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六章「闘争」

253話

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 それは視認すら難しい、不可避の魔法であった。
 雷撃の魔法である。
 その形は龍を模し、銀の閃光となって娘を飲み込んだ。

 雷撃とは、電撃系統に属している高位の魔法である。
 事前に魔力を十分に練る必要があり、単独で発動することのできる魔法使いは、ましてや戦闘中に行使する者など、まずいない。
 しかし、発動してからの攻撃速度は圧巻の一言で、他のどんな魔法をも圧倒的に凌駕し、光速にすら達するほどである。

 それを、娘はどう感知したのであろう。
 彼女は閃光に飲まれるその直前、確かに、雷撃たる龍の牙を両手で押さえようと反応したのである。

 老人は限りなく圧縮された時の中で、自身最速の魔法に応じようとする敵の様を目の当たりにした。
 信じられない光景が、彼の心にこれ以上ない衝撃と、感動を与えていた。

 ――これほどの存在だったか!

 しかし老人の身体は、その思いとは裏腹に最適に動作する。
 雷撃魔法は伊達ではない。
 最速にして回避不能な一撃は、相手の挙動を強制的に停止させる痺れと痛みとを与える。そしてそれは実際に、娘の思考判断と行動の時間を確実に奪っていることが見て取れた。

 その僅かな時間を使って、次の魔法を行使する。
 元より、一撃で倒せるとは思っていない。
 一撃で、という願望はあったが、敵の無害そうな容姿からは想像もつかないほどの、恐怖すら感じさせる存在感が、老人の思考から完全に油断を消し去っていた。
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