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六章「闘争」
265話
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そして老人の推測は、ある意味では間違っていなかった。
間違っていたのは、既に盗賊たちが始末されているということと、去っていった老人を、追う気配があったことだ。
恐らく老人は、自身から遠い場所で、姉妹たちに始末されるだろう。
そのように娘は確信している。
戦いの途中で、娘が僅かに感じた姉妹の気配は二人分。
老人が戦いの終わりを告げたときには、六人分に増えていた。
つまり、娘の姉妹は他の盗賊たちを始末した後、この戦いを観に来ていたのだ。
一対一の戦いを邪魔しなかったのは、娘に対する配慮だったからに他ならない。
娘に止めを刺さずに去っていく老人を、幾つかの気配が追ったのを、娘は確かに感じ取っていた。残りの気配は、既に娘の側にある。
「お疲れさん」
「……お疲れ」
娘は身体を支えられ、立ち上がる。
目から溢れる涙と喉から湧き上がる嗚咽が止まらない。
姉妹たちは顔を見合わせ、娘の頭を撫でたり、背中を撫でたりして、慰める。
余計なことは何も言わず、肩を貸し、魔力の回復を促し、走りの補助をする。
「森の方も、終わったらしいな」
「……反省は、後でするべき」
姉妹たちも、何か思うところがあったのだろう。
或いは、何かを得られたのか。
その会話から内容を伺い知ることはできないが、また知るべきことでもない。
娘が今思うは、ただ一つ。
――強くならなければ。
それは種族としての、ではない。
一個人としての一念であった。
悔いと悔しさを心に残し、ただただ己の不甲斐なさ、弱さを嘆いた。
否、嘆くだけで終われる筈などない。
老人の魅せた魔法行使における流麗さを脳裏に映し、その足を前へと進めゆく。
間違っていたのは、既に盗賊たちが始末されているということと、去っていった老人を、追う気配があったことだ。
恐らく老人は、自身から遠い場所で、姉妹たちに始末されるだろう。
そのように娘は確信している。
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老人が戦いの終わりを告げたときには、六人分に増えていた。
つまり、娘の姉妹は他の盗賊たちを始末した後、この戦いを観に来ていたのだ。
一対一の戦いを邪魔しなかったのは、娘に対する配慮だったからに他ならない。
娘に止めを刺さずに去っていく老人を、幾つかの気配が追ったのを、娘は確かに感じ取っていた。残りの気配は、既に娘の側にある。
「お疲れさん」
「……お疲れ」
娘は身体を支えられ、立ち上がる。
目から溢れる涙と喉から湧き上がる嗚咽が止まらない。
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余計なことは何も言わず、肩を貸し、魔力の回復を促し、走りの補助をする。
「森の方も、終わったらしいな」
「……反省は、後でするべき」
姉妹たちも、何か思うところがあったのだろう。
或いは、何かを得られたのか。
その会話から内容を伺い知ることはできないが、また知るべきことでもない。
娘が今思うは、ただ一つ。
――強くならなければ。
それは種族としての、ではない。
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悔いと悔しさを心に残し、ただただ己の不甲斐なさ、弱さを嘆いた。
否、嘆くだけで終われる筈などない。
老人の魅せた魔法行使における流麗さを脳裏に映し、その足を前へと進めゆく。
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