する行動が。
だから現実味を帯びてない。アレは夢だったんじゃないか、と疑ってしまう。
女だけじゃなく、男だって、佐藤がその気になって声をかければ靡かないやつなんていないんじゃないかと思う。
そこまで考えて、じゃあオレは? と思った。
〝オレ、オレは……〟
佐藤のことは出会ったあの忘年会あたりから、一番気にかけてて気に入ってて、友人以上の存在で、家族未満で……でも佐藤にとってオレは……
オレ自身が鈍すぎるってのはあるだろうが、佐藤がオレに抱く感情がよくわからない。
同性愛者を否定するわけじゃないし、そういう人たちがいるのも知ってる。ただ、オレの周りにはいなかっただけで……
「……いや、オレが知らなかっただけかもな……」
同性愛の人たちは人知れず恋愛行動してると聞いたことがある。公に行動することで周りにいる理解のない人間から拒絶されるのを避けるために。
オレが知らなかっただけで、かつての知り合いの中に実は同性愛者だった、という人間が……男女問わずいたのかもしれない。
〝気づかなかっただけで……佐藤、みたいに……〟
さっきもちらっと考えたけど、そもそも佐藤は同性愛者なのか?
〝……違うと思うんだよな……彼女切らしてたことない気がするし……〟
女性には……恋愛の相手には事欠かないだろう。佐藤が付き合いたいと言って声をかけて断る女性なんかいるわけない。
〝まぁ、その割には振られることの方が多いとは言ってたけど……〟
その度に『お前を振るなんて見る目がないな』って言ってたし、それを聞いて佐藤も『いつものことだし』って笑ってた。……笑ってた、よな?
じゃあ、オレに対して恋愛感情はないけど、そういう行為がしたいだけってこともありうるんだろか……佐藤が……。
オレにはよくわからんが性欲が強い男は好きでもない女性でも数多く抱いて発散する、とかってのは聞く。
好きでもないのに抱けるってのは……勃つってのが、ちょっと、いやかなり理解できないんだが……まぁ、オレが性欲薄いってのはあるのかもしれないし……
佐藤が、オレとそういうことはしたいけど特に好きでもなんでもなくて、とかってのは……
「でも……まぁ、あの写真を見ると……」
恋愛、としてオレのことが好きなんだろうな、というのは伝わってた。そしてそれを通してオレを性的に……
「……想像できん……」
〝オレが、佐藤と? 佐藤が、オレと?〟
佐藤の部屋で色々考えていたが、PC机の上にある時計を見ると、そろそろ佐藤が帰ってくる時間だ。この部屋にはあまり長居しない方がいいだろう。
オレはカメラがちゃんと元通りに戻されていることを確認して、その部屋を出た。
そして、リビングに向かおうと体の向きを変えると
ガチャ
といきなり玄関が開いて、びっくりした。
「ん? 汐見?」
「あ、あぁ!おかえり」
「ただいま。どうした?」
咄嗟のことで何を言うべきか詰まったが、瞬時に思い出したオレは
「っあ、ああ、ちょっと、昨日持って行き忘れたのがあったな、と思って部屋に……」
「? なに?」
「っあ、いや、メモを……」
しどろもどろになりながら伝えると、佐藤はチェーン店の弁当屋の買い物袋をかざして
「お昼はこれな。唐揚げ買っといたから、お前も少し食べろよ」
「あ、ありがとう……」
今度こそオレは、罪悪感に潰された。
「……」
望遠カメラでオレの元いたアパートの部屋が丸見えだったことを確認したオレは、カメラを戻しにまた佐藤の趣味の部屋に戻った。
昨夜見た部屋とは全く違う、まるで別の部屋みたいな空間。あれほど散乱していた写真もどこへやら、
〝一番は壁だ……昨日見たアレは……〟
絶対に見間違いなんかじゃ、夢なんかじゃない。俺は確かにこの目で見た。
〝写真に撮っておけばよかった……〟
だが、さっき、オレが家に来た時の佐藤はいつもと変わらなかった。オレの方が若干挙動不審だったくらいだが、佐藤はそれにはあまり気づいてなかった。
〝それにしても……〟
もし、あの、佐藤のオレへの気持ちが夢とか幻とかじゃなくて……本当に、佐藤がオレにストーカー紛いのことをしていたとして、その気持ちってなんなんだ?
