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Chapter06 - Side:EachOther - A
85 > 佐藤宅から汐見宅へ 〜「言葉を尽くす」(Side:Salt)
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【Side:Salt】
「出るぞ~! 忘れ物、ないか?」
2人して玄関口で荷物のチェックをし、佐藤から声をかけられ
「……オッケ。全部持ってる」
オレは右手でサムズアップしてOKサインを出した。
佐藤から借りたデイパックにちまちましたものを入れて、一番重いノートPCは佐藤に持ってもらうことになった。昨夜『一応さ、どれくらい泊まることになるかわからないから、色々持って来ておけば』という佐藤の好意に甘えて、他にも必要なものを持ってこようと思っている。
〝読みかけと、お気に入りの小説も何冊か持ってくるか……〟
そう考えたオレはお昼前に佐藤と一緒に佐藤の家を出た。
途中、どこかで昼飯を食べてからオレの家に行く予定をしていたので、とりあえず電車で家の近くまで来た後、駅近でラーメンを啜った。夜遅くなっても開いてるラーメン屋だったので終電後によく来ていたんだが、平日のこんな時間にこの店に入るのは初めてで、メニューが違うことも初めて知った。
佐藤がちょっと寄りたいところがあると言ってこじんまりした商店街に入って行ったが。オレは少し休憩したかったから商店街のアーケードの下に置かれている長椅子で休むことにした。
平日のお昼時間のせいか子供の声は聞こえず、主婦らしき人たちがそれぞれ行き交っている。
オレみたいな背格好の男がこの時間帯にこんな場所をうろついてると目立つのか、結構ジロジロ見られているようだ。
〝ま、あいつほど目立ってはいないけどな〟
佐藤と一緒に外を出歩くと目立って仕方ない。なので、最初の頃、佐藤に『頼むから、日中にオレと出歩く時は帽子とか被って欲しい……お前が嫌じゃなければ、だけど……』とお願いするとそれ以来、律儀に守ってくれている。
今日はいつもより鍔広のキャップだった。オレの格好に合わせて?ちょっとダサめのチェックのシャツとデニムのボトムを履いてる。が、長身と小さい顔のせいで逆に悪目立ちしているような気がする。
〝オレの贔屓目じゃないよな?〟
男から見てもイイ男ってことは相当な色男だと思うが、佐藤はオレといるときはそういう自負をおくびにも出さない。だが、自分にマウントを取ってこようとする同性には容赦しない。そういうところも含めて
〝変わったよなぁ、あいつ……〟
そういう変化を隣で見ていて気持ちが良かったのはオレだけじゃなかったはずだ。
〝あぁ、橋田と繋がってるって言ってたな……後でオレにも連絡先教えてもらおう……今なら橋田に相談に乗ってもらった方がいいだろうな〟
長椅子の背もたれにもたれてぼーっとアーケードの、安っぽいステンドグラス的な透過ガラス?を眺めていた。この数日、仕事でもないのに目まぐるしく過ごしていて忘れそうだが、近いうちに誕生日だな、となんとなく考えていた。すると、後ろの方からタタタ、という足音が聞こえてきて
「悪い! ちょっと時間かかった! 気分、大丈夫か?」
「あぁ、いや、そんなんでもない。ちょっと休んで楽になったし」
「そうか。じゃあ、そのまま行くか」
「ああ……ってか、お前何買ったんだ?」
「え? あ、ぁぁ……その、ちょっと部屋着をな」
「部屋着?」
「あ、あぁ! く、くたびれたのが多かったから、そろそろ替え時かな~、と思ってさ」
「……部屋着ならくたびれた方のがよくないか?」
「い、いや、まぁ、その、なんて言うか」
「?」
「ちょ、ちょっとさ! 洗濯で縮んでるのが多くなったから、緩めのサイズをな! 買っておこうと思って! ほら!」
しどろもどろに言いながら佐藤が大きめな紙袋から出してきたのは一本のズボン。これまたオーバーサイズにも程があるだろ、と思えるようなダッサイサイズ感のスウェットのボトムだった。
〝こいつ……海パンの時もそうだったけど、私服のスボンに関してだけ、センス皆無だな〟
