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六章「闘争」

261話

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 娘の身体は吹き飛びながらも、その姿勢を制御しようとする余裕があった。
 地に手をつけ、空中で体幹を整え、樹に激突する直前においては、態勢を完全に回復していた。

 敵は拳を構えたまま、こちらを注意深く見つめている。

 ――軽くはない一撃でした。

 だが、重さを感じない一撃でもあったと娘は思う。
 完全に隙だらけの背を、敵に撃ち込まれたのだ。
 さしたるダメージを負っていないのは、娘が咄嗟に防御強化の魔法を背に掛けた効果に依っているのは確かだろう。

 しかし、それはあくまでも咄嗟の処置であり、準備を整えて放った攻撃を完全に防げるだけの魔法を行使できたわけではない。
 見る限り、先の一撃が敵の全身全霊を込めたものであったのは、呼吸の乱れからも明白だ。

 すなわち、

 ――勝敗が、決しましたか。

 敵の剣は、先に弾き返した際に使い物にならなくなったのであろう。
 敵が剣を拾わずに、拳を構えたままでいるのがその証左だ。

 そして、問題は拳の攻撃力である。

 拳には多くの魔力を費やした強化魔法が掛けられている様であるが、娘の防御を貫けるほどの重さがない。

 娘は肩透かしを食らった感じを受けたが、それも致し方ないことだと考えた。
 身体能力の差は歴然で、魔力の総量にも純然たる格差があるのである。
 むしろ、敵は人間という種族にしては、なかなか頑張った方であろう。

 娘は右手に成していた剣を振って消し、敵と同様に拳の強化に魔法を行使する。
 だけでなく、身体全体にさらなる強化を行うことで、全身に眩い魔力を纏った。
 特に姿勢を低く構えず、一見すると無警戒に、敵に向かって歩み寄る。

「そろそろ、終わりにします」

 言葉が届いた瞬間、地が爆ぜる音と共に娘の姿が消えた。
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