雑多な短編集

現代系

おせっせしないと出られない部屋の話

「はー、最悪」

　それはこちらの台詞である。

　なんで私がヤリチンと噂のこいつと一緒にこんな部屋に閉じ込められなきゃならんのか。

　しかも部屋中にそれを意図とした類の物が無数にある。

　それを見た後に視線が合い、互いに逸らす。

「なんでこんなヤリマンと……」

　おい待てお前。聞き捨てならんな。

　なんでお前みたいなヤリチンに、んなこと言われにゃならんのだ。

　こちとら処女だぞ。キス一つしたことが無い清き身の上だぞ。自慢じゃないがな。お前みたいな何処の馬の骨とも分からんヤリチンに捧げて良い身体じゃねえんだわ。金積まれようが脅されようが終いの果てには殺されようが、絶対に貞操守り抜く覚悟があるんだよ。まあ？　お前には分からんだろうけどな。

「は？　それはこっちの台詞だが？？？　なんで俺がヤリチンにされてんの？？？　年齢＝彼女いない歴の童貞だが？？？　肉食極まる人間に言われたくないし？？？」

「ああ！？　決闘か？？？」

「はあ！？　上等だが？？？」

　私たちは服を脱ぎ棄て下着を脱ぎ棄てベッドの上に胡坐を掻いた。

　互いに顔を突き合わせ、相手が欲情して隙を晒した瞬間にカウンターを決めるという作戦だ。

　長期戦の形になるが、この部屋には冷蔵庫も箪笥も換気扇も風呂もサウナもゲーム機も緊急医療用連絡スマホ（？）も、まあ取り敢えず思いつく限りなんでもあるから死ぬことだけはないだろう。



　まあ、結果としては互いに初めてだったわけだが……。

「爺様と婆様の馴れ初め話ほど参考にならん話は無いな」

「うるさいぞ、孫娘。お前も私と奴の血を引いているんだからな。まともな恋愛はできないと思え」