雑多な短編集

広畝 K

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亡命

子供になった王子を連れて亡命した話

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「ああ、パミラ……ぼくを助けて」

 粗末な布団に包まって涙目で震えている青年は、王国の王位継承権第三位を有する王子であったシュバルツ様だ。

 聞いた話によると、シュバルツ様は帝国との戦争において親友を喪われてしまったらしい。

 そして親友を喪うと同時に幼児退行し、これまでの勇敢なる闘争精神をも失われてしまったのだとか。

 ――シュバルツは、もはや使えん。婿に取る者も無いだろう。捨て置け。

 王はそんなシュバルツ様を利用価値が無いものとして、使用人たる私たちに処理を命じられたのだ。

 使用人たる私たちには、王の命に逆らう道理はない。

 けれども、全てを喪失したシュバルツ様を捨てることなど、私には出来なかった。

 シュバルツ様は騎士団によって連れられて森に捨てられ、斬り殺されるところであった。

 が、同乗していた私たちが騎士団の連中を皆殺しにしてやったのである。

 騎士団とは名ばかりの、戦争にも出ていない王宮の雑兵などは相手にもならない。

 しかし命を拾ったとはいえ、王国に戻ることはできないだろう。

 ゆえに私たち使用人は王子を連れ、騎士団の馬を駆って共和国に亡命した。

 そんなこともあろうかと、王国の機密を幾らか融通してもらったのである。

 もちろん、無断ではあるが。

 結果として監視付きではあるものの、私たちは共和国の戸籍を得ることができた。

 そして現在働きに出ているミアに代わって、この私がシュバルツ様のお世話をしている。

「お労しや……シュバルツ様……」

 シュバルツ様の幼い頃から面倒を見てきた私は、彼を優しく抱き留める。

 すると、彼は安心したような声音を漏らして私を強く抱きしめてくれるのだ。

 ミアにはあまり言えないことだが、私はシュバルツ様を愛している。

 使用人としての立場からではなく、一人の異性として、である。

 彼女とは王城に入る前からの長い付き合いだが、幾ら彼女が止めようとも、私は彼を愛し続けるだろう。

 もしミアにその気があるのなら、まあ、うん、それはそれで有りだと思っている。
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