「おまえ……まぁ、別に家の中でおしゃれすることはないけどさ……」
「な、なんだよ! お前だって家の中ではくつろぎモードだろ。風呂入る前にパンイチで筋トレしてるくせに……」
「? ……なんで知ってるんだ?」
「!! い、いや! ほ、ほら! お、お前が酔った時に言ってた! から!」
「? そうだったか? ……まぁ、今の家に引っ越してからは、パンイチで筋トレってのはやってないな。紗妃が嫌がるんだ……汗で床が濡れるから……汚れるって……」
「……」
〝しまった……〟
紗妃の話題が出たことで一瞬、佐藤とその場の空気が凍ってしまった。
「ま、まぁ、アレだよ。潔癖だからな。あの見た目通り」
「……俺んちではやってもいいぞ。あ、でも今は無理か」
「ははっ。筋トレできるくらいになったらお前ん家には居ないだろ」
「!」
そう言うと、佐藤がキュっと下唇を噛んだ。
〝あー……〟
オレはお前のその顔に弱いんだよ。
そんな顔するなよ。
慰めてやりたくなるだろ。
〝オレの役目じゃないのに……〟
「あの、さ。こんなとこでこんなこと言うのはアレだけど、お前、好きな人、いるんだろ?」
「?!」
「うん……まぁ、その、なんだ……来週くらいにはオレ出て行くからさ。ちゃんと仲直り、しろよ?」
「!?」
「……その、なんだ……オレには言いにくいような関係、なのかもしれないけど……」
「……」
「ちゃんと、言葉を尽くせよ。どうなるかはわからないけどさ。お前くらいの色男、袖にするような女はそうそういないって」
「……」
「な?」
こいつがオレにも言えないってことは……もしかしたら、結ばれたらいけない関係なのかもしれない。紗妃も、結ばれない男と不倫してた。
不倫なんてオレの身の回りにいるなんて考えたこともなかったが、もし、こいつもそうだとしたら……なんてアドバイスすればいいのかわからないが……
「……じゃ、ない」
「ん?」
一瞬の小声だったから聞き取れなかった。
「……な、んでも、ない……」
「……行くか」
「……あぁ……」
俯いたままの佐藤を見ていると、自分より10cmも長身のその男が小さく見える。
オレたちは2人並んで、ここから15分かかるオレのマンションへの道のりを歩き出した。
「出るぞ~! 忘れ物、ないか?」
2人して玄関口で荷物のチェックをし、佐藤から声をかけられ
「……オッケ。全部持ってる」
オレは右手でサムズアップしてOKサインを出した。
佐藤から借りたデイパックにちまちましたものを入れて、一番重いノートPCは佐藤に持ってもらうことになった。昨夜『一応さ、どれくらい泊まることになるかわからないから、色々持って来ておけば』という佐藤の好意に甘えて、他にも必要なものを持ってこようと思っている。
〝読みかけと、お気に入りの小説も何冊か持ってくるか……〟
そう考えたオレはお昼前に佐藤と一緒に佐藤の家を出た。
途中、どこかで昼飯を食べてからオレの家に行く予定をしていたので、とりあえず電車で家の近くまで来た後、駅近でラーメンを啜った。夜遅くなっても開いてるラーメン屋だったので終電後によく来ていたんだが、平日のこんな時間にこの店に入るのは初めてで、メニューが違うことも初めて知った。
佐藤がちょっと寄りたいところがあると言ってこじんまりした商店街に入って行ったが。オレは少し休憩したかったから商店街のアーケードの下に置かれている長椅子で休むことにした。
平日のお昼時間のせいか子供の声は聞こえず、主婦らしき人たちがそれぞれ行き交っている。
オレみたいな背格好の男がこの時間帯にこんな場所をうろついてると目立つのか、結構ジロジロ見られているようだ。
〝ま、あいつほど目立ってはいないけどな〟
佐藤と一緒に外を出歩くと目立って仕方ない。なので、最初の頃、佐藤に『頼むから、日中にオレと出歩く時は帽子とか被って欲しい……お前が嫌じゃなければ、だけど……』とお願いするとそれ以来、律儀に守ってくれている。
今日はいつもより鍔広のキャップだった。オレの格好に合わせて?ちょっとダサめのチェックのシャツとデニムのボトムを履いてる。が、長身と小さい顔のせいで逆に悪目立ちしているような気がする。