「……でも……何かを強要されたこととか、ない……よな……」
ストーカーの定義を昨日調べてみて考えたのは、佐藤自身がやってる行動はほぼ犯罪だが、だけど佐藤がオレに対するストーキング行為をオレに対して仄めかすことも、それでオレに何かを強要してくることもなかった。
一度たりとてそんなことされたことも言われたこともない。
ただただ、佐藤はオレの写真を撮って集めてて……
〝……でも、半裸の写真が……多かったよな……てことは……〟
オレが部屋にいるのを盗撮した写真の多くはオレが部屋でパンイチで筋トレしてたり風呂あがりの写真だった。
オレが家の中では裸族だったりしてたら佐藤は喜んだのか……
そのオレの写真を見て……そういう写真が性的なことに使われているんだろうなってことはわかる。わかるんだが、佐藤のあの見た目からは想像することが全くできない。
佐藤は女を抱いてる姿の方がしっくりくる。あの見た目だ。
上等な美女を手玉にしててもおかしくない。そういう想像の方が容易にできる。
中世あたりに生まれてたらどこぞの貴族の息子で毎日複数の女性相手に酒池肉林してそう、そんなイメージがぴったりだ。
「それを、なんでオレなんか……」
まだ、まだ綺麗めの、華奢で色白で、女性に見間違えるような美少年とか美青年とかならわかる。佐藤は美形だし美人だが、あの体格があるからこそ女性と見間違える、とかいう形容詞が似合わない。佐藤をあえて言うなら
「美丈夫、って感じなんだよな……周瑜とか?」
思わず出たセリフに笑ってしまった。オレの佐藤のイメージが固まりすぎてて笑える。
そしてそのイメージから乖離しすぎている。佐藤のオレに対する行動が。
だから現実味を帯びてない。アレは夢だったんじゃないか、と疑ってしまう。
女だけじゃなく、男だって、佐藤がその気になって声をかければ靡かないやつなんていないんじゃないかと思う。
そこまで考えて、じゃあオレは? と思った。
〝オレ、オレは……〟
佐藤のことは出会ったあの忘年会あたりから、一番気にかけてて気に入ってて、友人以上の存在で、家族未満で……でも佐藤にとってオレは……
オレ自身が鈍すぎるってのはあるだろうが、佐藤がオレに抱く感情がよくわからない。
同性愛者を否定するわけじゃないし、そういう人たちがいるのも知ってる。ただ、オレの周りにはいなかっただけで……
「……いや、オレが知らなかっただけかもな……」
同性愛の人たちは人知れず恋愛行動してると聞いたことがある。公に行動することで周りにいる理解のない人間から拒絶されるのを避けるために。
オレが知らなかっただけで、かつての知り合いの中に実は同性愛者だった、という人間が……男女問わずいたのかもしれない。
〝気づかなかっただけで……佐藤、みたいに……〟
さっきもちらっと考えたけど、そもそも佐藤は同性愛者なのか?
〝……違うと思うんだよな……彼女切らしてたことない気がするし……〟
女性には……恋愛の相手には事欠かないだろう。佐藤が付き合いたいと言って声をかけて断る女性なんかいるわけない。
〝まぁ、その割には振られることの方が多いとは言ってたけど……〟
その度に『お前を振るなんて見る目がないな』って言ってたし、それを聞いて佐藤も『いつものことだし』って笑ってた。……笑ってた、よな?
じゃあ、オレに対して恋愛感情はないけど、そういう行為がしたいだけってこともありうるんだろか……佐藤が……。
オレにはよくわからんが性欲が強い男は好きでもない女性でも数多く抱いて発散する、とかってのは聞く。
好きでもないのに抱けるってのは……勃つってのが、ちょっと、いやかなり理解できないんだが……まぁ、オレが性欲薄いってのはあるのかもしれないし……
佐藤が、オレとそういうことはしたいけど特に好きでもなんでもなくて、とかってのは……
「でも……まぁ、あの写真を見ると……」
恋愛、としてオレのことが好きなんだろうな、というのは伝わってた。そしてそれを通してオレを性的に……
「……想像できん……」
〝オレが、佐藤と? 佐藤が、オレと?〟
佐藤の部屋で色々考えていたが、PC机の上にある時計を見ると、そろそろ佐藤が帰ってくる時間だ。この部屋にはあまり長居しない方がいいだろう。
オレはカメラがちゃんと元通りに戻されていることを確認して、その部屋を出た。
そして、リビングに向かおうと体の向きを変えると
ガチャ
といきなり玄関が開いて、びっくりした。
「ん? 汐見?」
「あ、あぁ!おかえり」
「ただいま。どうした?」
咄嗟のことで何を言うべきか詰まったが、瞬時に思い出したオレは
「っあ、ああ、ちょっと、昨日持って行き忘れたのがあったな、と思って部屋に……」
「? なに?」
「っあ、いや、メモを……」
しどろもどろになりながら伝えると、佐藤はチェーン店の弁当屋の買い物袋をかざして
「お昼はこれな。唐揚げ買っといたから、お前も少し食べろよ」
「あ、ありがとう……」
今度こそオレは、罪悪感に潰された。
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