〝オレの贔屓目じゃないよな?〟
男から見てもイイ男ってことは相当な色男だと思うが、佐藤はオレといるときはそういう自負をおくびにも出さない。だが、自分にマウントを取ってこようとする同性には容赦しない。そういうところも含めて
〝変わったよなぁ、あいつ……〟
そういう変化を隣で見ていて気持ちが良かったのはオレだけじゃなかったはずだ。
〝あぁ、橋田と繋がってるって言ってたな……後でオレにも連絡先教えてもらおう……今なら橋田に相談に乗ってもらった方がいいだろうな〟
長椅子の背もたれにもたれてぼーっとアーケードの、安っぽいステンドグラス的な透過ガラス?を眺めていた。この数日、仕事でもないのに目まぐるしく過ごしていて忘れそうだが、近いうちに誕生日だな、となんとなく考えていた。すると、後ろの方からタタタ、という足音が聞こえてきて
「悪い! ちょっと時間かかった! 気分、大丈夫か?」
「あぁ、いや、そんなんでもない。ちょっと休んで楽になったし」
「そうか。じゃあ、そのまま行くか」
「ああ……ってか、お前何買ったんだ?」
「え? あ、ぁぁ……その、ちょっと部屋着をな」
「部屋着?」
「あ、あぁ! く、くたびれたのが多かったから、そろそろ替え時かな~、と思ってさ」
「……部屋着ならくたびれた方のがよくないか?」
「い、いや、まぁ、その、なんて言うか」
「?」
「ちょ、ちょっとさ! 洗濯で縮んでるのが多くなったから、緩めのサイズをな! 買っておこうと思って! ほら!」
しどろもどろに言いながら佐藤が大きめな紙袋から出してきたのは一本のズボン。これまたオーバーサイズにも程があるだろ、と思えるようなダッサイサイズ感のスウェットのボトムだった。
〝こいつ……海パンの時もそうだったけど、私服のスボンに関してだけ、センス皆無だな〟
「おまえ……まぁ、別に家の中でおしゃれすることはないけどさ……」
「な、なんだよ! お前だって家の中ではくつろぎモードだろ。風呂入る前にパンイチで筋トレしてるくせに……」
「? ……なんで知ってるんだ?」
「!! い、いや! ほ、ほら! お、お前が酔った時に言ってた! から!」
「? そうだったか? ……まぁ、今の家に引っ越してからは、パンイチで筋トレってのはやってないな。紗妃が嫌がるんだ……汗で床が濡れるから……汚れるって……」
「……」
〝しまった……〟
紗妃の話題が出たことで一瞬、佐藤とその場の空気が凍ってしまった。
「ま、まぁ、アレだよ。潔癖だからな。あの見た目通り」
「……俺んちではやってもいいぞ。あ、でも今は無理か」
「ははっ。筋トレできるくらいになったらお前ん家には居ないだろ」
「!」
そう言うと、佐藤がキュっと下唇を噛んだ。
〝あー……〟
オレはお前のその顔に弱いんだよ。
そんな顔するなよ。
慰めてやりたくなるだろ。
〝オレの役目じゃないのに……〟
「あの、さ。こんなとこでこんなこと言うのはアレだけど、お前、好きな人、いるんだろ?」
「?!」
「うん……まぁ、その、なんだ……来週くらいにはオレ出て行くからさ。ちゃんと仲直り、しろよ?」
「!?」
「……その、なんだ……オレには言いにくいような関係、なのかもしれないけど……」
「……」
「ちゃんと、言葉を尽くせよ。どうなるかはわからないけどさ。お前くらいの色男、袖にするような女はそうそういないって」
「……」
「な?」
こいつがオレにも言えないってことは……もしかしたら、結ばれたらいけない関係なのかもしれない。紗妃も、結ばれない男と不倫してた。
不倫なんてオレの身の回りにいるなんて考えたこともなかったが、もし、こいつもそうだとしたら……なんてアドバイスすればいいのかわからないが……
「……じゃ、ない」
「ん?」
一瞬の小声だったから聞き取れなかった。
「……な、んでも、ない……」
「……行くか」
「……あぁ……」
俯いたままの佐藤を見ていると、自分より10cmも長身のその男が小さく見える。
オレたちは2人並んで、ここから15分かかるオレのマンションへの道のりを歩き出した。
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